着けて話そう、時計会議。第4回 ボーイズサイズ編|FEATURE
WATCH & JEWELRY / FEATURES
2021年7月14日

着けて話そう、時計会議。第4回 ボーイズサイズ編|FEATURE

AUDEMARS PIGUET|オーデマ ピゲ
HUBLOT|ウブロ
JAEGER-LECOULTRE|ジャガー・ルクルト
IWC|アイ・ダブリュー・シー
BREITLING|ブライトリング

学ぶべきは、ゲンズブールとヘミングウェイ。時計は小さいと知的に見える。そして単機能は潔い!

先進機能を検証するのもいいけれど、本当は他にもいろいろな魅力が詰まっている腕時計。そんな“いろいろな”ところを語り合う「時計会議」。連載第4回目の会議に招集されたのは、クリエイティブ・ディレクター前田 陽一郎、マガジニスト北原 徹、エディター&クリエイティブ・ディレクター堀川 博之、そして時計記事担当 土田貴史の4名です。

Talk by MAEDA Yoichiro, KITAHARA Toru, HORIKAWA Masaaki, TSUCHIDA Takashi|Text by KOIZUMI Yoko

ボーイズサイズあらため、「ミニベロ時計」のススメ

土田貴史 今回は「ボーイズサイズ」というテーマで議題の時計を集めてみました。と言っても、実はボーイズサイズと宣言して時計を打ち出しているメーカーは、ひとつもないんです。
ではどこからこの言葉が出てきたのかですが、恐らくはアンティーク市場発信だと認識しています。ですからサイズにも明確な定義はなくて、おおむねケース径36mm、37mm、38mmあたりと考えています。
本日の議題
左から順に
・BREITLING ブライトリング「ナビタイマー オートマチック 38」
・AUDEMARS PIGUET オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク クロノグラフ」
・IWC アイ・ダブリュー・シー「ダ・ヴィンチ・オートマティック・ムーンフェイズ36」 
・HUBLOT ウブロ「クラシック・フュージョン チタニウム レーシング グレー」
・JAEGER-LECOULTRE ジャガー・ルクルト「レベルソ・クラシック・ミディアムスリム」 
以上、5本
北原 徹 ずっとROLEXがボーイズサイズと言っているとばかり思っていたんだけど。
土田貴史 ROLEXはこのあたりのサイズ展開を得意としていますが、ROLEX自身はひと言も言ってないんですよ。それに腕時計は1960~‘70年代くらいまで、いまと比べてずっと小さかった。1990年代、2000年代になってデカ厚トレンドが生まれ、ムーブメント自体も大型化したこともあり、時計のサイズが大きくなっていきました。
前田陽一郎 以前、ベテランの時計屋さんから聞いたところによると、ムーブメントが大きくなっていった要因がふたつあって、ひとつが大量生産に耐えられるようにするためで、もうひとつが多機能化への対応。
基本的に時計を多機能にする場合、シンプルなムーブメントを作っておいて、そこにクロノグラフなどの機構を追加していくのが一般的なんだけど、ベースムーブメントが大きくないと機能を載っけるのが難しい。だから多機能化が進むとともにムーブメントは大きくならざるを得なかった。
北原 徹 ふむふむ。
前田陽一郎 それがたまたま、北欧、ロシア、アメリカのマーケットで40mm以上というサイズのモデルがより売れるってことが分かって、今度はムーブメントの理由ではなく、ケースの大きさ自体が重要になり、ついには50mm超まで登場する。
ところがその流れに反発するように、欧州では、大きすぎる時計はエレガントではないという声が上がるようになった。業界はそれに呼応すべく、徐々に、徐々に小さくなっていきました……と、聞きました。
土田貴史 印象論ではあるけれど、ちょっと小さ目だと、知的に見える効果もあると思うんですよ。その意味でも、いま注目されていると思います。街で小径自転車をキビキビと乗りこなす雰囲気でしょう。
前田陽一郎 以前、携った雑誌で「時計を小振りにするだけで、腕周りから品が漂うようになります」って企画をやったときに、お手本にしたのがセルジュ・ゲンスブール(※1)とアーネスト・ヘミングウェイ(※2)。彼らの写真を見ると時計が小さくて、色気が感じられる。当時のセクシャルな男は、皆んな小さい時計なんだよね。もちろん正しく言えば、「当時は小さい時計しかありませんでした」と言うべきだけど、改めて見ると、めちゃくちゃカッコいいって話。
※1 セルジュ・ゲンスブール(Serge Gainsbourg) 1928-1991 フランスの作曲家、作詞家、歌手、映画監督、俳優。
※2 アーネスト・ヘミングウェイ(Ernest Hemingway) 1899-1961 アメリカの小説家、詩人、ジャーナリスト。
北原 徹 中学入学をきっかけに時計を持たされるっていうか持つっていうか、人生で最初に時計に触れるタイミングってそのくらいじゃない?
