着けて話そう、時計会議。第1回 ドレスウオッチ編|FEATURES

左から、時計記事担当の土田貴史、マガジニスト北原 徹、そしてクリエイティブ・ディレクター前田 陽一郎。

WATCH & JEWELRY / FEATURES
2021年4月2日

着けて話そう、時計会議。第1回 ドレスウオッチ編|FEATURES

PATEK PHILIPPE|パテック フィリップ
VACHERON CONSTANTIN|ヴァシュロン・コンスタンタン
BREGUET|ブレゲ
PIAGET|ピアジェ
JAEGER LECOULTRE|ジャガー・ルクルト

ドレスウオッチとは、時計の面白さが凝縮された、いま最もモダンな“トラディショナル”

もっぱら機能説明が優先され、専門知識ナシでは楽しみずらくなってきた腕時計の世界。でも、時計の楽しみってそれだけではないはず。もっとプリミティブに時計を愛でたい! そこで実際に腕に載せて、そのファーストインプレッションを語り合う「時計会議」を開始することにします。連載第1回目の出席者は、クリエイティブ・ディレクター前田 陽一郎、マガジニスト北原 徹、そして時計記事担当の土田貴史の3名。テーマは「ドレスウオッチ」です。

Talk by MAEDA Yoichiro, KITAHARA Toru, TSUCHIDA Takashi|Text by KOIZUMI Yoko

削ぎ落された造形から感じる凝縮された“何か”とは?

土田貴史 今日のテーマは「ドレスウオッチ」です。簡単にドレスウオッチの定義をおさらいしますが……、実は明確にコレという定義はないんです(笑)。極端に言ってしまえば、エレガントに見えればOK。とはいえ、トップブランド各社のこのカテゴリーへの注力は大変なもので、素晴らしいモデルが揃っています。
本日の議題
・PATEK PHILIPPE パテック フィリップ「カラトラバ 5227」
・VACHERON CONSTANTIN ヴァシュロン・コンスタンタン「トラディショナル・マニュアルワインディング」
・BREGUET ブレゲ「クラシック 7147」
・PIAGET ピアジェ「アルティメート・オートマティック ウォッチ」
・JAEGER LECOULTRE ジャガー・ルクルト「マスター・ウルトラスリム・デイト」
以上、5本
前田 陽一郎 改めて俯瞰して見ると、どれもカッコいい。薄型であり、美しく、手馴染みもいい。ファッションブランドで言うなら「JIL SANDER」に求められているものに近しいと感じます。過度なフューチャリスティック、過度に機能性を高めたものに反発する……“意味のあるシンプルさ”と言えばいいかな。
土田貴史 シンプルという言葉はミニマリズムと混同されがちだけど、単にシンプルなのではなくて、ディテールそれぞれにちゃんと意味のあるつくりになっています。
前田 陽一郎 時計としての歴史や約束事をクリアしながら積み重ねて、その長い時間のなかで削ぎ落されたシンプルネスなんだろうと思う。こうした削ぎ落された造形の先には品質がついてこないとダメだけど、鋼を打ちまくったような、“凝縮した何か”が伝わってくる。
北原 徹 たとえば「JIL SANDER」のチェスターコートが初めて登場したとき、素材が放つ力がすごくて、それが多くの人を惹きつけた理由のひとつになった。ただし多くのブランドは価格ありきで、その設定金額に向かって素材選びやパターン、縫製が決まっていくものなんだけど、その一方で作りたいものが先立ち、価格は二の次というブランドがあるのも事実。そうしたブランドの何がいいのかを突き詰めると、いい素材といい縫製が残り、そしてこれがラグジュアリーブランドを成立させている。きっとこの5つのブランドはそうしたモノづくりができている存在なんだろうね。
土田貴史 ドレスウオッチは昔から変わらないと思われがちですが、実は絶えずモダナイズされているジャンルなんです。
土田貴史 PATEK PHILIPPEのカラトラバの“ブラック”の色遣いは、その最たるもので、かなりアバンギャルド。その理由は、黒とは軍用時計から生まれた色だから。ドレスウオッチが栄華を極めた1920年当時の正装は、純潔を表現する“白”であり、ダイアルも白がルール。ドレスウオッチにおける黒は、つまり真逆の立ち位置なんですね。
ブレゲ 「クラシック 7147」
Ref|7147BB/29/9WU
ムーブメント|自動巻き 502.3SD
ケース素材|18KWG
ケース径・厚さ|40mm・6.1mm
ストラップ|アリゲーターストラップ
防水|3気圧
価格|256万3000円(税込)
土田貴史 もうひとつ、BREGUETはアラビア数字(算用数字)を採用してますが、これも正統という観点で捉えるとローマ数字になるわけです。このモデルではフォントをクラシカルにすることでドレッシーに仕上げていますが、これも“時代にフィットするクラシック”を追求した結果だと考えます。
北原 徹 こういう時計は力を持っているよね。自分のモノになった瞬間に自分自身を引っ張り上げてくれる効果があると思う。たとえば「今日はクルマを運転するからTOD’Sのドライビングシューズを履こう」といったように、意識に変化をもたらしてくれるんじゃないかな。

