銀座並木通りの直営ブティックについて、ジャガー・ルクルトCEOが語る|Jaeger-LeCoultre
Jaeger-LeCoultre|ジャガー・ルクルト
本物であること、その安心感を
これからも変わることなく提供していく(1)
昨秋、日本初のジャガー・ルクルトの直営ブティックが、東京・銀座の並木通りに誕生した。スイスの多くのブランドが直営店をオープンさせているなかで、ついにジャガー・ルクルトも店舗展開に乗り出す。このインタビューでは、ダニエル・リエドCEOにその意気込みを語ってもらった。
Text by TSUCHIDA Takashi(OPENERS)
時計には哲学ありき。その哲学を発信するのがブティック
――日本にはジャガー・ルクルトを古くから扱う時計店が豊富にあるなかで、今一度、直営店を出展する意義を教えてください。
マルチブランドの時計店ではむずかしい、ブランド独自のメッセージを発信するためです。
ここ最近、お客さまは自分だけのオリジナルモデルを欲する傾向があります。例えば、我々が提供しはじめた「アトリエレベルソ」というサービス。このサービスはカスタマイズという価値を提供するもので、文字盤の色などを自由に組み合わせることが可能です。ここでは自分が選んだ個性的なモデルを作ることができるのです。
レベルソはもともと反転ケースの裏側にエングレーブをすることができました。しかし現在のレベルソは両面に文字盤が付いています。そこで裏側の文字盤の色、ストラップをビスポークできるようにしたのです。
女性向けにはクリスチャン・ルブタンがデザインした文字盤を選択することも可能です。この提携は期間限定。彼との提携理由をしばしば聞かれるのですが、この提携については私達の発想にないものをユーザーに提供したいという思いから、実現に至りました。
――レベルソの話が出たので、ちょっと脱線させてください。先ほどから気になって仕方がないのですが、今日も素晴らしい時計をなさってますね。
(笑)ジャガー・ルクルトの最も複雑なコレクション“ハイブリス・メカニカ”から、ジャイロトゥールビヨンを備えた最新モデル「ジャイロトゥールビヨン4」です。トゥールビヨンは3軸で回転しています。この3軸で回転させているだけでも非常に複雑な機構なのですが、さらにこのモデルではトゥールビヨンが宙に浮かんでいるように見せています。実はケージの外側でセラミックボールのベアリングを用いて回転させているのです。
ジャイロトゥールビヨン自体は2軸で回転しています。このモデルは精度をさらに安定させるために、これまでよりも回転速度を速めています。1分間に1回転と、16秒で1回転。かつては1分間に1回転と、24秒で1回転でした。
また、ひげぜんまいは球体型から半球体へ。軽量化を図るため、ケージはチタン素材を採用しています。
――なるほど。すみません、話を戻しますね。直営店を設営するにあたり、「空間づくり」「接客方針」「品揃え」の観点において、こだわった事柄を教えてください。
空間づくりについては、店舗中央にショーケースを設置したことが挙げられます。通常の店舗は壁面に置かれることが多いと思いますが、この方が時計をご覧になりやすいのではないかと思っています。
またVIPのお客さまをお迎えするために、奥に専用スペースを用意しています。
Page02. 直営ブティックには技術者も常駐する
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直営ブティックには技術者も常駐する
そして直営店にはジャガー・ルクルトの技術者が常駐していますので、コマ詰めをはじめとするクイック修理はもちろんのこと、個別にご質問がある場合でも、技術者に直接、話を聞いていただくことが可能です。
――店頭に常駐する技術者は、日本人ですか?
はい。日本の技術者ですが、ジャガー・ルクルトでトレーニングを受けています。
――どういうトレーニングを受けた方ですか?
日本にはすでにアフターサービスセンターを設置しています。そこにも技術者がいて、毎年、スイス本社からトレーナーが技術トレーニングのために来日しています。しかし今回のブティックオープンに向けては、技術者をスイス本国に呼び、さらなるトレーニングを積んでいただきました。
今日ではほぼすべての時計修理を日本の技術者も請け負うことができるのですが、“ハイブリ
ス・メカニカ”になりますとスイス送りになります。ただし我が社の時計は、それほど壊れることがないと思いますが(笑)。
――高額モデルが店内にディスプレイされていると、直営ブティックとしてのメッセージ性を強く感じるのですが、意図していらっしゃいますか?
ええ。そのなかには、ブティック限定モデルもあります。もともとブティックが発信するメッセージというのは、伝統あるスイスの老舗マニュファクチュールとしての存在意義です。当然、複雑時計は欠かせません。
――東京・銀座のブティックは、世界で何店舗の直営店となったのでしょうか?
