特集|ロースターは燃えているか?|第2章「マイ・ロースターを求めて」
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2015年2月16日

特集|ロースターは燃えているか?|第2章「マイ・ロースターを求めて」

特集|ロースターは燃えているか?

コーヒーは焙煎で選ぶ時代へ

第2章 「マイ・ロースターを求めて」(1)

第1章でロースターの魅力を知ったあなたは、もうお気づきだろう。「世界中のコーヒー豆×焙煎士」の出会いによって、数えきれないコーヒーの味わいが生まれることを。ここでは、都内でロースターを備える6軒のコーヒー店をピックアップする。コーヒーに情熱を注ぐ焙煎士が、こだわりのロースターで、選りすぐりのコーヒー豆を焼く店ばかりだ。焙煎後の飲みごろの豆を買い、挽きたてのコーヒーを飲みながら、自分好みのコーヒーを探ってみよう。

Interview & Text by FUJII Aki Photographs by JAMANDFIXEdited by TANAKA Junko (OPENERS)

第2章 「マイ・ロースターを求めて」

コーヒーはライフスタイルの一部

感度の高い男女が再注目している、千駄ヶ谷。話題のエリアで一息つくのにピッタリな、自家焙煎コーヒーとパイの店

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第2章 「マイ・ロースターを求めて」

ブレンドの奥深い世界へ

焙煎度合による味の違いからブレンドの奥深さまで、コーヒーの魅力を再発見できる“ロースター アトリエ”

第2章 「マイ・ロースターを求めて」

毎日通いたいロースタリーカフェ

コーヒー初心者から上級者まで、きちんと目線をあわせてコーヒーの面白さを教えてくれる、ロースタリーカフェの理想のカタチ

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第2章 「マイ・ロースターを求めて」

こだわりから生まれたコーヒースタンド

コーヒー器具や商品、陳列の仕方まで、コーヒーへの情熱がすべてに行き届いている、小さな“豆屋”さん

第2章 「マイ・ロースターを求めて」

技術と知識が生み出すオンリーワンの味

40種類もの焙煎前の生豆をストック。好きな生豆を好きなような焙煎してもらえる“オンデマンド焙煎”を実現する

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第2章 「マイ・ロースターを求めて」

東京のコーヒーカルチャーを牽引

地域に根付いたコミュニケーションの場になり、東京のあらたなコーヒーのスタンダードを発信しつづける

特集|ロースターは燃えているか?

コーヒーは焙煎で選ぶ時代へ

第2章 「マイ・ロースターを求めて」(2)

1. THE DECK COFFEE&PIE(千駄ヶ谷)

コーヒーはライフスタイルの一部

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肩の力を抜きつつ、最新のトレンドが楽しめるとあって、感度の高い男女が再注目している、千駄ヶ谷。話題のエリアで一息つくのにピッタリなのが、ライフスタイルショップ「Free Peddler Market(フリー ペドラー マーケット)」に併設された、自家焙煎珈琲とパイの専門店「THE DECK COFFEE&PIE(ザ・デック・コーヒー アンド パイ)」だ。

開放的なウッドデッキに加え、温もりのあるレンガ壁、味わい深いユーズド家具など、ここが日本だということを忘れてしまいそうな店内では、特注の大型ロースターがどっしりと存在感を放ち、コーヒーがライフスタイルの重要な一部であることを再認識した。

巨大なロースターを操る焙煎士、宮下さんがドリップで淹れてくれた、個人的にも一番好きだという豆は、焙煎後1日寝かしたエチオピアの「ウォッシュドモカ」(Sサイズ420円)。

「エチオピアのなかでもクオリティが高いとされる、イルガチェフ地方のもので、華やかな香りは、アフリカ東部の豆の特徴です。コーヒーは冷めるとどんな豆でも酸味がでてきますが、この豆は紅茶のようなニュアンスの酸味なので、冷めても飲みやすいと思います」

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冬はしっかりした苦みを、と表現されたブレンド(Sサイズ370円)や、コクと苦味が際立つインドネシアの豆「マンデリン レイク タワール」(Sサイズ420円)など、季節に沿ったおすすめも

せっかく、ロースターがあるお気に入りのお店を見つけることができたら、次はどうやって、自分好みのコーヒーを伝えたらよいか?

