WATCH & JEWELRY /
FEATURES
2021年4月22日
着けて話そう、時計会議。第2回 ムーンフェイズ編|FEATURES
BREGUET|ブレゲ
A. LANGE & SÖHNE|A.ランゲ&ゾーネ
OMEGA|オメガ
HUBLOT|ウブロ
HERMÈS|エルメス
ムーンフェイズは、知性や繊細さがないと楽しめない。だから、今っぽい
もっぱら機能説明が優先され、専門知識ナシでは楽しみずらくなってきた腕時計の世界。でも、時計の面白さってそれだけではないはず。もっとプリミティブに時計を愛でたい! そこで実際に腕に載せて、そのファーストインプレッションを語り合う「時計会議」をはじめました。連載第2回目の出席者は、クリエイティブ・ディレクター前田 陽一郎、エディター&クリエイティブ・ディレクター堀川博之、OPENERSディレクター松本博幸、時計記事担当 土田貴史の4名です。
Talk by MAEDA Yoichiro, HORIKAWA Masaki, MATSUMOTO Hiroyuki, TSUCHIDA Takashi|Text by KOIZUMI Yoko
自然現象を腕上で愛でる洒脱な行為
土田貴史 今日の議題は、自分がいま注目している「ムーンフェイズ」です。簡単に機能説明しますと、月の満ち欠け(月相)を表示する時計のことで、今日の空の月の形を知ることができます。
本日の議題
・BREGUET ブレゲ「クラシック 7137」
・A. LANGE & SÖHNE A.ランゲ&ゾーネ「サクソニア・ムーンフェイズ」
・HERMÈSエルメス「«アルソー» グランド・リュンヌ」
・HUBLOT ウブロ「アエロ・フュージョン ムーンフェイズ チタニウム ダイヤモンド」
・OMEGA オメガ「スピードマスター ムーンフェイズ」
・BREGUET ブレゲ「クラシック 7137」
・A. LANGE & SÖHNE A.ランゲ&ゾーネ「サクソニア・ムーンフェイズ」
・HERMÈSエルメス「«アルソー» グランド・リュンヌ」
・HUBLOT ウブロ「アエロ・フュージョン ムーンフェイズ チタニウム ダイヤモンド」
・OMEGA オメガ「スピードマスター ムーンフェイズ」
以上、5本
前田 陽一郎 ムーンフェイズの一番の楽しみ、それはポエティックな世界観だよね。簡単に時刻がわかるいまの時代にあって、月の形を知る実用はどこにもない。ところが一見、ムダとも思える機能に、職人たちが情熱を注いで改良・発展させている行為自体が、いまの時代においてポエティックなんだろうと思う。
土田貴史 そうなんですよ。心のお洒落というか、自然現象を腕で愛でる気持ちの余裕。これこそが洒脱な行為だと思うんです。
堀川博之 自分はなぜ時計を使っているのかを考えると、ブレスレットと同じ感覚、ファッションの一部だと思っているんですね。その観点からするとムーンフェイズの装飾性が大いに気になります。どういうデザインのムーンフェイズを選ぶのかで、人となりが明確になると思うんです。
土田貴史 時計ってキャラづくりの最高のアイテムですからね。
堀川博之 それと、現代の私たちでも「今宵はスーパームーンです」と言われれば夜空を見上げます。1000年も前に同じ月を見て歌人が歌を詠んだことを思い浮かべると、時間や空間を超えたロマンを感じます。
松本博幸 ムーンフェイズって機械式時計のなかでも洒落てるっていうか、ツウっぽい印象がありますよね。機械式時計のなかではスタンダードな機構だけど、だからこそ円熟味を帯びた大人の余裕が伝わってくるというか。
前田 陽一郎 そもそも天体観測が時を知る唯一の客観的情報だったことを思えば、それを腕上で示し続けるムーンフェイズは、やはりロマンだって話に戻ってくる。
