ニュージーランドの銘醸地マールボロに日本人生産者を訪ねる|TRAVEL
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2024年3月23日

ニュージーランドの銘醸地マールボロに日本人生産者を訪ねる|TRAVEL

TRAVEL|ニュージーランド

New Zealand 2023−2024の最新情報を紹介する全3回の連載。その3

マールボロ──、ワイン愛好家なら「おっ」と反応する地名だと思う。南島の北端に位置する、ニュージーランド最大のワインの名産地だ。前回の記事で紹介したカイコウラからは、クルマで、1時間30分ほどでアクセスできる。

Text by HASEGAWA Aya

太陽の恵みをいっぱいに浴びた、有核果実の甘やかな香りとともに

ニュージーランドのワインといえば、真っ先に思い浮かぶのは、やはりソーヴィニヨン ブランだろう。実際、ニュージーランドにおけるワイン用のブドウの栽培面積の65%はソーヴィニヨン ブランで、その9割がマールボロ地区で生産されているという。圧倒的だ。マールボロを代表するワイナリーであるクラウディー ベイの創業者・デヴィッド・ホーネンさんは、マールボロのソーヴィニヨン ブランを一口、口にしただけで、この地のポテンシャルを確信したそうだ。わかる人にはわかるのですね……。
ニュージーランド自体が比較的新しいワイン生産地だ。欧米と比べると、小さな資本でも起業がしやすいこともあって、マールボロでは日本人の醸造家も多く活躍している。今回、同じマールボロ地区で、同じ日本人が営んでいるにもかかわらず、まったく異なる個性を持つふたりの醸造家を訪ねた。
フォリウム・ヴィンヤードは、東京都出身の岡田岳樹さんが2010年6月にニュージーランドのマールボロのブランコット・ヴァレーに設立したワイナリーだ。いくつものワインメーカーがひしめくマールボロでは他との差別化が求められる。そんななか、岡田さんは水やりを行わないドライ・ファーミングを実践している。
「ヴィンテージごとの特徴を出したいと考えています。水はブドウの生育に大きな影響を及ぼします。それをあえてコントロールせず、その年々の雨量に任せたいんです。そもそも欧州では水やりが禁止されていますから、世界的にみるとそれほど特別なことではないんですよ」
というが、このエリアでドライ・ファーミングを行っているのは、おそらく岡田さんだけだ。ブランコット・ヴァレーの土壌の多くが、粘土質を含み、保水性が良いこともあり、水やりをしなくてもブドウはすくすくと育っている。
「ブドウたちも今度のオーナーは怠け者だから自分で生長しなきゃいけないと気づいたんじゃないかな」
個人的な印象だが、マールボロのソーヴィニヨン ブランには、一般的に青々しさとトロピカルフルーツの華やかさを併せ持つ、爽やかなワインというイメージがある。しかし、岡田さんのソーヴィニヨン ブランは柑橘やトロピカルフルーツのアロマや生き生きとした酸といったマールボロのソーヴィニヨン ブランの個性に加え、鉱物系のミネラル感とほのかな塩味、そして、どこか華やかさも併せ持つ、複雑だけど、まっすぐで美味しいワインだった。ルビーのようなピノ・ノワールもミネラル感があり、誰かが「出汁のようにしみじみする味わいだね」と言っていたように滋味深さを感じた。
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木村滋久さんと美恵子さんの夫婦は、ワイラウ・ヴァレーで、「キムラセラーズ」を営んでいる。滋久さんは1973年東京生まれ。ザ・キャピトルホテル東急(旧キャピトル東急ホテル)に勤務しレストランのサービスを担当、ソムリエ資格はホテル勤務時に取得した。
「ソムリエ資格を取得し、自分へのご褒美として、フランスのワイナリーツアーに参加したんです。そこでブドウ畑の景色や醸造所の匂い、生産者たちの情熱に強く魅了され、私もワイン造りをしてみたいと思うようになりました」
2004年にニュージーランドに渡り、リンカーン大学でワイン醸造やぶどう栽培学を学ぶ。その後、いくつかのワイナリーで研鑽を積んだあと、2009年に「キムラセラーズ」を設立した。
当初はブドウ造りも醸造も委託していたが、2018年に自社畑を購入。0.7ヘクタールの自社畑でソーヴィニヨン ブランを育てている。収穫時など繁忙期以外は夫婦2人のみ。ワイン造りにおいて大切にしているのは熟成させる必要がなく、すぐ飲んですぐ美味しいワイン。そして何より“ニュージーランドらしいソーヴィニヨン ブラン”だ。
それはズバリ、“たくさんのアロマパレットを持つワイン”である。
「パッションフルーツやグレープフルーツなど、ニュージーランドのソーヴィニヨン ブランには、本当にたくさんのアロマがあり、それが重なり合ってできています。その何重ものアロマを表現したいんです」
滋久さんは力強く語る。オーガニック農法によるぶどう栽培を行っている自社畑で愛犬のニコが走り回っていた。
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日本人経営ではないが、もうひとつ印象的なワイナリーに立ち寄った。今回、一緒にツアーを回った、ワインジャーナリストが、「ぜひここに行きたい」とリクエストしたという、アワテレ・ヴァレーにある「マラソン・ダウンズ」だ。1900年に開業し4代続く農家の後継者であるジェス・バーンズさんが、パートナーのニック・ペットと2021年に設立。3日前に生まれたばかりだという二人の赤ちゃんと共に出迎えてくれた。
400ヘクタールもの広大な敷地では、今も主に酪農を営んでいるが、現在、48ヘクタールほどのスペースでソーヴィニヨン ブランを栽培している。極力、大地と寄り添うような自然なかたちでブドウを育てたいと、畑の畝にはマスタードなどを植樹。野生酵母による自然発酵を行っていて、なかでもソーヴィニヨン ブランのペットナットやオレンジワインは、弾むような酵母の風味が感じられた。
ちなみに、いくつかワインのコルクには、ワイナリードッグであるアーチーとトラクターが描かれていた。犬ばか万歳(笑)。
取材協力
ニュージーランド政府観光局
https://www.newzealand.com/jp/
ニュージーランド航空
https://www.airnewzealand.jp/
                      
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