島を変えていく、新しい風と ミシュラン掲載店が多い、食のレベルが高い島。|TRAVEL
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2023年10月31日

島を変えていく、新しい風と ミシュラン掲載店が多い、食のレベルが高い島。|TRAVEL

TRAVEL|壱岐島

壱岐島レポート・第二回

今、島が変わろうとしている。新しい風が島に流れてきているのだろう。壱岐島を活性化させる新スポットを紹介。また、壱岐島は海産物をはじめ、壱岐牛や農作物も豊富。島ならではの豊かな食材の良さを活かした料理はどこの店もハイレベル。小さな島に6軒ものミシュラン掲載店があるのも島のレベルが高いからだ。

Text by KITAHARA Toru

現代らしさを取り入れた新たな魅力

豊かな自然と豊富な食材、島全体が鎮守の杜といわれるほどの田園風景は壱岐島の魅力に他ならない。そこには新しいモノ、コトを常に受け入れてきた伝統と歴史があった。壱岐島には常に新しい風が吹いているのだ。
「MOKUYONN BLD.」「LAMP 壱岐」「ISLAND  BREWERY」「クロスポート武生水(むしょうず)」「未来派カゾク農園」を見に行った。
「睦MOKUYONN BLD.」は木造4階建てのビルディング。1階から4階までが吹き抜けになっている木造建築は日本ではほぼない。小説『火天の城』(山本兼一著)は織田信長が安土城を建てるまでの話だが、「天高くそびえ立つ、天下一の城を作れ」という信長の言葉に吹き抜けの五重塔を建てたという。小説であるから、事実かはわからないが、おそらくこの高さの吹き抜けはそれ以来ということになるのだろうか。
館内に入るとその吹き抜けに開放感を感じる。全館に無垢材の木肌が目に入り、人の気持ちを穏やかにしてくれる気さえする。裸足で歩きたくなるような(実際に1階以外は靴を脱ぐ)贅沢な空間演出は無垢材へのこだわりゆえだろう。1階のカフェに2階から上は宿泊施設とコワーキング施設を展開している。
「睦MOKUYONN」オーナーの松本隆之さん。木へのこだわり、循環型社会へのアプローチがまた新たな事業との出会いにつながっている。
「MOKUYONN BLD.」を手がけた松本隆之さんは「環境負荷の小さい形で設計を考えたら、丸太から削り出した無垢材をシンプルに表現することに辿り着きました」という。約4000坪ある土地に無農薬農場の研究所を計画している。現在でもいちじく、ブルーベリー、イチゴなどを栽培しているが、今後はさらに増やしていくことが予想される。ツリーハウスや子どもの遊び場もあるが、常に変わり続ける空間を目指しているという。
「LAMP 壱岐」は1900年代前半に建てられた3階建ての旅館をリノベーションした旅館。6部屋の個室とドミトリー、コワーキングスペースと名物のサウナが別館の5階に併設されたモダンな空間だ。特にサウナは超人気で、壱岐の竹をあしらったサウナ室にはフィンランドのサウナストーブ“Harvia Legend” を採用。200kgものサウナストーンが体を芯から温めてくれる。酒樽の水風呂でクールダウンした後は、雄大な海とレトロな港町を眺めながら外気浴が楽しめる。
隣の酒蔵をリノベーションした建物には食堂があり、朝食は勝本の朝市で仕入れた干物をコンロで焼いて食べる演出もある。支配人の井手明夫さんは「3階建ての木造に価値があると感じました。古い建築物なので、軋みや揺れもありますが、それを“渋いい”と言っています。LAMP壱岐が新しい勝本をつくっていく原動力になりたいと思っています」と。ちなみに井手さんは移住者。「オープンで優しくて、偏見がないのが島の魅力。何の不便も感じないなので、ぜひ壱岐にきて見てください」と。
「LAMP壱岐」の目の前にあるのが「アイランドブルワリー」。古くから麦焼酎と日本酒をつくる造り酒屋。それを5代目が歴史ある酒蔵をリノベーションしてクラフトビールをつくっている。コンセプトは魚にあうビール。壱岐島発祥の麦焼酎に使われる白麹を使用することで、麹が生み出した自然な酸味がフワッと口の中に広がる壱岐島の人気スポットになっている。島内の飲食店でも生ビールのサーバーを置いている店もあり、島の新しい名物となっている。
築約50年のJAの出張所をリノベーションして開業。
電動トゥクトゥクのレンタカーはコンパクトな島との相性も良く、観光客に人気となった。コワーキングスペースの提供やカフェの開設、イベントの開催に加えて今年の夏からは海の家とゲストハウスの運営にも着手。この多岐にわたる事業を手掛ける「クロスポート武生水(むしょうず)」とは?
トゥクトゥクと代表の秋山卓司さん。
「当時離島への移住を検討していた釣り好きの叔父がいまして。その叔父の代理で、観光がてら壱岐に下見に来たのですが、まさかそれをきっかけに自分自身が移住することになるとは思ってもいませんでした」クロスポート代表の秋山卓司さんは2020年当時夫婦で東京から福岡に移住したばかりだった。
「当初はあくまで福岡を拠点にして、月に一度くらい壱岐に来て趣味の焚き火をしつつワーケーションができれば、という心算でした。ところが島で過ごす時間が長くなるにつれて、どうせなら島でしかできないことがしたくなって最初に取り組んだのが電動トゥクトゥクです。環境負荷も少なく、離島との相性は良いと思うので、ゆくゆくは島民の日常の足になればと思っています」この電動トゥクトゥクの拠点を探して元JA支所だったクロスポートの建物に巡り合い2021年春に壱岐に移住、ビルのリノベーションに着手した。
「壱岐にはこのような築40〜50年の空きビルがあちこちにあります。それらの昭和のビルに第二の人生を全うしてもらう一つの事例になればと思っています」そして2022年4月のクロスポートを開業以降、様々相談や提案が持ち込まれるようになったという。「こんなイベントができませんか?とか、塾の教室に使えないだろうか?とか、同様に海の家やゲストハウスも持ち込んで頂いた案件でした。いろいろな方にお話を伺うと、人手が足りずに手付かずのモノ・コトがいくらでもあります。壱岐は食料とエネルギーが自給自足できそうな稀有な島なので、もっと多くの開拓者精神のある方に集ってもらえると新しい地域資本主義のモデルケースになり得ると考えています」
離島という「新たなフロンティア」の入り口、それがクロスポートだ。

