Talk Session|クルマの近未来を語る座談会 後編
Talk Session|ジャーナリスト4名による座談会 後編
201X年、不確かなクルマの近未来を語る
IT業界、自動車業界を代表する4名のジャーナリストとともに座談会を開催。これからクルマはどのような進化を遂げていくのか。前回は軽自動車を中心に日本のクルマの未来を語っていただいたが、後編となる今回は、海外のクルマ事情についてのお話。
Photographs by ABE MasayaText by SHIOMI Satoshi
ますます厳しくなるCO2規制
小川フミオ(以下小川) 直近だとマツダ「デミオ」がよかったな。特にMTは走らせて楽しかったね。ただスポーティーすぎるとは思ったのも事実。マイナーチェンジした「CX-5」でも感じたんだけれど、どうしてマツダはあんなに足をかたくして過剰なスポーティーさを演出するんだろう?
塩見 智(以下塩見) すごく簡単に言うと、そういうのが好きなお客さんに特化した戦略を立てているということではないでしょうか。マツダの開発者に聞いた話では、グローバルで年間150万台前後を売る商売をキープしたいんだそうです。200万台、300万台を目指さない。そこを目指すと、得意じゃないクルマづくりもせざるを得なくなって、おかしくなる可能性があるからと。バブル時代に拡大路線を選んで大失敗したことで得た教訓なのかもしれません。
小川 そういうことか。ただポルシェ「マカン」はスポーティーでありながらすごくしなやかだったので、CX-5はどうして? と思ったな。デミオはディーゼルとMTの組み合わせがよかった。
渡辺 日本メーカーのなかでは一番メッセージが明瞭ですよね。世界の販売台数の2パーセントを占められればよいという。だからハイブリッドには見向きもしません。
塩見 マツダ「アクセラ」のハイブリッドはトヨタから供給を受けているわけですからね。
小川 でもそれでどんどん厳しくなるCO2規制を乗り切れるのかな?
渡辺 とにかく内燃機関でいけるところまでいくという考えですよね。究極はHCCI(ガソリンを自着火させることでCO2削減とクリーンな排気を両立しようという技術)の実用化を目指しているのでしょう。
小川 スバルは? 個人的には、モデルの見分けがアストンマーティン並みに難しいと感じてる(笑)。あそこも4WDを核としたスポーティーモデルという戦略か。じゃ三菱は?
渡辺 三菱は完全に海外で儲ける会社というイメージになってきましたね。マツダも決して安穏としていられる状況ではないと思います。よくできたディーゼルエンジンのおかげで販売好調なわけですが、軽油というのは日本では政策的に価格を低く抑えられた燃料なので、何かの拍子にそれがひっくり返った場合、一緒になってそれに反対してくれるメーカーがないのはリスクです。スポーティーな味付けも少しやりすぎというか、考えすぎに思える時もありますね。社内にも、少し戻したほうがいいんじゃないかという考えの人もいるようです。
小川 なべちゃん(渡辺)の印象に残ったモデルやブランドは?
渡辺 いろいろありますが、プジョー「308」はよかったですね。素直でストレートなクルマで。PSA(プジョー・シトロエン)は自動運転というかオートノマス系の技術については完全に遅れをとっていますが、そうした技術でトップグループにいなければ勝負できないかというと、そうではありません。自動運転が是か非かなんて言ってる市場は一部であって、これからクルマが普及する市場もまだたくさんあるんですよね。だから彼らはクルマ本来の役割を果たすための技術を磨くことに、ほぼ専念しているんだと思います。
TALK SESSION:クルマの近未来を語る座談会 後編
201X年、不確かなクルマの近未来を語る(2)
来たるべき完全自動運転時代
塩見 自動運転の話が出ましたが、自動運転のレベルの定め方として、NHTSA(米国運輸省交通安全局)が定めたものがしばしば用いられます。
『レベル0/自動化なし』常時、ドライバーが運転の制御(操舵、制動、加速)をおこなう。
『レベル1/特定機能の自動化』操舵、制動又は加速の支援を行うが操舵・制動・加速のすべてを支援しない。
『レベル2/複合機能の自動化』ドライバーは安全運行の責任を持つが、操舵・制動・加速すべての運転支援をおこなう。
『レベル3/半自動運転』機能限界になった場合のみ、運転者が自ら運転操作をおこなう。
『レベル4/完全自動運転』運転操作、周辺監視を全てシステムに委ねるシステム。
この5段階でいうと、最先端の市販車はレベル2に達し、レベル3に近いのもあるという段階です。レベル3まではわりと早期に普及するんじゃないかと想像できるのですが、果たしてレベル4の完全自動運転時代が、すいぶん先のことであるにせよ、くるのでしょうか?
