着けて話そう、時計会議。第3回 バリュー・フォー・マネー編|FEATURE
WATCH & JEWELRY / FEATURES
2021年6月23日

着けて話そう、時計会議。第3回 バリュー・フォー・マネー編|FEATURE

GRAND SEIKO|グランドセイコー
TUDOR|チューダー
BVLGARI|ブルガリ
CARTIER|カルティエ
Bell & Ross|ベル&ロス

所有する満足感がしっかりと感じられて、しかも気兼ねなく普段使いできる。それが、OPENERSが考える“VALUE FOR MONEY”な腕時計

もっぱら機能説明が優先され、専門知識ナシでは楽しみづらくなってきた腕時計の世界。でも、時計の面白さってそれだけではないはず。もっとプリミティブに時計を愛でたい! そこで時計を実際に腕に載せて、そのファーストインプレッションを語り合う「時計会議」をはじめました。連載第3回目の出席者は、マガジニスト北原 徹、エディター&クリエイティブ・ディレクター堀川博之、OPENERSクルマ記事担当 山口幸一、時計記事担当 土田貴史の4名です。

Talk by KITAHARA Toru, HORIKAWA Masaaki, YAMAGUCHI Koichi, TSUCHIDA Takashi|Text by KOIZUMI Yoko

本体価格50万円以下で探した、一張羅として日々愛用したい5モデル

左から順に、時計記事担当 土田貴史、エディター&クリエイティブ・ディレクター堀川博之、OPENERSクルマ記事担当 山口幸一、マガジニスト北原 徹。
土田貴史 この世界に入って25年になりますが、実はこれまで価格切りの腕時計企画をやったことがないんです。その理由は、腕時計は価格だけで語れないから。腕時計は背景にストーリーやロマンがあり、その魅力はそれぞれがオンリーワンです。
でも今回、本体価格50万円以下で腕時計を揃えたのは、ひとつには腕時計の価格設定が上昇傾向にあるなかで、まだまだ50万円以下でも素晴らしいモデルがあることを伝えたかったんです。もちろん、高価な腕時計には、高価な理由があります。100万円の腕時計と、50万円の腕時計を見比べたら、100万円の腕時計の方が高そうに見えて当然です。
でもクルマが好きで、腕時計にはあまりお金をかけたくないという人もいると思います。そんな人たちにも、打つべき手はあると言いたい。ですから、ここはハズシではなく、「本体価格50万円以下でも一張羅として愛でたいレベルのアイテム」だけを揃えました。
山口幸一 クルマで例えると、Ferrariに乗っている人が、セカンドカーとしてのABARTHを持つという意味ではなく、これを本命に置くということ?
土田貴史 はい、今回用意した5本はすべて、私自身が本命として着けたいと思うものばかりです。
本日の議題

左から順に
・Bell & Rossベル&ロス「BR V2-94 BLACK STEEL」50万6000円(税込)
・CARTIERカルティエ「タンク ソロ」41万2500円(税込)
・BVLGARIブルガリ「ブルガリ・ブルガリ ウォッチ」50万500円(税込)
・GRAND SEIKO「ヘリテージコレクションSBGR309」52万8000円(税込)
・TUDORチューダー「ブラックベイ フィフティ-エイト “ネイビーブルー”」36万5200円(税込)
以上、5本
堀川正猛 50万円で線引きした理由は?
土田貴史 結納返しですね。時計の“50万円”って結納返しの基準になっていて、この一線を越えるか越えないかで、ニーズが変わってくると聞いています。それに、自分で買うとしてもやっぱり50万円は心理的なボーダーがあるように感じます。
北原 徹 結局は、自分自身の物差しで、ちゃんと自分で「可愛いいよな」って判断できるかどうか。自分にとってのワン&オンリーってことだよね。そうしてみると、このTUDORのネイビーの文字盤なんて、やっぱり可愛いなって思う。

鮮やかで、見たことないって思えるだけでも価値があるし、独特な印象を受ける。DENIMにも似合いそうだし、ちょっと小振りなのもいい!
堀川正猛 海外の人たちのように、みんな腕が太いわけじゃないですからね。腕周りとのバランスはいいですね。
山口幸一 TUDORのお兄さんブランドがROLEXですよね。でも、いまTUDORの方が肩の力が抜けているというか、いい意味でのリラックス感があるように思います。
チューダー「ブラックベイ フィフティ-エイト “ネイビーブルー”」
Ref.|M79030B-0003
ムーブメント|自動巻き(マニュファクチュールキャリバーMT5402)
パワーリザーブ|約70時間
ケース素材|ステンレススチール
ケース径|39mm
ストラップ素材|ブルー ファブリック
防水|200m
価格|36万5200円(税込)
堀川正猛 ROLEXは定番の魅力がありますが、TUDORはいまの新作が楽しめるという魅力がありますね。
北原 徹 それと5本のなかでもストラップのカジュアル感も特徴的で、逆に目を引く。
土田貴史 これはファブリック製です。もともとはミリタリーウオッチからの流れですが、プレミアムモデルにファブリックを合わせるのは、TUDORがその先駆けなんです。フランスのサン・テティエンヌ地方で1世紀以上続く工房で作られていて、同じシリーズでレザーストラップやブレスレットもありますけど、TUDORならファブリックを選んでほしいですね。

