連載|名畑政治 第2回 オメガマニア!
連載|名畑政治
第2回 オメガマニア!
2007年春、スイス・ジュネーブで開かれたオメガだけのオークション「オメガマニア」。じつは筆者こそ
筋金入りのオメガマニア!
いま、そのきっかけとなった半世紀前のオメガを手に取り、“良い時計の条件”をかんがえる。
文と写真=名畑政治
2007年春のオメガマニア・オークション
時計好きならご存じかと思いますが、スイスのジュネーブに「アンティコルム」という時計専門のオークション・ハウス(競売業者)があります。創立は1974年といいますから、すでに30年以上の歴史があります。
このアンティコルムが、2007年4月に「オメガマニア」というオークションを開催しました。
これはその名のとおり、オメガだけにテーマを絞ったワン・ブランドのオークションでした。
このオークションの開催の知らせを受けたとき、僕がいちばん驚いたのは、「オメガマニア」という名称です。
日本では「マニア」という言葉は、「趣味に熱中している人」といった意味で、わりと普通に使われますが、欧米では、よほどのことがない限りつかわれないようです。
たとえばスイスを訪ね、時計会社の人との会話中、何気なく「日本の時計マニアは……」といった表現をつかうと、非常に怪訝な顔をされます。
どうやらあちらでは「マニア」というと「モノゴトに度を超して熱中し、かなりいっちゃった人」といったニュアンスらしいのです。
その「マニア」という言葉を、なんとアンティコルムがオメガ専門オークションのタイトルとして堂々とつかってきたこと。それが僕を驚かせたのです。
オメガマニアとは僕こと?
しかも、「オメガマニア」といったら僕自身のことじゃないですか!
なぜなら時計収集をはじめたころ、最初に手に入れたスイス製ヴィンテージ・ウォッチが、ほかならぬオメガであり、それ以来、僕はまさに「オメガマニア」を地でいく熱狂ぶりで、オメガの時計や周辺のグッズを探しはじめたからなのです。
そのおかげ(?)か、「オメガマニア」の日本語版ダイジェスト・カタログの編集と原稿の依頼が舞い込んできました。
これを僕が、ふたつ返事で引き受けたことはいうまでもありません。
とはいえ、年末から年始にかけての非常にタイトなスケジュールでの作業は困難を極めましたが、なんとか日本でのプレビューに間に合い、多くの方にご好評をいただけたのは幸いでした。
マイ・ファースト・オメガ
ところで、その最初に手に入れたオメガとは、1950年代末に登場した「シーマスター・カレンダー」です。
ケースは金張り。自動巻きのCal.503を搭載し、3時位置には日付表示の窓が付いています。
ちょっとめずらしいのは、その日付表示を拡大するサイクロップ・レンズ(サイクロップとは“ひとつ目の巨人”のこと)が丸型であることです。
このようなモデルは、オメガに関する資料を見ても載っていませんし、アンティーク・ウォッチ・ショップなどでも見たことがありません。
では、プレキシ・ガラス(アクリル・ガラス)が社外品かといえばそうではなく、中央部には内側から刻印された“Ω”のマークがはっきり確認できます。
みなさんも、お手元にヴィンテージ・オメガがあったら、プレキシ・ガラスの真ん中をルーペで確認してください。そこに小さな“Ω”マークがあれば、それは純正品の証拠です。
良い時計の条件
もちろん、この“マイ・ファースト・オメガ”は、いまも僕の手元にあります。
ただ、その後、あまりにもたくさんのオメガと、いろいろな会社の時計を手に入れてしまったため、このシーマスターの出番はほとんどなくなり、最近はコレクション・ケースにしまわれたままになっていました。
そこでこの原稿を書くため、久しぶりに引っ張り出して見たところ、まだまだ十分なコンディション。試しに腕に嵌めてみると、手に入れた時の感動が甦ってきました。
近々、馴染みの修理屋さんに持ち込み、メッキのはげたリューズを交換し、オーバーホールをして現役復帰させようと思います。
たぶん、パーツ供給も大丈夫なはず。すでに製造されて半世紀近くを経た時計ですが、メーカーも健在で、適切なメインテナンスさえ施せば、しっかり働いてくれる。それが良い時計のひとつの条件でもあるのです。