直営店ということでは、53店舗目。提携パートナーのブティックも含めると、95店舗目のブティックとなります。
――直営ブティックの日本における出展が、他ブランドと比べて遅かったのではないかと感じましたが、何か理由があったのでしょうか?
決して遅れたのではなく、立地条件をこだわってきたからです。ジャガー・ルクルトの立地条件としてふさわしい場所は、東京・銀座の並木通りだったのです。
もちろん、これまでも別候補はあったのですが、100平米程度の店舗面積と1階の路面フロアの確保が実現したのが今回でした。1階以外は考えていなかったですし、銀座並木通り以外もまた考えられません。
Page03. ジャガー・ルクルト2017年の展望
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ジャガー・ルクルト2017年の展望
――ダニエル・リエドさんがCEOに就任して3年以上が経ちましたが、この期間を振り返り、ご自身が打ち出した方針と達成度合いを教えてください。
私はこれまでの会社の方針を変えたことはありません。もともとジャガー・ルクルトには185年の歴史があります。それは技術の研鑽によって積み上げられてきたものであり、私はそれを引き継いでいるだけなのです。ただしコレクションの見直しについては、以下のように推し進めました。
1.「レベルソ」を現在のニーズに合わせたサイズに変更
2.「ジオフィジック」をリニューアル
3.「ランデヴー」による女性向けのラインを拡充
いずれもジャガー・ルクルトの歴史の延長線上にあるものです。
――この先、取り組む課題を可能な範囲で教えてください。
2016年は「レベルソ」が誕生85周年のアニバーサリーイヤーだったこともあり、このシリーズに集中してきましたが、2017年は「ランデヴー」に焦点を当てていきます。またハイブリス・メカニカについては5年以上先に発表するモデルについても開発に着手しています。
社内には設計に携わるエンジニアが120名います。開発部門だけでです。エンジニアとは、設計だけではありません。研究ラボに属する者など、それぞれのセクションで、専門分野に分かれています。
――そんなにいるのですか。それはブランドの規模からすると、とても大人数のように感じますが、それだけ開発に力を入れているということでしょうか?
そうです。我が社では185年の歴史を通じて、常にムーブメントを開発してきました。その数、およそ1400種類。毎年、最低でも2〜3種類の新型ムーブメントを発表しています。ですからジャガー・ルクルトの人材の1/4は、開発部門に所属しているのです。
――高級機械式時計のさらなる成長について、どのようなシナリオを想定していますか?
世界経済が不安定な時に、お客さまが時計を購入する理由とは本物であること、その安心感だと思います。今後は、以前にも増して正統な歴史のあるブランドが選ばれると思います。そしてジャガー・ルクルトはその選択肢になれます。
我が社では、2016年1月に修復部門のアトリエを拡張して、一般の方々に見学していただけるようになりました。時計というアイテムは、代々受け継いだヴィンテージ品も十分に使っていただくことが可能です。修理に持っていけば、また直して使うことができる。我々はその体制を整えておくべきであり、その努力が今日の信頼につながってきたのだと思っています。
スイス時計業界のなかでも、それができるメゾンは少ないと思います。
――しかも、その中枢をオープンにしたのですよね。
ええ。私たちは年間3000〜3500人の見学者を受け入れています。開発エリアだけは、ご遠慮いただいていますが(笑)。
――見学を希望する場合は、どのように手続きするといいのでしょう?
日本のブティックを経由して予約していただければと思います。あるいは、すでにスイスにお越しになっている場合は、スイスのブティックにお問い合わせください。
――この質問を最後にします。率直に申し上げて、高級機械式時計の技術的発展の余地はまだ残されているのでしょうか? あるとすれば、その根拠はどこにありますか?
時計の技術開発は目覚ましいスピードで進化し続けています。コンパクト化や薄型化についてさえも、この10年でまだまだ進化が続いているのです。まったく新たな機構はもちろん、すでにある機構を磨き上げる余地も多く残されています。
もうひとつ、私たちは複雑機構をいくつも搭載することよりも、実用性のある複雑機構、つまり実際に腕に着けられる機構を開発していることに、ぜひご注目していただければと思います。
DANIEL RIEDO|ダニエル・リエド
ジャガー・ルクルトCEO。大学で精密機械工学や金融を学び、ロレックスに入社。ロレックスおよびチュードルでキャリアを重ね、ジャガー・ルクルトに移籍し、インダストリアル・マネージャーに。2013年より現職。
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