「苦味と酸味の好き嫌いを伝える以外では、飲むシチュエーションも大事。朝の目覚め用であればしっかりとした味わいを、誰かと飲む用であれば冷めても美味しいタイプの豆を選んだり、デザートと一緒に楽しみたい人には、甘さが引き立つ苦味のあるコーヒーをおすすめしたりもします」

また、遠慮されがちだが、“苦手な味を伝えること”も、とても有効だとか。「コーヒーは、生活に密着している飲み物ですし、ワインのようなルールもない。『こういうのは苦手』という声を聞いて、僕らも次につなげられるので、どんなアプローチの仕方でもうれしいです」

取材中も、「コーヒーのことをよく聞いてくださるお客様が来店されたので、自分が接客してきていいですか?」と喜んでお客様のテーブルへ足を運んでいた宮下さん。

「どんなコーヒーが好きなのか?」「どんなコーヒーを飲ませてくれるのか?」と、お互いを探るべく、徐々に縮まっていく距離感がとても心地よく感じるはずだ。

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オリジナルのフタ付きサーモマグで提供されるので、寒い冬の日も冷めにくい。写真中は「デミグラス ハンバーグ ポットパイ」(600円)

<焙煎士>
宮下敦|MIYASHITA Atsushi
2008年、奈良「Bar Cauda(バールカウダ)」にて、代表・バリスタ杉坂氏に師事。2013年、SCAJ認定コーヒーマイスター取得。2014年、「THE DECK COFFEE&PIE」にて焙煎士(バリスタ)として着任。

<焙煎機のある店>
THE DECK COFFEE&PIE
営業時間|平日 10:00~20:00、土曜・日曜・祝日 11:00~19:00
定休日|不定
住所|東京都渋谷区千駄ヶ谷3-53-17 1F Free Peddler Market内
Tel. 03-3478-6855
http://fpm.bz/

<編集メモ>
・常時おいている珈琲豆 8種類
・珈琲豆の価格帯 670円~820円/100グラム
・店内での試飲 不可(飲食メニューあり)

シングルを理解したらブレンドの奥深い世界へ

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コーヒーは焙煎で選ぶ時代へ

第2章 「マイ・ロースターを求めて」(3)

2. CAFE FACON ROASTER ATLIER(代官山)

シングルを理解したらブレンドの奥深い世界へ

中目黒で人気を博す「CAFE FACON(カフェ ファソン)」のオーナー兼焙煎士・岡内さんが昨年、「CAFE FACON ROASTER ATLIER(カフェ ファソン ロースター アトリエ)」と題して代官山にも出店。1階は奥に焙煎所、店頭はコーヒースタンドとしてカップコーヒーの販売や豆の購入もでき、2階にエスプレッソバー、3階にカフェスペースと、あたらしいスタイルを打ち出した。

中目黒店では「フジローヤル」の直火式のロースターを使用するのに対し、こちらは「ギーセン」の半熱風の6キロ焙煎機が備えられている。

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オランダのメーカー「ギーセン」のロースターは、テクニックを要するため、経験値の高い焙煎士向け

「代官山店は一般のお客様へ販売をしつつも、卸しの拠点にもなるため、発送してから1カ月くらい飲みごろがつづくように、鋳物でできている部分が多い、ギーセンの焙煎機にしました。蓄熱性が高いため、豆の芯まで火が入りやすく、味のピークがより長くつづきます。また、味がクリアに出るのが特徴なので、香味の違いを前面に押し出してみたりして、中目黒店のロースターと使い分けています」

1日に30キロほどを10~15回にわけて焙煎しているため、昼間の時間帯はほとんど代官山店にいるという岡内さん。

「店頭では、気になった豆を飲み比べて購入することも可能です。また、焙煎の違いによって、15種類ほどの生豆を常時20~30種類の焙煎豆にして販売しているので、焙煎度合の異なる同じ豆を飲み比べて、味の変化も楽しめます」

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豆から抜けるガスが膜を作り、蓋のような役割で香りや旨みを閉じこめている、理想のドリップの図。岡内さんのテクニックを直接見ることができるのも、「ロースター アトリエ」ならでは