松本博幸 文字盤の窓に、月をどんな表情で見せるのか、書体はどうか、そうしたディテールでも“品性”が表れるよね。
堀川博之 メーカーの美意識が見て取れます。
前田 陽一郎 僕はムーンフェイズって極めて今っぽい時計だと思っていて、その理由に男性の価値観の変換がある。これまでの男性ファッションは、ある種の不良性が重要なファクターになっていて、体力や腕力がカッコ良さの基準として長く君臨してきたよね。
でも、ひと度、パラダイムシフトが起こると、体力や腕力よりも、知力や発想力が評価されることになる。同時にファッションも、ワイルドなものから知的なものに代わり始めました。
タフでマッチョなものから、エレガンスやポエティックなものへとトレンドがシフトしている。そんななかで、ムーンフェイズというモデルは、知性や繊細さがないと楽しめない。だから、今っぽいんだよね。
でも、ひと度、パラダイムシフトが起こると、体力や腕力よりも、知力や発想力が評価されることになる。同時にファッションも、ワイルドなものから知的なものに代わり始めました。
タフでマッチョなものから、エレガンスやポエティックなものへとトレンドがシフトしている。そんななかで、ムーンフェイズというモデルは、知性や繊細さがないと楽しめない。だから、今っぽいんだよね。
小さなグラフィック。そこに込められた美意識
前田 陽一郎 月の描き方から各モデルを見ると、A. LANGE & SÖHNEの場合、月そのものはとてもシンプルなのに、夜空の星については小さな星の輝きまで丁寧に描かれている。
HERMÈSは、抽象的に星と月を描いているけど、その描かれ方がなんともファンタジックで『星の王子さま』のイラストを見ているような印象なんだよね。
BREGUETに至っては、月の表面がデコボコとしていて、職人さんがひとつずつ叩いて作り上げていると容易に想像できる。一方で、OMEGAはNASA支給のフォト画像を使用していて、リアルに月に行った唯一のブランドだという矜持が伝わってくる。
HERMÈSは、抽象的に星と月を描いているけど、その描かれ方がなんともファンタジックで『星の王子さま』のイラストを見ているような印象なんだよね。
BREGUETに至っては、月の表面がデコボコとしていて、職人さんがひとつずつ叩いて作り上げていると容易に想像できる。一方で、OMEGAはNASA支給のフォト画像を使用していて、リアルに月に行った唯一のブランドだという矜持が伝わってくる。
土田貴史 ロマンとポエティック、装飾性という意味で、なかなか頑張ってるなと思うのがHUBLOTだと僕は思っているんです。メンズで、ムーンフェイズで、ダイヤ付き、しかも地金はチタン。そして238万円という価格は、なかなかお値打ちです。
堀川博之 それぞれのブランドの立ち位置やアイデンティティみたいなものが、小さなグラフィックの中に込められているっていうことがよく分かりますね。
土田貴史 ちなみにこの5本のなかで、実はHERMÈSだけアンダー100万円の68万1000円(税別)なんですよ。アルソーという鐙のラグ形状、ギャロップしてるような数字インデックスのファンタジー感のあるデザイン、そこにムーンフェイズはとても相性がいいです。
前田 陽一郎 むしろ今までなかったのがイメージできないくらいだね。
堀川博之 HERMÈSってそういった意味では非常にかわいいですよね。
前田 陽一郎 存在自体がポエティックだし。
土田貴史 馬具とは、めちゃめちゃ実用品なのに、それをあれだけのラグジュアリーブランドに発展させられたのは、ポエティックな思想があるからこそでしょう。
月を腕にして、月を見上げるロマン
土田貴史 前田さん、この中から個人的に1本選ぶなら、どれにします?
