連載|名畑政治 第4回 カスタムメイド・ウォッチの愉しみ(その2)
Watch & Jewelry
2015年4月13日

連載|名畑政治 第4回 カスタムメイド・ウォッチの愉しみ(その2)

連載|名畑政治

第4回 カスタムメイド・ウォッチの愉しみ(その2)

小型の懐中時計を改造して腕時計に仕立てる。そんな着想が実際に施された高品質な改造腕時計。
それを、僕はついにネットで発見したのです。

文と写真=名畑政治

ネットで名品発掘!

「サミュエル・カーク&サン」の腕時計改造で味をしめた僕は、カスタムメイドのベースとなる時計を、さらに熱心に探しはじめました。その過程で、いくつかのムーブメントを手に入れましたが、これはあらたにケースをつくってもらわなければなりません。それには、やはり手間とコストがかかります。さて、どうしたものか、とかんがえていたところ、ネット・オークションでこの時計を見つけたのです。

それがスイスのマニュファクチュール「C.H.メイラン」が製作し、アメリカ・フィラデルフィアの老舗時計宝飾店「ベイリー・バンクス&ビドゥル」が販売した小さな金の腕時計でした。

昔からあった改造手法

この時計、見ておわかりのように、通常の腕時計なら3時であるべきところにリューズがあり、9時であるべきところにスモールセコンドのサークルが設置されています。つまりこれは、もともと婦人用のペンダント・ウォッチだったものにラグを取り付け、腕時計に仕立てたものなのです。この改造は、最近ではなく、かなり昔に施されたもののようです。

婦人用の懐中時計を改造して腕時計に仕立てるというアイデアは、僕の専売特許というわけではなく、じつはずいぶん昔から、行われてきた手法だったというわけです。

ベイリー・バンクス&ビドゥルについて

最初、この時計のムーブメントをウェブで見たとき、パテック フィリップの製品かと思いました。そのくらい、この時計のクオリティは高いものなのです。

ところがうまいぐあいに落札し、手元に届いて確認したところ、スイス・ジュウ渓谷にあったメイランの工房でつくられたものと判明しました。無論、これも名品であり、スイス時計のトップ・クラスに属する高品質なものであることに間違いありません。

そして、やはり気になるのが、この時計を販売した「ベイリー・バンクス&ビドゥル」という時計宝飾店です。ネットで調べたところ、サミュエル・カーク&サンと同様、1832年に創業した銀器および宝飾品の店だとわかりました。

やがて19世紀の終わりごろから、ベイリー・バンクス&ビドゥルはスイスのパテック フィリップやメイラン、ロンジンなどに別注した特別仕様時計の販売を開始し、全米屈指の老舗高級時計宝飾店となりました。

僕も同社の銘が入ったパテック フィリップの懐中時計をひとつ所有しています。ちなみに同社は現在も盛業中です。

ブリッジの一部にロジウム・メッキの剥がれが見られるが、非常に高品質なつくりのメイラン製ムーブメント。
その素材はメッキが剥がれた部分から、高級時計に使われるジャーマン・シルバー(洋銀)とわかる。
「五姿勢で調整。18石」と手で刻まれており、時間も正確。

カスタムメイドに注目

最近、このような改造のためのベースとして、古い小型懐中時計の価格がじわじわと上昇しつつあります。また、おなじようにカスタムメイドの素材として小型懐中時計のムーブメントも注目され、以前と比べると格段に入手しにくくなっています。

この現象は時計マニアとしてはつらいところですが、それだけ現行時計の価格が上昇し、ちょっとやそっとの出資では高品質なモデルが入手しにくくなっていることを証明しています。

その点、ケースなしのムーブメントは、比較的、廉価で入手できるので、ケース入れさえどこかでやってもらえれば、自分だけのカスタムメイド・ウォッチが手に入れられる愉しみがあります。

僕も相当数のムーブメントをすでに入手済みで、今後は、これを素材に時計を仕立ててもらおうと思っているのです。もちろん、それには先立つものが必要であり、これが頭の痛いところなのですね。

           
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