堀川博之 そうでしたね。
北原 徹 だから僕はボーイズサイズっていうカテゴリーが存在するのだと思い込んでた。12歳の男子なんて、まだまだ未成熟で手首も細いし、どうしても小さいのが必要になるはず。ボーイズっていう呼び方が正しいかどうかはともかくとして、メンズの小振りモデルが、やっぱり必要だったんじゃないかな。
堀川博之 日本だと同じブランド同士で時計がショーケースに並ぶことが多いけど、ミラノの時計店に行くと、それこそいろいろなブランドがひとつのケースに並んでいるんです。多彩にブランドが並ぶことで、むしろそれぞれのキャラクターが際立ち、かえって新鮮に映ります。
「このモデルってこういうふうにも見えるんだ」って驚いたり。だからメンズ、レディスも含めてボーイズ的なものも、いまの時代であれば、あまりカテゴリー分けしなくてもいいのかもしれません。時計を買いに行ったときに「ベルト、長いのでお願いします」って頼めたら面白いですよね。
北原 徹 ベルト穴を増やしたストラップを用意して、「ご夫婦で使えます」って提案したり、レディスモデルでも、「長いストラップに換えさせていただきます」って言ってくれたら、もっと時計選びの幅が広がるな。
前田陽一郎 僕も北原さんと同じく小さい時計好きで、やはり小さいとエレガントさが際立つと思うのと、時計を知っていくとムーブメントへの興味がどうしても湧いてくる。そして時計ケースのなかに、ムーブメントの機械がギッチリ詰まっているのが超好みなんです。だから見た目を大きくしようとか、後から機能を載せるための準備で大きいのではなくて、限界のなかで導き出されたサイズこそが、小振りな時計を見たときの面白さだと思う。
土田貴史 それ分かる! だから知的に見えるんでしょうね。
前田陽一郎 それに、小さい時計って多機能化ができないでしょ。多機能化の可能性を捨てることと引き換えにして小型化しているのだから。
土田貴史 「俺はもうこれしかできない」っていう割り切り感が、かえって潔いですよね。
前田陽一郎 自分を誇大に魅せようっていうよりも、むしろ控え目で。
北原 徹 ボーイズサイズの良さって、多機能じゃないのがいいのかも。シンプルだからこそカッコよく見えていたんだね。たしかに僕がボーイズサイズと思って買っていたものも、単機能でそぎ落とされたデザインだったもん。
土田貴史 この5本でレディスモデルとアナウンスしているのがIWC。IWCのストラップは明らかに短いですが、実際に腕に載せてみると36mmというケースサイズは、実はまったく違和感がないんです。むしろストラップが細い点は、ゲンズブールで言うところの当時の雰囲気をトレースできてるかなとも思います。
北原 徹 これはある種、レディスと言われることの不思議というか。別にベルトを長くすれば、それで話がついちゃうみたいなモデルだね。
堀川博之 最近はひとつのモデルにストラップ3本とか、複数本付属していたり、ストラップもワンタッチで簡単に着脱できるタイプのものが増えているんですよね。
北原 徹 それが長さ違いで付属してたら、シェアウオッチとしても最強だよね。
ウブロ「クラシック・フュージョン チタニウム レーシンググレー」
Ref.|565.NX.7071.LR
ムーブメント|自動巻き(Cal.HUB1110)
ケース素材|サテン&ポリッシュ仕上げのチタニウム
ケース径|38mm
ストラップ素材|グレーアリゲーター✕ブラックラバー(ライン入り)
防水|5気圧
価格|84万7000円(税込)
土田貴史 ノーマルサイズの「クラシック・フュージョン」はかなりの迫力があるのですが、38mmだと「ん? こんなに小さかったっけ?」っていう違和感が興味を引いて、かえって新鮮に映ります。
前田陽一郎 このストラップ、意図的にこの長さにしているんだろうね。アジア圏だったら割と当たり前に男性が着けられそうな気がする。HUBLOTは2005年の「ビッグ・バン」コレクションの誕生から、ひたすらマッシブになって、短期間のうちに世界で戦える時計ブランドになっていった。
小振りなモデルは、そのアイデンティティの真逆にあるのに、むしろデザインが凝縮されてバランスが良くなっている。
土田貴史 「ビッグ・バン」は大きいほうが好きだけど、「クラシック・フュージョン」だったらこのサイズがいいな。
北原 徹 町工場で作られたみたいなデザインだね。
堀川博之 マチコウバ?
北原 徹 職人気質として、しっかりがっちりと作りたいって気持ちがあるのがすごく伝わるね。分かるんだよね。ほかはどちらかというと時計のデザインだけど、これだけ工業デザイン的な感じがする。
前田陽一郎 なるほど、実際そうかも。
北原 徹 きちんとした丸でなくてはいけない、きちんとした直角でなければいけないみたいな、“きちんと”感がすごく出ているし、それに対してのネジの存在もいい。
土田貴史 ブライトリングにはもともとナビタイマーというモデルがあって、このモデルではクロノグラフ機構を外すことによりダウンサイズを図ってます。ただブライトリングはクロノグラフがメインのメーカーなので、登場したときは「ブライトリングがクロノグラフ外し?」って思ったんですが、とてもエレガントというか、スポーツメーカーが考えるドレススタイルってこういうことなんだろうなと感じましたね。
