INTERVIEW|新作『noon moon』を発表した原田知世にインタビュー
LOUNGE / MUSIC
2015年4月9日

INTERVIEW|新作『noon moon』を発表した原田知世にインタビュー

INTERVIEW|前作から5年の月日を経て誕生したニューアルバム
原田知世にインタビュー

“いまの姿”をありのままに反映した『noon moon』(1)

ここ数年、『on-doc.(オンドク)』という歌と朗読の会を精力的に開き、アーティストとして表現の幅を広げている原田知世。この5月7日に前作『eyja』から5年ぶりとなるニューアルバム『noon moon』を発表した。プロデュースは『on-doc.』でも二人三脚で全国を巡ってきた伊藤ゴロー氏。「こうして音楽をずっとつづけてこられたのはとても幸せなこと」と語る彼女に、新作の魅力を聞く。

Interview Photographs by JAMANDFIX
Styling by TANIFUJI Chikako
Hair & Makeup by KOGURE Moe(+nine)
Text by TASHIRO Itaru

『on-doc.』にて共演した伊藤ゴロー氏がプロデュース

『noon moon』とは昼間の青い空に透けて見える月のこと。これまで、原田が手がけた歌詞には比較的多く登場する月だが、アルバムのタイトルに付したのはこれがはじめてのことだ。

「私、わりとよく月を見上げるんです。どんどん満ちて、欠けていく月を見上げながら、日々の移り変わりみたいなことを感じていました。そうして毎日、姿は変わっていくけれど、見上げると、いつも空には月が浮かんでいて。そういう月をアルバムのテーマにしたら面白いかな、とおもいました。それがはじまりです。『noon moon』は具体的にどんな月をテーマにするか考えていたとき、ふと見つけた言葉。その直前まで『青空の月』の詩を書いていたこともあって『本当にぴったり』とおもって、タイトルにしました」

『青空の月』はオープニングを飾る曲。ボサノヴァ調のゆったりとしたテンポのなかから優しく溢れ出す、キャッチーなメロディが印象的だ。

「最初にゴローさんが書いた曲です。レコーディングでは坂本龍一さんにも、キーボードで参加していただきました。不思議なのですが、この曲はアルバムを作っていたときから、皆の意識のなかで、アルバムのはじまりの曲というイメージがありました。

最後に収録した『Brand New Day』はアルバム制作の最後にできた曲。ゴローさんが書いたメロディを聴いて、私もすぐに詩が書けました。いろんな想いが素直に出た曲で、詩を書いている段階からアルバムの最後にしようとおもえました。

『noon moon』はそういう意味で本当に素直に作れたアルバム。アルバムを作ると決まって追われるようにバーッと10曲作るという方法より、1曲ずつじっくり『これもいいね、あれもいいね』と、それぞれの曲と向き合いながら、気付くと『あ、アルバム、できてたね』みたいな作り方が理想だと感じていて、そういう取り組み方で音楽ができたらなってずっとおもっていました。自然の流れのなかで満ちてきたタイミングでアルバムを発表する。今回はそういう作り方ができて良かった」

プロデュースを担当した伊藤ゴロー氏

そうしてでき上がったアルバムだからこそ、楽曲がスッと身体に染み込んでいく。全10曲はどれもメロディアスで耳に心地良く、はじめて聴いているのに、懐かしささえ覚える。

全体を通じて表現された1980年代へのオマージュ

「全体を通じて1980年代の歌謡曲やポップスへのオマージュという気持ちがゴローさんにはあったとおもいます。昔のメロディって力があるというか、人の耳や心に残る曲が多い。ゴローさんもそんなメロディを作りたいとおっしゃっていて、そのなかで生まれてきたのが『青空の月』『うたかたの恋』『Double Rainbow』といった楽曲。どれもカラーが全然ちがって、おなじ人から生まれたとはおもえないくらい。アレンジにもこだわっていて『Double Rainbow』では印象的なギターリフのイントロがあったり。サウンド的にも80年代を感じるキーボードやウッドベースを使ったりしています」

ナチュラルに響くアコースティックギターやピアノの音色にも心が安らぐ。生楽器を多用した背景には、原田がここ数年、定期的に行ってきた『on-doc.』の活動があるのだろう。

