連載|名畑政治 第3回 カスタムメイド・ウォッチの愉しみ(その1)
連載|名畑政治
連載|名畑政治 第3回 カスタムメイド・ウォッチの愉しみ(その1)
時計趣味の終着点、それがカスタムメイド・ウォッチ。でも高価で到底、買えません。
そこで僕がひねりだした裏技が、アンティーク時計の“改造”だったのです。
文と写真=名畑政治
世界にひとつの時計が欲しい!
時計の収集を長くやっていると、やはり他人がもっていない時計が欲しくなってきます。限定モデルの人気も原点は一緒ですが、その思いがさらに進み、“絶対に誰ももっていない時計じゃなければ!”となれば、その究極のかたちはカスタムメイド・ウォッチです。
実際、スイスやドイツ、アメリカには顧客の注文に応じて時計を“仕立てる”、カスタムメイドの時計工房がいくつもあります。とはいえ精密機械である腕時計をオーダーでつくるなんて、多大なコストがかかるため、そう簡単に頼めるものではありません。
そこで僕が思いついたのは、既存の時計をちょっとした改造でカスタムメイド・ウォッチに仕立ててしまう方法でした。
ベースは100年前の懐中時計
それが今回、紹介するモデル。これは100年ほどまえにつくられた婦人用の小型懐中時計(ペンダント・ウォッチ)にストラップを装着する「ラグ(脚)」を取り付けて、腕時計に仕立てたものです。
改造は、行きつけのアンティーク時計店「マサズ パスタイム」(http://www.antique-pastime.com/)を介して、宝飾工房にお願いしました。ケースはソリッドゴールドなので、ラグもやはり金の無垢棒で製作し、間隔を20mmと指定して蝋付けしてもらいました。だからコストもそれなりにかかりましたが、イチから時計を仕立てるのに比べれば、数十分のいちで済んでいます。
ハンター・ウォッチが刻む優雅な時
ちなみに、このスタイルは蓋付きの「ハンター・ケース」と呼ばれるもの。ハンター(猟師)が衝撃に弱いガラスを保護するために、このタイプの時計を使ったことから、この名が生まれたといいます。そして、このタイプならリューズが3時の位置にあるので、腕時計に仕立てた場合、時刻を読み取りやすいというメリットもあります。
もっとも、改造時には蓋を取り外してしまおうと思ったのですが、結局、そのままにしておきました。理由は技術的に難しいことと、あえてハンター・ウォッチのまま使うのもおもしろいのでは、とかんがえたからです。
ただ、開閉機構を温存したまま腕時計に仕立てたため、リューズが長く飛び出しており、これが手の甲に当たって勝手に蓋が開いてしまうことがあるのが困りもの。したがって、この時計を使うのは激しい動きをしないパーティなどの時に限定されます。
まぁ、耐振装置も装備しない古い時計ですから衝撃は禁物。しかも、右手に何かもっていると蓋が開けられず、時刻も読み取れませんから、気もちにゆとりがなければ到底、使えません。その意味でもパーティ限定ウォッチで正解だと思っています。
世紀を超えて生きる時計
この時計を手に入れたのはアメリカのアンティーク時計店。琺瑯製の文字盤には「SAMUEL KIRK & SON.」とあります。
調べたところ、サミュエル・カーク&サンは、1815年、メリーランド州ボルティモアに創業したハイクオリティな銀器と宝飾の店。搭載するムーブメントはスイス製ですが、ちょっと変わったスタイルで、どこのマニュファクチュールの製造かは、私も、これを改造したアンティーク時計屋さんでもわかりませんでした。
ただし、クオリティはなかなかで、つくられてから100年ほどたったいまでも、正確に時を刻みます。その意味でも、この時計は手放せないものとなりました。