北原 徹 面白い言い方だね。僕は色合い的に一番好きなモデル。シルバーダイアルに対しての赤の差し色ってすごい綺麗だし、それも秒針の先だけなのでエレガント。これはもう完全に僕の好きなデザインの中に入っているモデルです。
土田貴史 北原さんは、時計に関してクラシックなスタイルが好きですよね。
北原 徹 そういう点ではジャガー・ルクルトのレベルソも好み。
前田陽一郎 角型、素敵ですよね。
堀川博之 反転ケースの背面はイニシャルなどをエングレーブできるんですよ。裏返すとブレスレットのようにも見えて、それも面白い。やっぱりレベルソは憧れの存在です。
土田貴史 ん? なぜゆえに“憧れ”ですか?
堀川博之 人の身体は基本的に曲線だし、時計も丸いものだったりするんですけど、その曲線の中にスクエアって、それだけで、いい意味での違和感がある。そこにセクシーさや妖艶さみたいなものが出るんだと思うんです。またこの5本のなかでも特に小さく感じるのに、威光が発揮されていて、憧れますよ。
北原 徹 パーフェクトなデザインですもんね。でも裏側にして腕に着けるかって言われたら、難易度の高い行為ではありますね。
前田陽一郎 1931年にファーストモデルが誕生してますから、90周年! 完成度が高い証拠ですよね。
堀川博之 ベーシックになるどころか、むしろ今なお第一線の存在であり続けているってスゴいです。
オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク クロノグラフ」
Ref.|2631 50R.ZZ.1256OR.01
ムーブメント|自動巻き(キャリバー2385)
ケース、ブレスレット素材|18Kピンクゴールド
ジェムストーン|ベゼルに40個のブリリアントカットダイヤモンド(約0.92カラット)
ケース径、厚|38mm、11mm
防水|50m
価格|726万円(税込)
前田陽一郎 今回の5本で、次に歴史が長いのが「ロイヤル オーク」ですね。デザイナー、誰でしたっけ?
土田貴史 ジェラルド・ジェンタ(※3)氏です。
※3 ジェラルド・ジェンタ(Charles Gerald Genta) 1931-2011 時計デザイナー。オーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」やパテック フィリップの「ノーチラス」、ブルガリの「ブルガリ・ブルガリ」ほか、カルティエ、IWC、オメガ、ユニバーサル・ジュネーブ、セイコーでもデザインを手掛けた。
前田陽一郎 ウブロと同じく、「ロイヤル オーク」も38mmのほうが凝縮された感じがする。「ロイヤル オーク」はバンドの太さも大きさもメンズに向けてるし、あえてボーイズサイズとしての立ち位置で作っているようにも見えるね。
土田貴史 「ロイヤル オーク」って素敵だと思います。しかもウルトラシンっていう薄いモデルもあるし、もうちょっとカジュアルな感じの「オフショア」もあって。「ロイヤル オーク」ファミリーは層が厚いです。そのなかでも、軽やかな印象の38mmコレクションは、売れてしかるべきだと思いますね。
ところで、今回、「レベルソ」や「ロイヤル オーク」といった定番アイテムの評価が高かったところから、次回はクラシックなデザインを守り続けているモデルを集めてみましょうか。
堀川博之 時計界の“アベンジャーズ”みたいな?
前田陽一郎 絶対的に価値が変わらないモノね。
土田貴史 では次回の議題は「オールスター」です。
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オーデマ ピゲ ジャパン
Tel.03-6830-0000
https://www.audemarspiguet.com

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LVMH ウォッチ・ジュエリージャパン ウブロ
Tel.03-5635-7055 
www.hublot.com/

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http://www.jaeger-lecoultre.com

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https://www.iwc.com/ja/

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ブライトリング・ジャパン
Tel.0120-105-707
https://www.breitling.com/jp-ja

                      
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