壱岐島内には6軒ものミシュラン掲載店が!豊富な食の島であることの象徴のようだ。

最後に、島の宿の良さと食の充実に関して驚異的なことがわかったので、ここに書かせてもらう。
島内の飲食店で食事をメインにした(カラオケ、スナックなどを除く)店舗は数少なく、現状は100軒あるかないかという程度(島民は2万4000人前後)。そこに「ミシュランガイド福岡・佐賀・長崎2019特別版」に5軒が紹介され、さらには「ミシュランガイド」で栄えある「5パビリオンの旅館」があるというのだ。
食事ができる数少ない飲食店の中で6軒がミシュランで紹介される島だけに、紹介されていないお店のレベルも全体に高い。ふらりと入った店が普通にコストパフォーマンスの良い店ということだ。

ミシュラン5パビリオンの旅館、「壱岐リトリート 海里村上 by 温故知新」。

「壱岐リトリート 海里村上 by 温故知新」は日本の離島で初めて「ミシュランガイド」にて“豪華で最高級である5パビリオンの旅館”として紹介された温泉旅館。館内に足を踏み入れるとすぐ目の前に広がる3面の大きな窓からダイナミックに壱岐島の自然豊かな海を一望できる。その圧倒的な景色、いや絵画のような演出に息を飲む。宿泊施設の随所に余裕を持たせ、日常を忘れさせてくれるラグジュアリーな空間演出。何もしない贅沢な時間を過ごして癒され、刻々と変わる穏やかな海景を眺めているだけでも旅の魅力を感じられる。
壱岐で生まれ育った料理長かつ総支配人の大田誠一さん。
総支配人であり、総料理長を務める大田誠一さんは壱岐で生まれ育った方。子どもの頃の家の手伝いは牛の世話だったという。ゆえに壱岐牛への愛情も深い。
「壱岐には素晴らしい景色があり、他にはない温泉があり、食べ物があり、何でもあります。当館は自然と向き合って過ごせる場所を目指しています。島に来てのんびりと過ごしていただき温泉と観光を楽しんでいただきたいと思っております。特に料理において地産地消ができるのは壱岐ならでは。あえて他から仕入れなくても、この島は海と山の豊かな自然に囲まれ、さまざまな食材に恵まれています。『壱岐リトリート 海里村上 by 温故知新』では、ここでしか食べられないものをご提供していきます。実は年間を通してベースのメニューは変えていません。いつもの料理があることで、ここに行きたいと思ってくださるお客さまが多いのはありがたいことです」という。
ちなみに温泉は「壱岐リトリート 海里村上 by 温故知新」のある湯本地区でも数少なくなってきた自噴のお湯だそうだ。