小川 メルセデス・ベンツが今年のCESで発表したコンセプトカーの「F015」は技術的にはレベル4の完全自動運転を可能としているようだね。メルセデスは市販となると、クルマが歩行者などの他者に対して「私(車両)はあなたを認識していますよ」と知らせる手段を考えなくてはならないと言っているよ。
渡辺 それは単純な路車間通信とは異なる“アイコンタクト”の必要性みたいなものですね。
石川 温(以下石川) そこにスマホを活用できないかと模索している人たちはいますね。いまやほとんどの人がスマホを持っているわけですが、現在のほぼすべてのスマホにはクアルコム社製のチップセットが入っているんです。クルマにもそのチップを載せて車外のスマホと通信させれば、クルマが陰に隠れた人間をも認識できるようになるんじゃないかと。
塩見 現在、クルマはドライバーの目視のほかに、レーダー、レーザー、カメラ映像で他者を検知していますが、それにくわえ、周囲の人がもつスマホの存在を検知しようとしているわけですね。
TALK SESSION:クルマの近未来を語る座談会 後編
201X年、不確かなクルマの近未来を語る(3)
自動車メーカーがグーグルに抱く危機感
塩見 しかし、そうやって技術的にクリアした後で、法整備が必要となってきますね。要するに事故が起きたらそれはだれのせいなのかという。運転していないドライバーのせいなのか、クルマを作ったメーカーのせいなのか。道路管理者のせいなのか。
渡辺 トヨタの先進安全技術のトップに質問したら、はっきりと自己責任、つまりドライバーの責任という考えだと言っていました。
塩見 現実的にはそうするしかないですよね。
小川 仮に自動運転しているクルマに責任をもたせるとなると、それはもうシンギュラリティの問題になってくるね。コンピューターが人間のコントロールを超えることになっちゃうわけだから。
塩見 なんだか怖い話になってきましたね。
渡辺 完全自動運転の手前の時代が続くにせよ、そうした技術に最も積極的なのがメルセデス・ベンツ、VWグループの特にアウディ、それにボルボ、トヨタあたりでしょうか。BMWはステアリングとABCペダルは永遠にドライバーのものと考えているように見えますね。
塩見 アウディのRS7が完全自動運転でホッケンハイムを激走して240km/h出したってのが少し前に話題になりましたね。
渡辺 あれなんかもそうだろうと思うけど、結局、自動車メーカーが自動運転のために何が一番欲しいかというと、超正確で詳細な地図だって言うよ。
小川 細かい勾配もわかるようなね。
渡辺 それさえあれば、トレースさせる技術はあるわけだから。現状そうした情報を一番もっているのはどこかというと、グーグルなんだよね。その点でも自動車メーカーがグーグルに危機感を抱いているんじゃないかな。
石川 アップルもグーグルのストリートビューカーのようなものを走らせ始めて、道路状況を把握しようとしているという噂もあります。
TALK SESSION:クルマの近未来を語る座談会 後編
201X年、不確かなクルマの近未来を語る(4)
海の向こうのラグジュアリーカー事情
塩見 話題はかなり未来のほうへ進んでいきましたが、ここでいったんむりや話題を変えます(笑)。スーパースポーツやラグジュアリーカーの方面で印象に残っているクルマがありますか?