代官山でのここ最近の傾向をうかがうと、「エチオピア イルガチェフェ」のナチュラル(750円~/100グラム)など、個性的なキャラクターをもつコーヒー豆が人気だったり、ブレンドの面白さを知っている人も増えてきたという。

「ブレンドは、再現するために、味がまとまったときの配合が重要になりますが、そのときの“味の幅”をきちんと覚えておき、同じ豆が手に入らなかったり、豆の種類が変わっても、一度決めた“味の幅”内に合わせていくスキルが必要です」

ファソンのブレンドは、個別で焙煎した豆をあとから混ぜるアフターミックス方式を採っているため、その場で「苦味をもう少し」とか「香りを重視したい」などの要望を伝えれば、割合を調整してくれて、自分だけのオリジナル・ブレンドを作ってもらうことも可能だ。

<焙煎士>
岡内賢治|OKAUCHI Kenji
1995年、「カフェ・コリーヌ・ド・レスト」に店長として勤務。2000年「カフェ・アンセーニュ・ダングル」自由が丘店にて修業。2002年、同原宿店店長に就任。2008年、オーナー兼焙煎師として独立。東京・中目黒に「CAFE FACON」を開業。2014年、代官山に「CAFE FACON ROASTER ATLIER」と「CAFE FACON COFFEE STAND」を同時オープン。

<焙煎機のある店>
CAFE FACON ROASTER ATLIER
営業時間|10:00~19:00、土曜・日曜・祝日11:00~19:00
定休日|なし
住所|東京都渋谷区代官山町10-1
Tel. 03-6416-5858
http://cafe-facon.com/

<編集メモ>
・常時おいている珈琲豆20-30種類
・珈琲豆の価格帯 640円~800円/100グラム
・店頭での試飲 可(無料)

毎日通いたいロースタリーカフェ

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コーヒーは焙煎で選ぶ時代へ

第2章 「マイ・ロースターを求めて」(4)

3. AMAMERIA ESPRESSO(武蔵小山)

毎日通いたいロースタリーカフェ

「AMAMERIA ESPRESSO(アマメリア エスプレッソ)」オーナー兼焙煎士の石井さんが、武蔵小山の住宅街の一角に店を構えたのが2010年。そのころ、都内でもロースターとエスプレッソマシンを両方備える店は少なかったという。いまでは1日に15回くらいの焙煎をおこなうというロースターは、国内でも2~3%のシェアという希少な「ラッキーアイクレマス」の焙煎機だ。

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開店して4年。誰もがふらっと入りやすい広い間口に、ホスピタリティ溢れるスタッフが迎えてくれる

ガラス張りの正面から差し込む光に調和するうぐいす色のロースターは、穏やかな口調の石井さんをはじめ、スタッフの方々のやわらかい雰囲気にピッタリとはまっている。“近くにあったらいいな”と思えるロースタリーカフェの理想のカタチのように思えた。

「当時、バリスタとして働いていたカフェで卸してもらっていた焙煎後の豆は、美味しいときとそうでないときがあって、美味しさが安定しないのはどうしてだろう、といろいろ調べはじめたことが(焙煎機に興味をもった)きっかけでした。大手メーカーでは、どうしてもエイジングにバラつきが出てくるので、それをコントロールする必要がある。自分でも職人気質なところがあるとは思っていたのですが、焙煎機を入れるなら、豆を売る専門店で勝負したい、と自然に思うようになっていました」

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お店ではコーノ式のプラスチックのドリッパーを採用する石井さん。「90度のお湯で抽出していますが、陶器のほうが冷めてしまいやすい」のだとか

そんなコーヒーへの情熱は、“せっかく飲んでもらうなら美味しく飲んでもらいたい”という気持ちにつながっていく。扱う豆はすべてスペシャルティコーヒー。コーヒー豆を購入する際、たとえばドリッパーで飲む人には、どこのメーカーのドリッパーか、リブ(内部にある凸部)や形状によっても、豆の挽き方を変えてくれたり、コーヒーのフルーティ感を損なわないドリップの仕方もレクチャーしてくれる。

それでも自分ではコーヒーがうまく淹れられないという人には、オリジナルの「ダンク式コーヒーバッグ」をおススメする。ティーバッグのような三角形のテトラバッグにアマメリアのコーヒーが入っており、150ccぐらいの熱湯に1分くらいダンク(上下動)するだけでまったく雑味のない美味しいコーヒーが楽しめる。