壱岐の顔「平山旅館」は落ち着く日本旅館。

「ミシュランガイド福岡•長崎•佐賀2019」の旅館部門に紹介されたのが、平山旅館。その佇まいは文豪が愛した宿とでも言いたくなるほどの落ち着いた佇まいの和の宿。平山旅館の女将、平山真希子さんが笑顔でお迎えしてくださった。平山旅館の特徴は何といっても食材のほぼ100%が壱岐産であることはもちろん、それをできる限り自分たちで調達していること、また循環型社会の取り組みを先代からやり続けていることだろう。
平山旅館名物の「島茶漬け」。烏賊のコリコリと醤油ダレに漬けた魚の風味が堪らない。元々は旅館の夜食としてつくったのが始まり。
「平山旅館の料理の野菜や果実は自家栽培がメインです。それだけでなく、魚介類や山菜を海や山から自らとってきて、さらに鳥や馬を飼い、養蜂までもしています。先代女将が始めた無農薬での野菜づくり20年以上前から。2023 年には有機JASの認定を取得しました。鳥は名古屋コーチンや烏骨鶏、ほろほろ鳥など100羽以上飼っていて、馬も飼っています。これらの動物たちが旅館の調理過程で出た野菜クズや旅館の残りものなどを食べるので、旅館から生ごみは一切出ません。美味しいものばかりを食べている鳥が産んでくれた美味しい卵はお客様のお食事に出しています。鳥や馬のフンや、食事で出すウニの殻などは畑の肥料として還元しており、旅館の中で自然の循環型社会を実現しております」というくらいで、本当に地球に優しいものばかり。それが高じて平山旅館で提供する料理、お漬物、蜂蜜や野菜を販売するサイト「壱岐もの屋」も運営されている。

湯本の温泉も壱岐島ならでは! 療養規定値の何と約15倍の高濃度!

ここで閑話休題。壱岐島の温泉の魅力が半端ないことをお伝えしたい。湯本温泉の魅力を温泉ソムリエでもある平山旅館の平山真希子さんに話を聞いた。
「湯本の温泉は5世紀神功皇后が三韓出兵の折に発見し、神功皇后の子である応神天皇の産湯を使わされたという伝説もあるほど。1700年以上の歴史を誇るわが国でも屈指の古湯であり、この地のお湯に浸かり、子どもを授かった人も多く、「子宝の湯」と呼ばれ人気があります。湯本温泉は赤褐色の濁り湯で、源泉温度が60度以上、温泉の規定値の15倍以上に濃い成分の千年湯という、温泉として4つの特徴を持つ、名湯です。泉質は「ナトリウム-塩化物温泉」で塩類泉とも呼ばれていますが、たくさんの成分が混合しています。家庭用入浴剤と比べると90倍以上のミネラル分の濃さです。そして、この地域の温泉はすべての施設が自家源泉掛け流しです。さらには全温泉施設に温泉ソムリエが常駐しています」
温泉マニアを唸らせる温泉地だったのだ。
湯本温泉の魅力はお分かりいただけたと思う。濃厚な成分は手をお湯につけるだけでもわかるはずだ。
他に、飲食店では「みうらや」「まる辰」「ふうりん」「Pizzeria Potto」「うめしま」が「ミシュランガイド福岡•長崎•佐賀2019」に掲載されている。
                      
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