渡辺 ランボルギーニ「ウラカン」はよくできてましたね。これがランボルギーニかと思うほどに機械として優れていた。本来はプラットフォームを共有するアウディ「R8」がこうあるべきだと思うんだけど、こうなると次期R8の生きる道があるのか心配になってくるよ。
小川 メルセデス・マイバッハ「Sクラス」は非常によかったですよ。当然といえば当然ですけど。前作に比べて少し価格帯を下げて、2,000万〜3,000万円あたりのクルマに生まれ変わりました。ベントレー「フライングスパー」あたりと迷う価格帯。つまり5,000万円クラスのロールス・ロイス「ファントム」あたりとは若干勝負をずらしたわけ。ただ国家元首クラス向けの6枚ドアのプルマンがジュネーブショーで発表されたね。
渡辺 ドイツはラグジュアリーカーが得意ですけど、ウルトララグジュアリーとなるとイギリスのほうが得意ですよね。確かファントムの生産ラインは1台出来上がるのに2時間半かかるらしいですよ。ちなみにトヨタ車はだいたい55秒くらいですけどね。そういうことをやらせたらイギリスなのかな。
塩見 もはやラインと呼びにくいですね。そういう絶対的な性能や素材を超えたヒストリーやフィロソフィーの部分で、ドイツにはどうにもならない部分があるのかもしれませんね。
小川 ま、ロールスもドイツ企業なんだけどね。
塩見 確かに。リムジンの話を聞いて思い出したんですが、レンジローバーのロングホイールベースというのが追加されました。変わったクルマで、スタンダードホイールベースのほうが見た目のバランスがとれていると思うのですが、妙に印象に残るんですよね。ポルシェはいかがでしょうか?
渡辺 ポルシェはPHVに積極的だよね。「パナメーラ」にも「カイエン」にもラインナップしている。メルセデスも「Sクラス」にPHVを追加した。聞けば、日本の首都圏はこの狭い面積に3,000万人くらいが住む密集地で、高額なPHVを買う経済力のある人も多い。だからメーカーにしてみれば、過密な都市部で次世代車がどういう使われ方をするかを確かめる理想的な市場なんだって。
塩見 14年にはBMW「i3」と「i8」が登場しました。i3はピュアEVとレンジエクステンダー付きEVがありますが、その販売比率は欧州では8割がEVで2割がレンジエクステンダー付きEV、日本は割合が逆だそうです。
渡辺 向こうはそもそもEV1台で済ませようという考えがなくて、EVはコミューターとして割り切るからEVの航続距離に対する要求がそれほど高くないよね。
塩見 日本は1日の平均走行距離は短いはずですが、特有の“いざというときのため”という考えが強いですからね。
TALK SESSION:クルマの近未来を語る座談会 後編
201X年、不確かなクルマの近未来を語る(5)
アップデートできるクルマの登場
塩見 さて話題は尽きませんが、そろそろまとめに入りたいと思います。
渡辺 テスラもあたらしく参入してきた自動車メーカーであり、グーグルももしかしたら自動車業界にもっと深く参入しようとしているかもしれないんですが、自動車メーカーからしたら、これらはまったく意味合いのちがう存在に映っているんだと思います。テスラのやっていることを脅威だと感じている自動車メーカーは少ないけれど、グーグルが本気で参入してきたら内心やっかいだと考えるメーカーは多いんじゃないですかね。
グーグルの場合、クルマをやるならクルマと同時に街単位でインフラ整備も合わせてやってきそうじゃないですか? 地図をもっているし、世界中の人が自社のOSを使ったスマホを使っている。そうなるとクルマを開発するだけでなく、クルマ社会そのものを構築してきますよ、きっと。そうなると自動車メーカーは果たして太刀打ちできるかどうか……。