コーヒー初心者から上級者まで、きちんと目線をあわせてコーヒーの面白さを教えてくれる、スタンダードであり、ハイクオリティなカフェでもある。

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入口脇には、石井さんがセレクトした、コーヒーに関するアイテムを販売。初級者向けから上級者向けまで、ひとつひとつ揃えていきたい

<焙煎士>
石井利明|ISHII Toshiaki
2004年、川崎競馬場内の「ESPRESSO BAR」、大井競馬場内の「MEISTER CAFE」でバリスタに。2007年「MEISTER CAFE」にてバリスタ兼ロースターに。2008年、SCAA認定カッピングジャッジ、CQI認定Qグレーダー取得。2010年、オーナー兼焙煎士として「AMAMERIA ESPRESSO」オープン。

<焙煎機のある店>
AMAMERIA ESPRESSO
営業時間|平日 12:00~20:00、土曜・日曜・祝日 10:00~19:00
定休日|なし
住所|東京都品川区小山3-6-15パークホームズ武蔵小山1F
Tel. 03-6426-9148
http://www.amameria.com/

<編集メモ>
・常時おいている珈琲豆12-14種類
・珈琲豆の価格帯 620円~2500円/100グラム
・店内での試飲 可(有料 1杯390円より)

こだわりから生まれたコーヒースタンド

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コーヒーは焙煎で選ぶ時代へ

第2章 「マイ・ロースターを求めて」(5)

4. SWITCH COFFEE TOKYO(目黒)

こだわりから生まれたコーヒースタンド

2013年、27歳の若さで、オーナー兼焙煎士として「SWITCH COFFEE TOKYO(スウィッチ コーヒー トーキョー)」をオープンさせた大西さんは、慶応義塾大学中にコーヒーのキャリアをスタートさせ、卒業後、オーストラリア・メルボルンの「The Premises」や福岡の「ハニー珈琲」などの名店で修行を積んだ、異色のキャリアの持ち主。

開店の動機をうかがうと「コーヒーが好きだったので、コーヒースタンドとか、コーヒーを使った仕事だったらなんでもよかったのですが……」と控えめな回答だったが、「プロバット」のロースターや、お店に存在する器具や商品、陳列の仕方まで、ひとつひとつに対するこだわりを見れば、コーヒーへの情熱がすべてに行き届いているのを感じる。

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オーナー兼焙煎士の大西さん。“お客様が自宅でも同じ味を再現できるように”と、店頭ではドリップかプレスを採用

大西さんが「基本は豆屋です」というように、奥に配された焙煎所と、目と鼻の先に試飲できるカウンターだけの小さなお店だが、取材中、常連のお客さんが絶えず訪れていた。「会社が近いので」とカップコーヒーを買って帰ったスーツ姿のサラリーマンや、目の前に車を止めていつも通りの豆を買う男性、ベビーカー片手に豆を選ぶ女性……。開店からわずか1年で“コーヒー豆屋”のスタイルは定着している。

「豆を購入してくださったお客様には、カプチーノかカフェラテなど、カップドリンクをサービスしています。豆を挽いているあいだも、カウンターでは、5~6種類の試飲サンプルを用意しているので、気軽にテイスティングを楽しんでいただいています」

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ブルーを基調にしたファサード。写真右は取材班にも大好評だったコーヒー豆「エチオピア・KONGA」

淹れたてでなくとも、冷めても美味しいコーヒーは自信の表れでもあるのだろう。なかでも、「エチオピアのKONGA」というコーヒーは、フルーティを超えて、ボタニカルな香りまで吸い込んでいるような衝撃を受けた。その美味しさといったら、連日コーヒーを飲んでいる取材班の3人が揃ってこの豆を購入して帰ったほど。