着けて話そう、時計会議。第3回 バリュー・フォー・マネー編|FEATURE

堀川正猛 ストラップだけで見ても、オンリーワンってことか。
土田貴史 ほかのメーカーと比べて編み目が詰まっていて、さっきデニムに合うって話がありましたけど、このストラップもデニムのように経年変化でアジ出しできます。
そして機能面でも200m防水性能を備える、第一級のダイバーズウオッチなんですよ。
カルティエ「タンク ソロ」
Ref.|CRWSTA0029
ムーブメント|自動巻き
ケース素材|ステンレススティール
ケースサイズ・厚さ|40.85✕31mm、7.65mm
ストラップ素材|付替可能ブラック グレインド カーフスキン
防水|日常生活防水
価格|41万2500円(税込)
北原 徹 このCARTIERもいいね。
土田貴史 TANKコレクションのモデルですが、初代TANKが市場に出たのが1919年。モチーフにしたのは戦車であり、ケースサイドの強調された縦ラインがキャタピラです。
北原 徹 あ~、だからTANK(戦車)なんだ。
山口幸一 カルティエって歴史もあるし、腕時計の草分け的存在なのにもかかわらず、この価格でそのストーリーが手に入るし、デザインも含めてすごく満足度が高いですよね。
土田貴史 ドレススタイルの高貴な紳士たちが腕時計を着ける時代、そんな時代に戦車モチーフのドレスウオッチを創るとは、アヴァンギャルドの極みです。
堀川正猛 最もシンボリックだと感じますね。たとえ腕時計に詳しくない人が見たとしても、“お洒落な腕時計をしている”って思わせる力がある。
北原 徹 そのうえ細かい部分の作り込みもスゴい。ちゃんと見たのは初めてだけど、裏蓋のビス留めがカッコいいね。
堀川正猛 メカ感というか。
北原 徹 CARTIERって、クルマで例えるならBENTLEYのような雰囲気がある。TANKの名に恥じないJeep感、(LAND ROVERの)DEFENDER感もあるよね。
土田貴史 CARTIERはどんな価格帯であれ、ブルースチール針、ローマ数字インデックス(※最近は一部で算用数字も出していますが)を過去から貫いていて、そのアイコン力は非常に強力なものです。
山口幸一 このBVLGARIのストラップもよくできてる。ラバーに編み込み風の型押しをしているんだ。並べてみると、BVLGARIだけ、デザインへのアプローチがほかと違う印象を受けますね。
北原 徹 これ、時計のフリした何かだよね(笑)。アクセサリーからの文脈を感じるし、テラスとかプールサイドとか、ラグジュアリーなシーンが目に浮かぶ。
山口幸一 夕暮れにシャンパン飲みながらとかね(笑)。ものすごくプレミアムな存在なんだけど、デザイン的には……何もしてないように見せてるというか。
堀川正猛 素焼きの陶器みたいな。
北原 徹 そう、すごく気になるんだよね。でも気になり方がほかのモデルとは違って、「ちょっと、ちょっと」って呼ばれている気がする。「俺、どう?」って。女性だったら「ちょっと寄ってかない?」みたいな(笑)。
“主張”ともまた違う、不思議な呼び声が聴こえる感じがする。
山口幸一 以前、先輩の編集者がフェラーリのテストコースで、ニューモデルの助手席に乗せてもらったときに、テストドライバーが「ベラマッキナ(bella macchina)」を連発してたって言うんです。ベラが美しいで、マッキナはクルマ。走りがどうこうじゃなくて、ただただ、「美しいだろ!」って言い続けてる(笑) 。BVLGARIからはイタリアの国民性を感じます。
土田貴史 いま北原さんが持っているのが、我が国が誇るGRAND SEIKOです。
北原 徹 この時計の表情、さっきからすごく不思議な感じがしている。宝石を見ているような気分を味わっています。
土田貴史 かなりキラキラしていますよね。針やインデックスへのカッティングが繊細かつ多面構成だから、わずかな光でもキラッと輝くんです。
北原 徹 カットの多いダイヤモンドでも見ているような気分。
土田貴史 その光の制御も含めて、視認性という機能に裏打ちされた美しさを表現しようとしています。デザインはスタンダードですが、“彫りの深いスタンダード”というか、一度見たら忘れられない顔なんです。
山口幸一 光をデザインしているみたいだけれど、これを含めて狙って演出しているということなんですね。機能美を超えた装飾性を感じますね。
土田貴史 1本の筋目にもこだわりを見せる日本人のストイックさ。こうした入魂の力強さは、スイス勢にも勝ると思います。
さて、ここまで紹介したTUDOR、CARTIER、BVLGARI、GRAND SEIKOはすべて自社製ムーブメントを搭載しているんですよ。この価格帯でも、マニュファクチュールムーブメント搭載モデルは手に入ります。
堀川正猛 昨今のBVLGARIのムーブメントへの開発力は、すごいことになっていますよね。新作を出すたびに、“世界最薄”。その技術革新が目覚ましいし、名だたる時計賞をいくつも受賞している。そんななかで、「ブルガリブルガリ」は昔からあるモチーフですが、そこに技術的な裏付けが付加されたところにブランドの面白さを感じますね。