石川 確かにグーグルなら、いわゆるビッグデータをもっているわけで、例えばどこそこの、どの時間帯にはこれくらいの交通量があるということもすべて把握できるわけですから、クルマ単体ではなく街づくりも含めたプラットフォームでやってくるでしょうね。
塩見 逆にグーグルも時々端末を開発して売ったりしますけど、彼らのサービスほどには売れないですよね。プロダクトを作って売るのは意外に下手というか。
石川 プロダクトに関してはどこまで本気かわかんないんですよね。すぐやめたりもしますし。だから自動車メーカーもガッツリ付き合うのが怖いっていうのはあるかもしれません。あとは自動車メーカーとIT企業との関係で感じるのは、自動車産業は少なくとも数年単位でクルマだったり技術だったりを開発するのに対して、IT企業は1〜2年で製品やサービスを開発していくんです。その差をどう埋めるかというのは連携するうえでクリアしなくてはならない課題ですよね。
小川 その点は僕もメルセデス・マイバッハの試乗会で開発者に「いろんなITデバイスが備わっているが、3年後に古くなったらどうするの?」と質問したんです。そしたら彼らは「アップデートできる」と言っていたけれど、本当にできるのかな。
塩見 例えば、いまiPhone5を使っているというと古いみたいに感じるけれど、わずか1年前ですからね。去年買ったクルマが時代遅れとか言われたらたまったもんじゃありません。iPhoneも新型が出るたびに、時には違約金払ってまで新型に買い換えるのが楽しかったけれど、2回か3回やったら疲れてきましたし。
小川 1年は極端だけど、クルマも徐々にそうなってはきているよね。ドッグイヤーに巻き込まれるというか。クルマとITがより深くうまく連携するにはそのあたりを克服しなくてはならないのかもしれないね。
塩見 すでに切っても切れない関係にはなってきていますが、その連携、あるいは融合がどのように進むのかということは未知数。ただし今後の一番の関心事であることは間違いないですね。皆さん、本日はどうもありがとうございました。
一同 ありがとうございました。
小川フミオ|OGAWA Fumio
自動車とカルチャーを融合させた自動車誌「NAVI」編集部に約20年間勤務。編集長を務める。「モーターマガジン」、グルメジャーナリズムの「アリガット」の編集長を歴任し、現在はライフスタイルをカバーするフリーランスのジャーナリストに。「GQ」(コンデナストジャパン)「UOMO」(集英社)「LEON」(主婦と生活社)「ENGINE」(新潮社)など、多くのマガジンやウェブサイトに寄稿。
渡辺敏史|WATANABE Toshifumi
福岡県生まれ。企画室ネコ(現在ネコ・パブリッシング)にて二輪・四輪誌編集部在籍ののちフリーに。「週刊文春」の連載企画「カーなべ」は自動車を切り口に世相や生活を鮮やかに斬る読み物として人気を博し、連載終了後にCG BOOKより上下巻で書籍化された。このほか、「MEN’S EX」「UOMO」など多くの一般誌でも執筆する。
石川 温|ISHIKAWA Tsutsumu
東京都出身。「日経TRENDY」にて編集記者として活躍。当時、爆発的な普及をはじめた携帯電話を得意分野とし、後に携帯ジャーナリストとしてフリーに。またテレビ東京系「TVチャンピオン」ケータイ電話通選手権に出場し、準優勝に輝くという経歴を持つ。現在は、さまざまなテレビ番組から雑誌まで、幅広い媒体で活躍する。
塩見 智|SHIOMI Satoshi
岡山県岡山市出身。関西学院大学卒業後、山陽新聞社入社。地方紙記者となるも自動車雑誌編集者への憧れを捨てきれず上京。「ベストカー」編集部、「NAVI」編集部を経て、2010年よりフリーエディター/ライター。