「エチオピアは“野生のコーヒーの故郷”といわれている唯一の場所なので、品種部分にも、MIXED HEIRLOOM(原生種・混合)と記載しています」

朴訥(ぼくとつ)とした口調で、美味しいコーヒーを丁寧に教えてくれる店。気兼ねなくコーヒーの世界に浸りたい人は、ぜひ一度訪れてほしい。

<焙煎士>
大西正紘|ONISHI Masahiro
2010年、オーストラリアへ渡り、メルボルンの「The Premises」に勤務。2011年、福岡の「ハニー珈琲」に勤務。2013年、オーナー兼焙煎士として「SWITCH COFFEE TOKYO」をオープン。2009年、「第二回ブレンズコーヒーラテアート大会」優勝、翌年はニューヨークの「Coffeefest 全米ラテアート大会」に出場し第2位、さらにその翌年には、オーストラリア・ビクトリア州でおこなわれた「Pura Milk AASCA Latte Art Championship」で第2位入賞を果たした。

<焙煎機のある店>
SWITCH COFFEE TOKYO
営業時間|10:00~19:00
定休日|不定
住所|東京都目黒区目黒1-17-23
Tel. 03-6420-3633
http://www.switchcoffeetokyo.com/

<編集メモ>
・常時おいている珈琲豆 6種類
・珈琲豆の価格帯 1950円~2500円/250グラム
・店内での試飲 可(無料)

技術と知識が生み出すオンリーワンの味

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第2章 「マイ・ロースターを求めて」(6)

5. Gentle Belief(外苑前)

技術と知識が生み出すオンリーワンの味

外苑前というひらけた場所にあって、ビルの奥に入口を構える隠れ家的なお店、「Gentle Belief(ジェントルビリーフ)」。小さなトビラの向こうには、焙煎前の生豆が40種類もディスプレイされていた。店頭にこれだけの生豆を揃えるお店は、全国的にもなかなかお目にかかれないため、コーヒー好きにとっても圧巻である。

第1章で、“生豆×8段階の煎り具合”を掛け合わせると、コーヒーの味わいはどんどん広がっていくことを知ったように、「Gentle Belief」では、常時40種類ある生豆を目の前で焙煎してくれて、約300通りの味わいを生み出すことが可能だ。そこで、好きな生豆を好きなような焙煎してもらえる“オンデマンド焙煎”を実現するのが、こちらのマイクロロースターだ。

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“好きな豆を、好きな焙煎で”オーダーできるのは、1ロット250グラムから

「昔は、小さなロースターはテストロースターとして使用されることが多かったのですが、いまのマイクロロースターは、能力的にもその域を完全に出ています。長年、焙煎士として向き合ってきて、高レベルの焙煎テクニックさえあれば、マイクロロースターを使いこなすことができると確信し、“オンデマンド焙煎”のお店をクリエイトする決心をしました」

名だたる自家焙煎の名店で修業し、焙煎歴30年というベテランならではのテクニックと知識の集大成だ。

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「たとえば、『タンザニアの豆を浅煎りで』といわれたら、通常は酸味が出てしまうため深煎りをおススメしますが、浅煎りでもテクニックで美味しく飲めるようにすることも可能です」という、まさにオンデマンドな焙煎

そんな焙煎マスターへ、現在の潮流「サードウェーブ」に関してたずねると、「彼らのおかげで、コーヒー焙煎自体にも光があたったので、僕自身はとてもいい傾向だと思っています」と応えてくれた。

深煎りの魅力も教えてくれて、浅煎りのサードウェーブにも理解があって、コーヒーを美味しく飲める術はすべて試したい、という前衛的な焙煎士、浅野さんにならば、初心者も臆せずオーダーしやすいのではないだろうか。

浅野さんが話してくださる横で、小さなロースターが鳴らす音は、高温で繊細な金属音から、チャッ、チャッ……と少し柔らかい音色に変わっていた。大きな焙煎機も迫力あるが、小さな変化まで愉しめるマイクロロースターの魅力をじっくり味わうなら、ランチの混雑を避けて、15時以降をおすすめする。

<焙煎士>
浅野嘉之|ASANO Yoshiyuki
1980年、都内屈指の有名自家焙煎グループに所属し、珈琲の本質的なところを享受。1985年より、自家焙煎店「珈琲倶楽部」や、サロン・ド・テ「KAIAN」、ビストロ「KAIAN」、「カフェ・リコ」などを開業。2014年、「Gentle Belief」開業。

<焙煎機のある店>
Gentle Belief
営業時間|10:00~22:00(L.O.21:30)
定休日|第2・第4日曜
住所|東京都港区南青山2-22-14フォンテ青山
Tel. 03-6438-9252
http://gentlebelief.com/

