特集|ロースターは燃えているか?|第1章「焙煎士に訊く、ロースターとの付き合い方」

特集|ロースターは燃えているか?|第1章「焙煎士に訊く、ロースターとの付き合い方」

Behind Good Coffee: The Fine Art of Coffee Roasting

特集|ロースターは燃えているか?

コーヒーは焙煎で選ぶ時代へ

第1章「焙煎士に訊く、ロースターとの付き合い方」(1)

まずは、20キロ、5キロ、1キロと3台ものロースターを駆使して、世界中から届くコーヒー豆の焙煎をおこない、店頭ではテイスティングもできる、豆の販売専門店「TORIBA COFFEE~Boutique Coffee Roaster~(トリバコーヒー ブティックコーヒーロースター)」(以下、「TORIBA COFFEE」)で、ロースターの基礎知識と、ロースターとの付き合い方を尋ねた。

Interview & Text by FUJII Aki Photographs by JAMANDFIXEdited by TANAKA Junko (OPENERS)

豆の種類によってそれぞれベストな焙煎をおこなうのが、焙煎士

お話をうかがったのは、昨年銀座にオープンしたコーヒー豆専門店「TORIBA COFFEE」で焙煎士を務める、滑川さん。大学時代からバリスタとしてアルバイトをしていたが、大学卒業後、語学勉強のため留学したオーストラリアで、最先端のコーヒーカルチャーに魅せられ、現地でもバリスタに。帰国後、「TORIBA COFFEE」の社長に見いだされ、焙煎に携わることになった。

「バリスタとして、焙煎士をとても尊敬していたので、自然に“学びたい”という姿勢ができていました」。白衣姿もサマになっていて、まるでコーヒー博士のような滑川さんは、なんでも答えてくれそうだ。

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今回、私たちをロースターの世界へいざなってくれた「TORIBA COFFEE」の焙煎士、滑川裕大さん

コーヒー博士に失礼のないよう、焙煎の基本工程をおさらいしておこう。

収穫・精製された青っぽい生豆は、ロースター内でおよそ200度の熱にかけられる。熱により、生豆の水分が抜けて黄色くなり、さらに表面が焦げ、ロースターのなかでパチパチと豆が爆(は)ぜる音が聞こえたら、中まで火が通った証(1爆ぜ)。ポップコーンのように、爆ぜて1.5倍の大きさに膨らんだ豆は、成分が熱で変化し、コーヒー独自の味や香りが引き出されている。

この1爆ぜの初期段階を浅煎り、1爆ぜが終わったころを中煎り、さらに焙煎(焼き)を続けることで、深煎りとなっていく。焙煎の度合いは、①ライトロースト→②シナモンロースト→③ミディアムロースト→④ハイロースト→⑤シティロースト→⑥フルシティロースト→⑦フレンチロースト→⑧イタリアンローストの8段階に分けることができる。豆選びの基準として、浅煎りは酸味が強め、深煎りは苦みが強めと認識している人も多いだろう。

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焙煎を終了した豆は、残っている熱でどんどん焙煎が進んでしまうため、ロースターから出てくるのと同時に、冷却箱で撹拌され、熱を冷ます

「豆の種類によってそれぞれベストな焙煎をおこなうのが焙煎士の重要な仕事ですね。たとえば、焙煎度合いを深くすればするほど、メイラード反応(褐変反応)が起こり、いわゆるコーヒー感といわれる甘さや芳ばしさは出てきますが、それに引っ張られて、本来の味自体(個性)は曇っていきます。ですから、酸や香りでコーヒーの輪郭をハッキリさせたい場合は、浅煎りを選びます」

浅く焼いて、豆本体がもつフルーツのような甘酸っぱさを味わうもよし、深く焼き切って、キャラメルのような甘い香りと苦みのバランスを楽しむのもよし。どの豆にどんな焙煎方法が合うのかを、焙煎士に尋ねながら、自分好みの一杯を見つけていくのは、なんとも楽しそうだ。

コーヒーロースターの世界は、化学でできている

焙煎中、ロースターの音に耳を澄ませ、計測器の目盛りを見つめ、時折、テストスプーンで焙煎中の豆をすくって色や香りをチェック……と、つねに真剣な表情の滑川さん。焙煎士として、とくに注意・重要視していることはなにか、うかがった。

「冷たい生豆をロースターにかけはじめたときの温度調節や、豆の種類によって水分が抜けて黄色くなる(爆ぜる)タイミングは異なるので、その瞬間がいつなのかを、細かくチェックしています」

成分で熱が変化し、メイラード反応(褐変反応)が起こり、味や香りが引き出される豆に、気圧や湿度、温度を細かくデータとして捉えている焙煎士。コーヒーロースターの世界はまさに化学なのだ。だからこそ、突き詰め・掘り下げるに値し、一過性のブームに終わらない。

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テストスプーンで、ロースターのなかの豆をすくってみる。1爆ぜのタイミングで、一瞬にして色が変化する

「TORIBA COFFEE」で扱うコナコーヒーなど、水分を多く含む豆は熱が入りやすいので、わずかな温度変化なども注意深く確認

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ロースター内の風力を測定。どのくらい風が出て、どのくらい吸っているのかがわかることで、圧力もチェックできる

「当店の品揃えはブレンドが中心なので、どんな味にしたいか、ブレンドのイメージをもつのも重要ですね。ブレンドの方法は、シングルオリジン同士を焼いたあとに混ぜる『アフターミックス』と、生豆の状態で混ぜてから焼く『プレミックス』の2種類がありますが、当店では『プレミックス』を採用しています。長所としては、それぞれの豆の良い部分(特徴)をブレンドで上手に整えることができるため、一体感が出てくることですね。ブレンドは作り手の表現でもあるので、何回も試行錯誤を繰り返して、ベストな配合や焙煎度を見つけていくのも、面白い側面なんです」

また、ロースターの種類は、「熱風焙煎」「直火焙煎」「半熱風焙煎」の大きく3種類に分かれるそう。「TORIBA COFFEE」で使用している、日本のロースターメーカー「フジローヤル」の3台は、20キロの最大のものと1キロの最小のものが直火型。5キロが熱風型だ。

「5キロのロースターの1バッチ(1釜)の目安は、半分よりちょっと多いくらい(3〜3.5キロくらい)がベスト。理論上は、ロースターの大きさによって焼き上がりに差が出ることはないと言われていますが、熱風型よりも直火型のほうが、表面が焦げることでメイラード反応の影響が大きいため、キャラメル化が進むので、甘さや香りの面で多少の差が生まれます」

20キロのロースターを稼働させても、滑川さんは、発送分も含めて1日10〜15回焙煎をおこなっているのだとか。それは、豆の回転が良いことを意味する。実際、飲みごろの豆のウェイティングは1週間くらいで店頭からはけている。