特集|ジャガー・ルクルト、麗しきジュビリー・コレクションの世界
Jaeger-Lecoultre|ジャガー・ルクルト
マーケティング ディレクター、ステファン・ベルモンが語る
麗しきジュビリー・コレクションの世界(1)
1833年にジュウ溪谷のル・サンティエからはじまったジャガー・ルクルトの歴史。スイス時計界のなかでも一貫してマニュファクチュールにこだわり、その地位を築き上げた数少ないブランドのひとつだ。創業180周年を迎えた今年は、アニバーサリーモデルとして「ジュビリー・コレクション」3部作を披露。そのことは、すでにジュネーブサロン速報でご存知の好事家も多いかと思うが、去る6月初旬、このモデルが日本初上陸を果たした。開発の総指揮を執った同社のプロダクト&マーケティングディレクター、ステファン・ベルモン氏とともに、その魅力をじっくりと紹介したい。
Photographs by JAMANDFIXText by SHIBUYA Yasuhito
ブランドの過去・現在・未来を3本の腕時計で表現
1980年代末の復活から、劇的な進化と発展をつづけるスイスの機械式高級腕時計。その先頭を走るのは、スイスで“複雑時計の谷”と呼ばれる山岳地帯、ジュウ溪谷。この地区にある最初のマニュファクチュールであり、今年創業180周年を迎えたル・サンティエのジャガー・ルクルトだ。
去る6月初旬、この180周年記念モデル「ジュビリー・コレクション」がはじめて日本に上陸。この開発の総指揮を執った同社のプロダクト&マーケティングディレクター、ステファン・ベルモン氏に、その中に込められた新技術と作り手たちの想いを聞いた。
「私たちはこのコレクションで、ジャガー・ルクルトの過去・現在・未来を表現しました。“過去”の私たち、つまり19世紀のジャガー・ルクルトを象徴するモデルが『マスター・グランド・トラディション・トゥールビヨン・シリンダー・パーペチュアルカレンダー・ジュビリー』。“現在”を象徴するモデルが、いま世界でもっとも薄い手巻き機械式モデル『マスター・ウルトラスリム・ジュビリー』。そして、『マスター・グランド・トラディション・ジャイロトゥールビヨン 3・ジュビリー』は我々の“未来”を象徴するものです」
Jaeger-Lecoultre|ジャガー・ルクルト
マーケティング ディレクター、ステファン・ベルモンが語る
麗しきジュビリー・コレクションの世界(2)
オールドファッションなだけではない
もともと技術畑の出身で、ジャガー・ルクルトの時計作りのすべてを指揮・統括するテクニカルディレクターであり、現在はマーケティングディレクターも兼任するステファン・ベルモン氏は語る。
「まず過去を象徴する『マスター・グランド・トラディション・トゥールビヨン・シリンダー・パーペチュアルカレンダー・ジュビリー』からご説明しましょう。19世紀の終わり、当時は懐中時計の時代でしたが、驚くべきことにこの時点で、ジャガー・ルクルトは500種類ものキャリバー(ムーブメント)を製作していました。当時から現在と同様の“100年先を行く”時計作りを、当時の人々はおこなっていたのだと思います。そしてこのモデルはその当時の人々の、エレガントで精密で美しい時計作りに捧げるオマージュモデルなのです」
その考えは、フライングトゥールビヨンとパーペチュアル(永久)カレンダー、ふたつの複雑機構を搭載するこのモデルのディテールにさりげなく盛り込まれている。
「優雅な丸みを持たせたケースサイドは、当時の懐中時計のデザインからイメージ。また窪みを持たせたベゼル部分も、丸みを帯びたラグも、当時の優雅な懐中時計のデザインをモチーフにしたものです。もちろん、ただオールドファッションなだけではありません。トゥールビヨンのダイナミックな動きがより楽しめるようにブリッジのないフライングタイプとし、その心臓部には弊社が史上初めて腕時計に組み込むことに成功した、シリンダー型ヒゲゼンマイを採用しています。またトゥールビヨンの軸受には注油が不要で耐久性の高いセラミック製ボールベアリングを組み込んでいます」
Master Grande Tradition Tourbillon Cylindrique à Quantième Perpétuel Jubilee|
マスター・グランド・トラディション・トゥールビヨン・シリンダー・パーペチュアルカレンダー・ジュビリー