<編集メモ>
・常時おいている珈琲豆 生豆40種類、焙煎豆12種類
・珈琲豆の価格帯 550円~2000円/100グラム
・店内での試飲 不可(飲食メニューあり)

東京のコーヒーカルチャーを牽引

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コーヒーは焙煎で選ぶ時代へ

第2章 「マイ・ロースターを求めて」(7)

6. ONIBUS COFFEE(奥沢)

東京のコーヒーカルチャーを牽引

今回取材したなかでも、客席から一番近い距離で焙煎工程を見ることができるのが、「ONIBUS COFFEE(オニバスコーヒー)」だ。落ち着いた朱色のロースターは、「ディードリッヒ」というメーカーの、半熱風タイプの3キロ釜。自店以外でも20軒くらいにコーヒー豆を卸しているため、毎日約20回もの焙煎をおこなっており、店内はつねにコーヒーの香りで満ちている。

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修行先の「Paul Bassett」(新宿)で現オーナーと出会ったという、橋本さん。昔に比べて豆の品質が格段に良くなり、個性が際立って表れるようになってきたので、浅煎りの需要が増えてきたという

焙煎を担当するのは、名店「Paul Bassett」で修行し、焙煎の道へ進んだ橋本さん。「深煎りの豆は、香りやコクなどのボディがよりでてくるので、じっくり淹れるドリップをおススメしますが、浅煎りの豆であれば、エアロプレスでの抽出もおすすめです。口当たりがまろやかになって香りがフワッと広がりますよ」

ここ最近、ドリップにかわる抽出方法として見かけるようになったエアロプレス。軽くてコンパクトゆえに持ち運びも楽で、掃除も簡単なため、最近はアウトドアに持参して本格的なコーヒーを楽しむ人も多いようだ。

「当店では、エアロプレスなら、コーヒー14グラムにお湯210ccで、1分半抽出しています。ドリップと違って、圧力をかけることで、豆の油分とお湯が混ざり合って乳化現象を起こし、やや白濁し、まろやかな口当たりになるのが大きな特徴ですね」

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エアロプレスの場合は、お湯を注ぎ、スプーンで混ぜているときに、“蒸らし”が起きているそう。やや白濁しているのが、乳化現象が起きている証

いただいた「コスタリカ」のコーヒーは、アプリコットのような甘酸っぱさが特徴で、酸味が程よく、後味も甘さが残るので飲みやすい。美味しい紅茶に近い感じもするけれども、コーヒー独特のコクもあるから心地よい。また、アーモンドのような甘みがあって、シトラス感も感じられる「ボリビア」や、ベリーワインのような深みがある「エチオピア」も気に入った。

料理にも通ずることだが、「乳化」によって引き出される旨みは未知数だ。こればかりは、お店に直接行って、コーヒーを見て、飲んでいただくしかない。だが、それだけの価値はきっとあるはずだ。

また、今回取材した自家焙煎の店は、少なからず横のつながりもあるようで、第1章で特集した「TORIBA COFFEE」の焙煎士・滑川さんが「ONIBUSさんの渋谷店(2014年5月オープン)にはよく行きます」と話していたり、その「ABOUT LIFE COFFEE BREWERS」では、やはり取材した「AMAMERIA ESPRESSO」(武蔵小山)と「SWITCH COFFEE TOKYO」(目黒)の豆も販売されていたり……と、あたらしい東京のコーヒーカルチャーが発信されるのを間近で感じた。

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<焙煎士>
橋本貴弥|TAKAYA Hashimoto
2012年、「ポールバセット」新宿店勤務。同年9月、オーストラリア・シドニーのコーヒーショップで2カ月間修行。同年11月より「ONIBUS COFFEE」に勤務。2013年から、焙煎のトレーニングを開始。

<焙煎機のある店>
ONIBUS COFFEE
営業時間|9:00~19:00
定休日|火曜
住所|東京都世田谷区奥沢5-1-4
Tel. 03-6321-3283
http://onibuscoffee.com/

<編集メモ>
・常時おいている珈琲豆 7種類
・珈琲豆の価格帯 380円~
・店内での試飲 可(無料)

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