「それまでライブはずっとバンドスタイルでやっていました。でも、『on-doc.』はアコースティックギターのゴローさんと、歌って朗読する私のふたり。本当にふたりだけですべてやっていて、そこでメロディの重要性をすごく感じたんですね。いろいろな音を削ぎ落としたとき、メロディの力に気づかされた。もし、次にアルバムを作るとしたら、『on-doc.』のように、ふたりでやっても成立するような曲を集められたらいいのかなぁ、とおもっていました」

INTERVIEW|前作から5年の月日を経て誕生したニューアルバム
原田知世にインタビュー

“いまの姿”をありのままに反映した『noon moon』(2)

Interview Photographs by JAMANDFIX
Styling by TANIFUJI Chikako
Hair & Makeup by KOGURE Moe(+nine)
Text by TASHIRO Itaru

耳に心地良く響く、歌詞とメロディの相乗効果

このアルバムでさらに際立つのは原田が手がける歌詞と、彼女の透き通った声。耳に心地良く馴染み、ふっと脳裏に歌詞の描く世界が浮かぶ。自然とその世界の住人になれるのだ。

「言葉の響きや意味だけじゃなく、メロディにたいする歌詞の乗り方っていうんでしょうか、乗せ方にゴローさんは非常にこだわる人。私も今回、その部分をすごく意識しました。先にゴローさんの曲があって、それから私が詩を書くのですが、このメロディには4文字、4文字、3文字がいいなって合わせていくときもあれば、逆にどうしてもここはこの言葉を入れたいからと、ゴローさんに相談してメロディを少し増やしてもらったり、減らしてもらうこともありました。

そういうことを、気兼ねなくできるようになっているのも、いまのふたりの良さ。そうすることで、聴いていて自然に流れていくようなアルバムが作れたのかもしれませんね。ゴローさんとは、お会いしてからもう8年くらいで、アルバム制作も今回が3作目で、何度もいっしょにツアーをやって、『on-doc.』へとつながって、私自身、何でも言えて、自然体でいられる。音楽的に大事な、私の理解者だとおもっています。そういう人に出会えたのは本当に大きいですね。ふたりの8年間があるからいま、ここに辿りつけたのかなって、アルバムの仕上がりを聴いてそうおもいました」

「振り返ると、アルバムごとにそのときの自分がいる」

デビュー以来、女優業と並行してコンスタントに音楽活動をつづけてきた原田。演じることと歌うことに、表現者として何かちがいを感じているのだろうか。

「女優の仕事はまず作品があって、監督がいて、私の役がある。大きなひとつの作品のなかで、自分がどういう役割を果たすかだとおもうんです。言い替えれば、すごく集中して全然ちがう人の人生を覗いたり、感じたりする時間。

音楽は、プロデューサーの方やミュージシャンの方がもちろんいて、サウンド面など、いろいろと共同で作っていくにですが、基本的にはゼロからどういうものを作るか、自分で考えていかなければいけない。いまの自分をどうやって表現するかなんですね。

;MUSIC|新作『noon moon』を発表した原田知世にインタビュー 03

いまの自分がもっとも反映される場所というか……“素”に近いんです。だから、振り返ると、アルバムごとにそのときの自分がいる」

いまの“素”の原田を表現した『noon moon』。ライブでは全国津々浦々を巡る予定だ。

「場所によっては去年の段階でお願いしていた会場もあります。その場所でいつかやりたいとおもっていた会場。神戸の旧グッゲンハイム別邸はそうですね。いろいろな会場でやりますので、メンバーの数は会場によって少し変わるかもしれません。曲はおなじものを演奏するつもりですが、そのときどきで、ライブならではのアレンジを楽しんでもらえたらいいなぁとおもっています。気が付いたら、けっこう公演数が増えていて。でもツアーをやるうちに、もう少し回れたらいいなという気持ちも湧いてきています」

身近にある音楽の心地良さを『on-doc.』で伝え、そうして作られた新作『noon moon』。じっくり聴くのも無論いいが、生活のなかで何かをしながら聴くのもまた快適。それだけの包容力が本作にはある。

「そうしてもらえたら、すごく嬉しいですね。前作は私的にはどちらかというとヘッドフォンで自分の世界に入りながら聴きたいアルバムだった。今回はもっと、日常のなかで流れていたらいいな、というアルバムです。誰かの生活のなかにこのアルバムが流れていたら、すごく嬉しいですし、やっぱり長く聴いてもらえるアルバムになるといいなとおもいます」

『noon moon』

原田知世
発売中
3240円(RZCM-59598)http://www.commmons.com/noon_moon

           
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