複雑時計シリーズ「マスター・グランド・トラディション」の新作として登場した本作は、フライングトゥールビヨンと永久カレンダー、ふたつの複雑機能を搭載。トゥールビヨンのヒゲゼンマイにはシリンダー型を採用。左右対称を基本としたクラシックな文字盤のデザインや、1889年のパリ万国博覧会で授与されたゴールドメダルのデザインを自動巻きローターに採用するなど、革新性だけでなく、歴史的なスタイル、モチーフも織り込まれている。
自動巻き、エクストラホワイトPTケース、アリゲーターストラップ、ケースサイズ直径42mm、スモールセコンド表示としても機能する、1分間で1回転するフライングトゥールビヨン脱進機、431個のパーツで構成されたキャリバー985搭載、50m防水、世界180本限定、1585万円、今夏発売予定。
Jaeger-Lecoultre|ジャガー・ルクルト
マーケティング ディレクター、ステファン・ベルモンが語る
麗しきジュビリー・コレクションの世界(3)
“薄さ”よりも“美しさ”にこだわった超薄型モデル
そして現在のジャガー・ルクルトの時計作りを象徴するのが、ケースの厚さわずか4.05mmという、手巻き式では現在もっとも薄い腕時計「マスター・ウルトラスリム・ジュビリー」だ。
「20世紀の当社の時計作りを象徴するモデルとして企画・製作したこのモデルは、いつの時代も幅広い層のお客様から、特に日本の方々からずっと愛して頂いてきた超薄型腕時計の究極です。“世界で最も薄い”ことよりも“エレガントであること”にこだわって作りました。もっとケース厚を薄くすることは技術的には可能でした。ですが、あえてそうしなかったのです」
機械式時計技術の究極というと複雑機構を搭載したモデルにばかり目がいってしまうが、超薄型機械式モデルも実は複雑時計と変わらぬ究極の技術がなければ製作できない究極の逸品、隠れたコンプリケーションモデルである。紙のように薄い歯車やバネを製造し、それを何層も積み重ねて、無理なく正確に動作させる。そのためには、特別な技術やノウハウが必要だ。
「1907年製の懐中時計のデザインをモチーフにしたこのモデルの中には、数多くの技術的革新が詰まっています。たとえばこの腕時計には、“ケース”と呼べる部分がありません。従来の腕時計ケースでいえば、ベゼルと裏ブタしかない構造なのです。だからラグは裏蓋とネジで一体化しています。またサファイア風防も特別な形状をしています。文字盤の中央部をフラットに、周辺部を丸く仕上げてあります。つまりボンベ型とフラット型の風防、2つのフォルムを融合させているのです。これも時計史上初の技術です」
Master Ultra Thin Jubilee|
マスター・ウルトラスリム・ジュビリー
ジャガー・ルクルトが技術の粋を集め開発した手巻き機械式ムーブメント、キャリバー849を搭載した、ケース厚4.05mmという現時点で世界最薄の手巻きモデル。バーインデックスと2本のリーフ針で構成されるシンプルで繊細な顔と、紙のように薄い歯車やバネで構成される繊細なムーブメントの組み合わせ。伝統と最新技術が融合した名作だ。
手巻き、エクストラホワイトPTケース、アリゲーターストラップ、ケースサイズ直径39mm、123個のパーツで構成されたキャリバー849搭載、世界880本限定、171万1500円。今夏発売予定。
Jaeger-Lecoultre|ジャガー・ルクルト
マーケティング ディレクター、ステファン・ベルモンが語る
麗しきジュビリー・コレクションの世界(4)
トゥールビヨン機構の未来を追求した「ジャイロトゥールビヨン 3」
そして未来のジャガー・ルクルトの時計作り、現時点でもっとも先進的な機械式モデルとして企画・製作されたのが「マスター・グランド・トラディション・ジャイロトゥールビヨン 3・ジュビリー」。重力による時計の進み遅れを軽減するトゥールビヨンの理想を追求し、平面(二次元)で脱進調速機を納めたキャリッジ(カゴ)を回転させるのではなく、まるで地球ゴマのように3次元方向でケージを回転させる機構を搭載している。
2004年に発表され時計界にセンセーションを巻き起こした「ジャイロトゥールビヨン1」、2008年に発表された「レベルソ・ ジャイロトゥールビヨン 2」をさらに進化させた究極の“ジャイロトゥールビヨン”モデルだ。
「21世紀のジャガー・ルクルトを象徴するこのモデルのトゥールビヨン機構には、アルミニウム合金やチタンなど最先端の技術と素材を採用しています。時計史上初の球体ヒゲゼンマイと14Kブルーゴールド製のテンプを使った脱進調速機。それを納めて回転するアルミニウム合金製の二重構造のキャリッジなど。伝統的な素材だけではこのメカニズムは実現できませんでした」