しかも時計やクルマは、スーツなどとは違って、自分だけのモノになり得るし、特に男の場合はモノを通して人間としての基準を欲しがる傾向にあるから、時計が自分のステージを引っ張り上げてくれるアイテムになる。そう考えれば、こうした時計を手に入れることは、自分投資としてすごくいい。
土田貴史 時計がいろいろ教えてくれますよね。
北原 徹 確かに。とはいえ、どれも迫力のある金額だけどね(笑)。

薄いのに立体的という矛盾

土田貴史 この5つのモデルで、気になるものはありますか?
北原 徹 僕はVACHERON CONSTANTINかな。薄いのにものすごい立体感があるでしょう!? 薄くて立体的って相当な矛盾をはらんでいるけど、それを具現しちゃっていることに驚いた。

それと、PIAGETの見た目は相当なパンク! このモデルも不思議な立体感があるな。
ピアジェ「アルティプラノ アルティメート・オートマティック ウォッチ」
Ref|G0A43121
ムーブメント|自動巻き 910P
ケース素材|18KWG
ケース径・厚さ|41mm・4.3mm
ストラップ|アリゲーターストラップ
防水|2気圧
価格|358万6000円(税込)
土田貴史 このモデルの後継機種はケース厚2mmというとてつもない薄さで、これが昨年、世界的な賞(※)を受賞してます。PIAGETは薄さに挑戦し続けていて、何度も世界初のモデルを登場させているし、いまも世界でもっとも薄い機械式腕時計の記録を持っている。背負うもの、気概の違いを感じますね。

※2020年11月、第20回Grand Prix d’Horlogerie de Genève(GPHG - ジュネーブ ウォッチ グランプリ)にて、「アルティプラノ アルティメート コンセプト ウォッチ」が全カテゴリーを総合した最高のモデルに授与される"Aiguille d’Or (金の針賞)” を受賞。
北原 徹 BREGUETのダイアルにある、これは傷?
土田貴史 これは贋作防止の、BREGUETお得意の隠しサインです。
前田 陽一郎 これがそうなんだ。OMEGAやCARTIERにもあるね。なるほどこんなに小さい文字で書かれているとは驚き。
北原 徹 (写真を撮り、液晶画面を拡大して)うわ~、Breguetって書いてある! これはすごいわ!!
前田 陽一郎 やはり小さいとエレガントさが増すね。
土田貴史 これまでのデカ厚ブームの揺り戻しで、新作時計は全体的に薄く、小さい傾向になっています。そこからパートナーと時計を共有する“シェアウオッチ”という発想が生まれ、時計の使い方に変化が生まれています。
前田 陽一郎 確かにベルトの長ささえクリアできれば、女性がメンズウオッチをしていてもOKだもんね。
北原 徹 自分が欲しいとなるとBREGUETかな。……美しいよ、ただただ美しいね。なんでBREGUETに惹かれるのかがわかった。僕はフランスの蚤の市に並ぶようなヴィンテージアイテムが好きなんだけれど、BREGUETからは同じ匂いがするからだな。僕の生活観と相性がいい。
前田 陽一郎 僕はPATEK PHILIPPEのカラトラバ、かな。これはよく作ったなぁ。ローターを偏心させる(※)という発想もスゴイし、この動きの滑らかさといったら……。じっくり見ると狂気すら感じさせるほどの精緻さだね。

※自動巻きローターの軸を中心から敢えてズラしています。限られたスペースを有効活用するためのひとつの回答です。
土田貴史 JAEGER LECOULTREは、このなかでは88万円と、ダントツでお求めやすいモデルですが、その理由はSSだから。コレクションは2年前にフルモデルチェンジしていて、同社が考えるいま最もモダンなドレスウオッチです。
北原 徹 コストパフォーマンスが高すぎてそっちに気持ちが引っ張られちゃうけど、本当はデザインパフォーマンスが一番高いモデルかもしれない。たとえば、「あなたにとって最高のオックスフォード生地のボタンダウンシャツを、トラッドの域を出ずに作ってください」と言ったときに出てくるひとつの答えのような気がする。

