“SV”の称号をもったランボルギーニ アヴェンタドールをスペインで試す 後編|Lamborghini
Lamborghini Aventador LP 750-4 SV(Superveloce)
ランボルギーニ アヴェンタドール LP 750-4 SV(スーパーヴェローチェ)
SV”の称号をもったアヴェンタドールをスペインで試す 後編
“スーパースピード”を意味する、ランボルギーニ伝統の称号がついに「アヴェンタドール」にも与えられた。6.5リッターV12自然吸気エンジンから生み出される750psものパワーを、F1スペインGPの舞台でもあるカタルーニャ サーキットで大谷達也氏が試す。最新鋭ファイティングブルのパフォーマンスや如何に。
Text by OTANI Tatsuya
スタンダードのアヴェンタドールとはまったく別種
では、長らくお待たせしたが、サーキット走行を通じて得られたSVの印象をリポートすることにしよう。
ランボルギーニのサーキット試乗は、インストラクターがドライブする先導車をメディア関係者が追いかける、いわゆる“カルガモ方式”をとる。先導車と試乗車のあいだはトランシーバーでつながっており、ドライビングに対するアドバイスや安全にかんする注意が随時受けられる。
ただし、カルガモ走行の欠点は、通常3〜4台が同時に走るメディア関係者のなかにドライビングスキルの低い者が混じっていると、途端に全体のペースが落ちて試乗車の限界を試せなくなるほか、そもそもインストラクターの個性によってゆっくりしか走らせないケースもある。
今回、私にとって奇跡的に幸運だったのが、チームを組んだメディア関係者のスキルが抜群に高かったことと、インストラクターがわれわれのことを信じてぐいぐいと引っ張っていってくれた点にあった。おかげで、ピットレーンを出てふたつめのコーナーで、私はSVにカウンターステアを当てなければならなかったのだ。
こう書くと、SVのコーナリング性能が低いかのように思われるかもしれないが、もちろんそんなことは決してなく、まだコースレイアウトを理解できていない私が適切なライン取りをできていなかったことと、SVの特性を把握しきれていなかったことがその最大の原因である。
その証拠に、インストラクターが乗るのはスタンダードなアヴェンタドールで、しかも2名乗車にもかかわらず、このときのコーナリングフォームは安定しきったもの。私がカウンターステアを強いられたのは、無駄の多い雑なドライビングのために、本来の限界速度よりかなり低い次元でタイヤのグリップを失わせてしまったからにほかならないのである。
それにしても驚くべきは、このSVがスタンダードのアヴェンタドールとはまったく別種の軽快さを感じさせることにある。たしかにステアリングの操舵力も軽いが、切ったあとでノーズの向きが瞬時に変わるのも、ボディがまるで200kgくらい軽くなったのではないかと思わせる理由のひとつだった。
もっとも、実際の車重は前述のとおり50kgしかちがわない。この辺はLDS(ランボルギーニ ダイナミック ステアリング)とMRS(マグネト レオロジカル サスペンション)の採用に伴い、サスペンションのセッティングを大幅に見直している点が効いているのだろう。
感覚的にスプリングは20パーセントほど硬くされているように思われたが、状況によってダンパーが柔軟に減衰力を変化させるため、足回りに妙に突っ張った感覚がなく、サスペンションストロークを有効に使っているように感じられたことも好印象だった。
Lamborghini Aventador LP 750-4 SV(Superveloce)
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スロットルペダルを床まで踏み込む
はじめて走るカタルーニャ サーキットは、かつてF1チームがエアロダイナミクスを開発する場としてもっとも好んだことからもわかるとおり、大きく回り込んだ中高速コーナーが多い。コーナリング性能を見極めるうえでは非常に都合がいいが、ひとつまちがえれば大事故を起こしかねないコースでもある。そんなコースを、わがインストラクターはぐいぐいと飛ばしていく。私は必死になってこれを追いかけていった。
幸い、全般的にはギアレシオが高くなっているはずのステアリングは可変制御式にもかかわらず違和感を感じさせることがなく、むしろ実に素直なレスポンスを示してくれる。ステアリングを通じて感じられるインフォメーションも、パワーアシストが純電気式とは思えないほど情報量が豊富。おかげでフロントのグリップが抜けていく様子が細大漏らさず伝わってくるので、ターンインではアンダーステアに転じる直前まで攻めることが比較的容易にできた。
だから、進入時の速度さえ見誤らず、ていねいなステアリング操作を心がければ、まずはターンインを確実に終えて安定した姿勢のままクリッピングポイントに近づいていける。このとき、丁寧にスロットルペダルを操作すれば微妙な範囲のアンダーステア、オーバーステアはコントロールできるので、ラインの微調整も可能。
とはいえ、これは明らかに無駄な操作なので、そうした修正作業に頼っているとインストラクターには引き離されていくばかりとなる。それよりも、ターンインは正確なドライビングを一発で決めたほうがはるかに速く走れる。
そうやってアペックスをクリアできたら、もうあとはスロットルペダルを床まで踏み込むだけでいい。するとハルデックスカップリングによる4WDシステムと高度なESP制御が750psのパワーをまったく無駄にすることなく路面へと伝えていく。これはもう、まったくのフールプルーフである。
かといって、ドライバーにコントロールする余地が残されていないわけではない。最大横Gがかかったときにスロットルで走行ラインが微調整できることは前述したとおりだし、低速シケインへのアプローチでは、強めのブレーキを残したままステアリングを軽く切り込めば自然とリアがアウト側に回り込んでニュートラルステアのまま進入することもできる。4WDとESP制御によるスタビリティだけでなく、振り回す楽しみも味わえるのだ。