前田 陽一郎 A. LANGE & SÖHNEの「サクソニア・ムーンフェイズ」。だって、もう知性の塊っていう感じがする。隙がないし、エレガントだし、ブラックのフェイスも含めてモダンだし。そのバランス感覚がすごい。いい意味でドイツっぽくない雰囲気も好みだな。
土田貴史 旧東ドイツ領のグラスヒュッテで育まれたデザインですからね。この意匠は100年後も古びてなさそうだし、普遍性が極めて高いと感じます。
堀川博之 僕はBREGUETにモダンさを感じます。オーセンティックな顔つきですが、見れば見るほどA. LANGE & SÖHNEとも違う隙のなさがあって、ものすごい丁寧に作られていると分かる。まったく手を抜いていないのに、一見、主張しすぎていないという表現力にも驚かされます。
それにムーンフェイズの牧歌的な表現にも他モデルとの違いを感じます。月の凹凸感に加えて、星々もカラフルに描かれていますよね。僕としてはカットソーを少し腕まくりして、皆さまに開陳しつつも、Gショック着けてるみたいな感覚で、日常時計としたい。生活の中に溶け込ませてみたいですね。
それにムーンフェイズの牧歌的な表現にも他モデルとの違いを感じます。月の凹凸感に加えて、星々もカラフルに描かれていますよね。僕としてはカットソーを少し腕まくりして、皆さまに開陳しつつも、Gショック着けてるみたいな感覚で、日常時計としたい。生活の中に溶け込ませてみたいですね。
前田 陽一郎 その話を聞きながら思ったんだけど、BREGUETとA. LANGE & SÖHNEを着ける時は、いい靴を履きたいよね。一方で、OMEGAとHUBLOTはもっと軽快な、レザースニーカーが似合いそうな気がする。その中間にあるのがHERMÈS。革靴もレザースニーカーでもいけちゃう。
松本博幸 モードな人こそ、BREGUETを着けると似合いそう。そのギャップ感がいい。
堀川博之 僕もそう思いますね。
前田 陽一郎 コム・デ・ギャルソンを着てる人が、BREGUETしてたら、めちゃくちゃかっこいい。
土田貴史 皆さんはファッション的なアプローチで、OMEGAの不朽の名作スピードマスターをどう捉えますか?
堀川博之 僕らにとっては学生の頃からの憧れの時計ですからね。先輩たちが腕に着けているのを見て、カッコいいな、欲しいなって思ってきました。とはいえ、あの当時のスピードマスターと、現代のモデルには隔世の感がありますね。攻めてる感じで、若々しさがあります。
松本博幸 その通り! ちなみに、僕個人としては、やっぱりHERMÈSに惹かれるなぁ。時計ブランドにはない良さがある。
土田貴史 いい意味で力が抜けてますよね。ガチガチじゃない感じ。
松本博幸 上下非対称という特徴がとてもGOOD。インデックス数字の躍動している感じもすごくいいです。
前田 陽一郎 いわゆる時計屋さんの発想じゃないよね。視認性の追求だけでは辿り着けないデザインです。
松本博幸 そうそう。ネイビーのコーデュロイのセットアップに、黄色いハイゲージのタートルを着て、HERMÈSを腕に着けたい。
前田 陽一郎 で、下北沢の居酒屋行く。
松本博幸 いやパチンコ屋(笑)。春なら、細番手のコットンピケの上下に……
前田 陽一郎 シャルベの細番手とか?
松本博幸 そうだね、それにピケの同系色のネクタイを締めて、仕上げがHERMÈS。
前田 陽一郎 お洒落だなぁ。でも行くとこなくて、一人でフラフラしてたりして(笑)
松本博幸 できたらそのスタイルでDJやりたいな。
堀川博之 それはカッコいい! お洒落。
土田貴史 僕はHUBLOTを着けて、お洒落なバーに繰り出したい!
前田 陽一郎 僕は「サクソニア」をはめて、それでまだ見ぬ別荘で、月の夜に、ソファに座りながら、テラスに出てコーヒーを飲みながら『陰翳礼讃』を読む!
土田貴史 何だ、それ(笑)
堀川博之 揃いすぎていません? キーワードが(笑)
前田 陽一郎 そういう人に僕はなりたいんです。だってカッコいい時計なんだもん。だからカッコよくありたいでしょ。ん、ちょっと待て。ドビュッシーをかけながらの陰翳礼讃にするか。
土田貴史 うわ、まだ好感度上げるつもりだ(笑)。というわけで、次回は「VALUE FOR MONEYな時計」を議題にした会議です!
問い合わせ先
ブレゲ ブティック銀座
Tel.03-6254-7211
https://www.breguet.com/jp
問い合わせ先
A.ランゲ&ゾーネ
Tel.0120-23-1845
http://www.alange-soehne.com/
問い合わせ先
エルメスジャポン
Tel.03-3569-3300
www.hermes.com
問い合わせ先
LVMH ウォッチ・ジュエリー ジャパン ウブロ
Tel.03-5635-7055
http://www.hublot.com/
問い合わせ先
オメガお客様センター
Tel.03-5952-4400
https://www.omegawatches.jp
Ref|384.029
ムーブメント|自動巻き(Cal.L086.5)
ムーンフェイズ精度|122.6年間で1日の誤差
ケース素材|18KWG
ケース径・厚さ|40mm・9.8mm
ストラップ素材|手縫いアリゲーターレザー
防水|3気圧
価格|379万5000円(税込)