守りながら攻めてるというか。
前田 陽一郎 JAEGER LECOULTREは、時代に合わないと思えば、切り捨てることも厭わない性格だからね。過去にもレベルソ・スクアドラ(スクエアケースモデル)も、2006年に登場したかと思ったら、「レベルソはレベルソであるべし」と、あっさり止めてしまったし。そういう潔さが、デザインにもあるのかもしれない。
土田貴史 JAEGER LECOULTREは、新しいモデルを作るときに、ムーブメントも新規で作る唯一のブランドなんです。既存のムーブメントを他モデルにも搭載するなんて、ごく普通のことなのに、この会社は違う。

実力もあるし、価格だけで見てほしくないです。
北原 徹 初代ウォークマンを彷彿とさせるよね。若い読者はピンとこないだろうけど、この世で最初に音楽を屋外で聴けるようにしたのはiPodではなくて、ウォークマンなんですよ。

僕が想像するに、開発者は機械を先につくって、それに合わせて外側を作ったんだろうけど、そこから誕生したあの“弁当箱”はそれこそが機能美で、いまなおソニーの製品のなかでもトップクラスの出来栄えだと思ってる。
前田 陽一郎 同意だね。

エアジョーダンより、腕時計推し

北原 徹 ドレスウオッチと合わせるならどんな着こなしだろう。
前田 陽一郎 「JIL SANDER」を何度もピックアップしているように、シンプルなモードスタイルに合わせるのがいいね。足元の選択が難しいけど……ダッドスニーカーではなくて、シンプルな黒い靴が素敵だと思う。
土田貴史 UNIQLOの「+J」(プラスジェイ)もいいですよね。
北原 徹 きちんとオーソドックスなものを作り続けているブランドだったらいいけど、いまそういうブランドは少なくなっているのが現状なんだよね。

と、なると古着がいいかな。レタードがボロボロになったチャンピオンと501のビッグEと合わせてくれたら、「やるなー」ってなるね。なにしろこの2点を手に入れようと思ったら時間もお金もかかる、いまの時代、一番贅沢なスタイルだから。わかる人にはグッとくるんじゃないかな。
土田貴史 時計1本で上質なスタイルが完成する、インパクトがありますよね。ドレスウオッチはシンプルで、どのモデルも似ていると思われがちですが、コンセプトも表情もまったく違う奥深いジャンルです。ぜひ、注目してもらいたいですね。
北原 徹 いま「エアジョーダン」の値段がまた上がってるらしくて、60万円とか100万円とかしているらしい。そんな状況に声を大にして言いたいんだけど、エアジョーダンに3万円以上出すな、と(笑)。若者よ、そこにお金をかけるなら、間違いなくこっちだよ!

今回紹介しているのは相当ストロングなモデルばかりだけれど、時計にはエアジョーダンと同じ60~100万円台のいいモデルはたくさんあるし、いい時計を知ってほしいよね。
土田貴史 次回以降で、若者向けの時計も紹介していきましょう。
前田 陽一郎 それなら時計のジャンルで世の中からあまり注目されていないけど、オートマタに興味あるな。ヴァン クリーフ&アーペルの「ポエティック クリエーション」の「ミッドナイト ポン デ ザムルー ウォッチ」とか、本当に面白いんだよね。ただこういうモデルって生産本数が少なくて、触るどころか実物を見ることも叶わないことが多い。だから“着けて話す”というこの会議の趣旨には合いそうにない(笑)。
土田貴史 ムーンフェイズもロマンがあっていいですよね。
前田 陽一郎 ロマンチックな時計、惹かれるな。でもこういうジャンルのマーケットにおける評価がいまひとつでしょ。人類の英知の結集なのに残念でならない。
土田貴史 では次回の会議では、ムーンフェイズで語り合いましょう!
問い合わせ先

パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター
Tel.03-3255-8109
https://www.patek.com

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ヴァシュロン・コンスタンタン
Tel.0120-63-1755
http://www.vacheron-constantin.com

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ブレゲ ブティック銀座
Tel.03-6254-7211
https://www.breguet.com/jp

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ピアジェ コンタクトセンター
Tel.0120-73-1874
http://www.piaget.jp

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ジャガー・ルクルト
Tel.0120-79-1833
http://www.jaeger-lecoultre.com

                      
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