ユニークなデジタル表示のワンプッシュクロノグラフ機構をも備えたこのモデルには、ジャガー・ルクルトの最新技術が惜しみなく投入されているのである。
Master Grande Tradition Gyrotourbillon 3 Jubilee|
マスター・グランド・トラディション・
ジャイロトゥールビヨン 3・ジュビリー
2004年の「ジャイロトゥールビヨン 1」2008年の「レベルソ・ジャイロトゥールビヨン2」に続く「ジャイロトゥールビヨン」機構を搭載する最新作。球体型のジャイロトゥールビヨンは、今回ブリッジのないデザインとなり、ヒゲゼンマイも球体型に進化。さらに2時位置のプッシュボタンを操作することでデジタル表示が瞬時におこなわれるクロノグラフ機能も搭載する。
手巻き、エクストラホワイトPTケース、クロコダイルストラップ、ケースサイズ直径43.5mm、二重2軸構造ケージ(外側は1分間で1回転、内側は24秒で1回転)を持ち、ブルーイングをほどこした球体ヒゲゼンマイと14KG製テンプを使い、112個のパーツで構成される重さ0.43gのキャリッジを持つキャリバー176を搭載、50m防水、世界75本限定、39万6900ユーロ(予価)。12月発売予定。
Jaeger-Lecoultre|ジャガー・ルクルト
マーケティング ディレクター、ステファン・ベルモンが語る
麗しきジュビリー・コレクションの世界(5)
3作すべてに共通する“精度と信頼性の追求”
ジャガー・ルクルトの素晴らしさは、こうした限定モデルだからといって、時計の本分である時間精度、時を知る道具としての信頼性・耐久性をおろそかにはしないことだ。3モデルとも、ジャガー・ルクルト独自の「1000時間テスト」をクリアしている。このテストはスイスクロノメーター検定協会(COSC)がおこなうクロノメーターテストよりもケタ違いに厳しいもの。約6週間の長きにわたり、ムーブメント単独でなくケースに納めた状態で徹底的な精度テストが実施されるのだ。
「精度と信頼性の追求は、私たちジャガー・ルクルトの本分であり、この点を疎かにすることはこれからも絶対にありません。私たちが現在、シリコン系の素材を脱進調速機に採用していないのは、現時点で伝統的な素材の方が精度が高いからです。新素材や新技術の開発はこれからも積極的におこなっていきます。そして開発した技術を、伝統のスタイルとともに維持しながらスタンダードモデルにも導入していきたいと考えています。
たとえば今回のモデルに採用したシリンダー型のヒゲゼンマイは、従来のフラットなカタチのヒゲゼンマイよりも高精度が実現できることが分かっています。いずれ多くのモデルに採用されることになるでしょう。1000時間テストの内容についても、着用状態を再現する、動的な状態での精度をチェックするなど、さらに進化させることを考えています。
機械式腕時計のメンテナンス期間は伸びる傾向にあります。5年から、将来的には10年程度は安心して使えるように進化させていきたいですね。現状でも、メンテナンスさえちゃんとして頂ければ、100年は間違いなくご愛用頂ける自信があります」
時代に合わせて、変わらぬスタイルと美を追求
「時計デザインの世界では、時代によって人々の美意識には微妙な変化が起こります。そして、求められるケースのサイズやスタイルも同様に。ですから、時代に合わせて常にリファインをおこなうことは必要です。しかし、伝統で培われた基本的なスタイルを変えることは絶対にありません。これからも“時代が求める以上の価値がある”腕時計を作り続けていくことをお約束します」
過去・現在・未来。精度や信頼性とともに“美の追求”を続けていくジャガー・ルクルト。“複雑時計の谷”と呼ばれるスイス・ジュウ溪谷で生まれた世界屈指のマニュファクチュールブランドにとって、180年とはただの通過点に過ぎないのだ。
Stephane Belmont|ステファン・ベルモン
ジャガー・ルクルト マーケティング ディレクター
1990年にローザンヌ工科大学を卒業した後、フランス大使館のコンサルタントに着任。ベネズエラにおける科学技術園の設立事業等に従事する。当初、時計職人の子孫であるにもかかわらず家業を継ぐつもりはなかったが、1992年、当時LMH投資グループの社長だった故ギュンター・ブルームライン氏により、IWCのクオリティーマネージャーとして招かれる。ジャガー・ルクルトでの業務は2000年から。2001年以降同社のマーケティング ディレクターとして現在に至る。
ジャガー・ルクルト
Tel. 03-3288-6370
http://www.jaeger-lecoultre.com