土田貴史 そしてGRAND SEIKOのムーブメントは精度への追い込みがスゴいんですよ。COSC(スイス公式クロノメーター検定機関)では、日差-4~+6秒の間であればOKとされているんですが、GRAND SEIKOでは日差-3~+5秒の間に収めているんです。
山口幸一 GRAND SEIKOは、ブランド独自の精度基準を持っているということ?
土田貴史 そうです。全メカニカルモデルで、COSCより、さらに2秒も追い込んでいる。ここも日本の気概を感じます。
ベル&ロス「BR V2-94 BLACK STEEL」
Ref.|BRV294-BL-ST/SCA
ムーブメント|自動巻き(BR-CAL.301)
ケース素材|ステンレススティール
ケース径|41mm
ストラップ素材|ブラック カーフ
防水|100m
価格|50万6000円(税込)
土田貴史 オオトリはBell & Rossです。1994年に設立された若いブランドで、世界各国のファッションシーンで注目されてきました。このヴィンテージシリーズはデビューから続くモデルで、ブランドのオリジンはここです。
堀川正猛 四角いケース形状のイメージが強いですけどね。
土田貴史 このモデルでは汎用ムーブメントを使っているんですが、汎用だとケースに厚みが出がちなんです。でもBell & Rossが素晴らしいのは、ヴィンテージテイストへ振り切ることで、ケースの厚みをプラスの価値に置換していることです。
山口幸一 時代性やデザインの必然性、そういう文脈にしているということですね。
土田貴史 そうです。当時はこのくらいの厚みは当たり前だし、そういう意味で、普遍的なフォルムを表現しているんです。
堀川正猛 ギュっと詰まったコンパクトな顔、という印象がありますね。
北原 徹 男の子ゴコロを一番そそるのはこれでしょうね。メカ感があって、何やらめんどくさそうなことがいっぱい書かれている文字盤に(笑)。
山口幸一 いちばん王道というか、正当。
堀川正猛 多くの人がイメージするミリタリーウオッチの感じがすごく出ていますね。大きすぎず小さすぎずっていうサイズも含めて。
北原 徹 大きさを感じさせないのは偉いなぁ。
土田貴史 それに、汎用ムーブメントはメンテナンスコストを抑えられるので実用機として合理的です。このブランドは、フランス人がデザインしているんですが、その方がむっちゃお洒落で、洋服好き。そういう人が作っていると、時計から香ってきますよね。今の時代の服に合わせやすいんです。
堀川正猛 ベゼルを黒で締めているのも、コンパクトに見える理由かもしれないですね。
土田貴史 ベゼルにアルミを採用したのも敢えてだと思います。アルミって傷つきやすいんですけど、そのほうがヴィンテージっぽい。
北原 徹 うん、分かる、分かる。
堀川正猛 これだけ要素が入っているのに、スマートに収めているところは感心します。
北原 徹 今回感じたのは、“神は細部に宿る”っていう言葉です。さっきの光の問題もそうなんだけど、実際のところ、ほんとうに細かな部分まで“やらかしている”んですよ。
堀川正猛 バーッと全部ラインが入っていたりとか、仕上げもスゴイ。
山口幸一 そういう細部への手の入れ方が、今回の時計選びのベースにある「ハズシではなく、一張羅である」というところの裏付けになっていますね。
土田貴史 昼から夜まで全時間帯に使える時計、スーツからアウトドアまでいろんなシチュエーションに対応できる、そんな時計です。
堀川正猛 今回のラインナップには、リアリティがすごくあります。ただ高い時計を愛でて、戸棚にしまい込むのではなくて、普段使いできるという実感。
北原 徹 時計って本来、それぞれの人がそれぞれの満足を感じていればいいんだなって改めて思いましたね。誰に共感されずとも、使っている本人にしか分からない、知られざる“特別な細部”があればいい。CARTIERの満足、BVLGARIの満足……すべてのモデルに、それぞれの満足がありました。
土田貴史 さて次回の議題は?
北原 徹 「ボーイズサイズ」はどう?
堀川正猛 いま小さめのモデルも増えてきていますし、着けていると賢そうに見えるんです。
土田貴史 では「ボーイズサイズ」の傑作、揃えておきます!
問い合わせ先

ベル&ロス銀座ブティック
Tel.03-6264-3989
http://www.bellross.com

問い合わせ先

カルティエ カスタマー サービスセンター
Tel.0120-301-757
http://www.cartier.jp

問い合わせ先

ブルガリ ジャパン
Tel.03-6362-0100
https://www.bulgari.com/ja-jp

問い合わせ先

セイコーウオッチ お客様相談室
Tel.0120-061-012
http://www.grand-seiko.com/

問い合わせ先

日本ロレックス / チューダー
Tel.03-3216-5671
https://www.tudorwatch.com/ja

                      
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