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相当速い
そうやってSVの限界が把握できるようになった頃にはコースレイアウトもおおよそ頭に入って、自然とペースは上がっていく。この日は、4ラップを4セット走れることになっていたが、2セット目を終えたときには、私たちのチームはかなり速く走れるようになっていた。
じつは、私たちを含め計4チームが同時にコース上を走っていたのだが、1ラップ中に2チームを追い越すなんてことがわりと頻繁に起きるようになった。反対に抜かされたことは一度もない。どうやら、私たちのチームだけが圧倒的に速いようである。
その手応えはインストラクター自身も感じているようで、1セットを走り終わる度にトランシーバーで「君たちは本当のプロフェッショナルだ。素晴らしい!」などと賞賛の言葉を贈ってくれたり、クルマから降りれば硬く握手を交わすようにもなった。試乗会でインストラクターと心を通わせるなんて経験は、滅多にできるものではない。
さらに、3セット目がはじまる前には私たちのチームに属する3人のドライバーに招集がかかり、「いいか、私たちのペースはすでに相当速い。注意力を途切らせることなく、ていねいなドライビングに努めて欲しい!」なんて訓示されるほど。この頃になるとライン取りも把握してドライビングの精度も上がり、無駄な修正をほとんど行うことなく走行できるようになっていた。
そして最後の4セット目。インストラクターが操るスタンダード アヴェンタドールの直後につけていた私は、驚くべき光景を目にした。なんと、SVに乗る私たちがそれまではテールスライドさせながら必死に追いかけていたものが、今度は私たちをじゅうぶんにリードするため、インストラクター自身がスタンダード アヴェンタドールをスライドさせながら走らせるようになったのだ。
つまり、インストラクター自身もクルマの限界で走らなければならないほど、私たちのペースは上がっていたのである。
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SVの限界に迫る
私もよく原稿のなかで“テールスライド”や“オーバーステア”などと偉そうに書いているが、ペースがおなじであればそんなことをさせずにクルマを走らせられるほうがドライバーとしての技量は高い。だから、私などよりはるかにスキルが高いインストラクターたちが、クルマを滑らせながら走っている姿などこれまで見たことがなかった。
私にとっては限界ギリギリでも、彼らは余裕綽々。つまり、クルマをテールスライドさせているといっても、それは私たちドライバーが限界を迎えているだけで、クルマ自身の限界はもっと先にあるのが通常の姿なのである。
ところが、今回はインストラクターの走らせるアヴェンタドールが限界を越えていた。その点を指摘すると、インストラクターは「いや、タイヤのライフがもう終わっていてね」と冗談めかして言い訳したが、私たちが乗るSVのタイヤだってそれなりに消耗していたはず。
その点からいえば、私たちはスタンダード アヴェンタドールの限界を越えた領域でSVを走らせていたことになる。そしてそれは、レーシングドライバーから見れば中学生程度のスキルしか持たない私でさえ、SVの限界に迫ることができた事実を示している。
それはなによりも、SVのインフォメーションの豊富さ、コントロール性の高さ、そしてスタビリティの優秀性を物語っているといえる。さらにいえば、そのうえで官能性さえも味わえる。しかも、0-100㎞/h加速2.8秒、最高速度350km/h以上という超ど級のパフォーマンスを持ち合わせているのだ。
先日試乗したフェラーリ「458 スペチアーレ」もそうだったが、クルマが官能的で速いのはもちろんのこと、スキルがさほど高くないドライバーでも比較的安全に、そして安心して限界的速度に近づけるスーパースポーツカーが増えてきたような気がする。
ウラカンにもその傾向は見られたが、アヴェンタドールSVでその路線はさらに明確になったと思う。
ただ高性能なだけで、それを使い切れないスーパースポーツカーでは宝の持ち腐れ。そんな時代の到来を、アヴェンタドールSVをバルセロナで走らせて再確認した次第である。
Lamborghini Aventador LP750-4 Superveloce
ランボルギーニ アヴェンタドール LP750-4 スーパーヴェローチェ
ボディサイズ|全長 4,835 × 全幅 2,030 × 全高 1,136 mm
ホイールベース|2,700 mm
トレッド 前/後|1,720 / 1,700 mm
最小回転半径|6.25 メートル
重量|1,525 kg
重量配分 前:後|43 : 57
エンジン|6,498 cc 60°V型12気筒 DOHC 48バルブ
圧縮比|11.8±0.2 : 1
ボア×ストローク|95 × 76.4 mm
最高出力| 552 kW(750 ps)/ 8,400 rpm
最大トルク|690 Nm/ 5,500 rpm
最高エンジン回転数|8,500 rpm
トランスミッション|7段ISR(シングルクラッチ セミオートマチック)
駆動方式|4WD
サスペンション 前|プッシュロッド システム付きホリゾンタル磁性流体ダンパー
サスペンション 後|プッシュロッド システム付きホリゾンタル磁性流体ダンパー
ブレーキ 前|φ400×38mm ベンチレーテッドディスク
ブレーキ 後|φ380×38mm ベンチレーテッドディスク
タイヤ 前/後|255/35ZR20 / 355/25R21
最高速度|350 km/h以上
0-100km/h加速|2.8 秒
0-200km/h加速|8.6 秒
0-300km/h加速|24.0 秒
100-0km/h減速|30 メートル
燃費(NEDC値)|16.0 ℓ/100km(およそ6.25km/ℓ)
CO2排出量|370 g/km
燃料タンク容量|90 リットル