INTERVIEW|沖野修也×池田憲一『DESTINY replayed by ROOT SOUL』制作秘話
INTERVIEW|DJとミュージシャンの関係性
沖野修也(KYOTO JAZZ MASSIVE)×池田憲一(ROOT SOUL)
『DESTINY replayed by ROOT SOUL』の制作秘話を語る(1)
先日発売された沖野修也(KYOTO JAZZ MASSIVE)の新譜『DESTINY replayed by ROOT SOUL』。タイトルにも並ぶ「ROOT SOUL」こと池田憲一氏が沖野修也氏とともに登場。渋谷のタマリバ「The Room」でのレコーディング(!)という、革新的なアプローチから生まれた本作の制作秘話、そして、DJとミュージシャンの関係性を語ってくれた。
Photographs by SAITO RyosukeText by IWANAGA Morito(OPENERS)
2014年に向けた、あたらしいサウンド
これまで、「KYOTO JAZZ MASSIVE」のファーストアルバムから、プログラマー、ベース、アレンジャーとして、作品に関わってきた「ROOT SOUL」こと池田憲一氏。彼自身、10年以上、渋谷のタマリバ「The Room」に務めているということもあり、その関係性の深さを伺える。インタビューの現場に到着したとき、彼らはすでに次の作品のレコーディング作業をおこなっていた。そんななか、先日発表した『DESTINY replayed by ROOT SOUL』について話を聞いた。
沖野 池田には、僕の一枚目のソロ『UNITED LEGENDS』のときも、デモの制作を手伝ってもらいました。バンドでライブをするときも、彼が音楽監督ですしね。基本的には 僕が作ったメロディを預けて、彼がベーシックなドラムとベースとキーボードを打ち込みます。それをボーカリストに送って、歌を録音しているんですよ。
池田 そのメロディを録音したものをここで起こすのが、最初の作業でしたね。メロディのデータは、iPhoneに吹き込んだ沖野さんの鼻歌です。しかも、おもいつくのは犬の散歩中らしいです、100パーセント(笑)。
──本作『DESTINY replayed by ROOT SOUL』ではそのサウンドのクオリティに驚かされました。クラブでプレイする音楽としての迫力もあり、かつ、ヘッドホンや自宅でのリスニングにも適した絶妙な音のバランスですよね。
池田 僕は基本的にはどちらかでいいとはおもわないですね。ラジオでかかっていてもいいし、クラブで大音量で聴いて踊ってほしいともおもう。肝は生ドラムで、打ち込みに負けないように迫力を出すのは難しいことなのですが、僕にとっても今回のアルバムで力を入れたところでした。
レコーディングはThe Roomでおこない、爆音で録った音をチェックしていました。すぐに現場の音でチェックするっていうのは、通常のスタジオ録りではできないことなので、それは大きかったですね。クラブでも作っているし、持ち帰って家でも作っているし、ヘッドホンでも作っていました。ミックスのときも、どんな環境の聴き方でもいいバランスで聴こえるように気をつけましたね。
──沖野さんがこのアルバムで、アピールしたいところは?
沖野 やっぱり生音で録音された音楽でありながら、現代的なサウンドに仕上がっているというところかと。The Roomはわりとアナログというか、DJもふるい音楽をかける人がほかのハコに比べると多いんですけど、決して懐古趣味でやっているわけではないんです。ちゃんと現代の音楽としてプレイしているんですよ。それは再発見という意味でもあるし、ふるい音源を編集して再生するという意味で。皆、あたらしい音楽もちゃんと聴いていますしね。今回の『DESTINY Replayed by ROOT SOUL』は、2014年にしかできない生音のサウンドなんです。あとはオリジナルの『DESTINY』とのリミックスでの変化や距離感も聴いてほしいですね。
──参加されたプレイヤーもThe Roomオールスターズ的なセレクトですよね。
沖野 僕がラッキーなのは、スタッフとルームの関係者だけで音楽を作れているところなんです。レコーディングがなくても彼らは店にいるんですよ。飲んでるか、ライブをしに来ているか。
池田 本当に信頼しています。彼らは生粋のミュージシャンですが、打ち込みやDJから学べるようなところをわかっている人たちなんですよね。だから、ループを繰り返すようなシンプルなことも理解してやってくれる。
──このアルバムがもつ音楽業界やクラブシーンへのメッセージとは?
池田 見てもらってわかるように、録音機材はこれだけです。いまCDが売れなくて予算もどんどん下がっていますが、ファンクやソウルやヒップホップなどのストリートミュージックやダンスミュージックって、貧しい状況のなかで、いかに輝けるか、おもしろいものを作り出せるかの挑戦から生まれた音楽だとおもうので。音楽はレコードになる前から存在していたし、音楽がもつ、人をつなげる力、気持ちを後押しする力は絶対に変わらないし、絶対になくならない。だから、音楽を作りつづけたいし、残しつづけたい。そこは努力や工夫が必要だと考えています、ミュージシャンとして。
そういう意味でも、これだけの機材でどこまで出来るかっていうのは挑戦でしたね。あとは温度感を取り込みたかったので、ボーカル以外は全部生録りで、手づくりで出来る限りいいものを目指しました。作り方自体は聴く側には関係ないので、知ってもらう必要はないのかもしれませんが、『DESTINY replayed by ROOT SOUL』は、これだけの環境でここまで出来るんだ、という自分自身への証明でもあります。
沖野 The Roomをつかうことでレコーディングのコストは劇的に下げることができました。これは『UNITED LEGENDS』から考えると、10分の1ですよ。逆に20年もここにいるのに、どうしてThe Roomでやってこなかったんだろう?とおもってしまいました(笑)。
あと、やっぱりアイデアだとおもうんですよね。コストカットという話とは別に、最終的に鳴らす場所で音のチェックができるという発想をもつ。それは大きなメリットでしたね。
もちろんスタジオを否定しているわけではないし、スタジオでしかできないこともある。しかし、クラブでレコーディングするというアイデアで勝負したんですよね。 曲のよさ、録音の素晴らしさ、アレンジのおもしろさも聴きとっていただきたいですけれど、この作品が世に出ることによって、発想やアイデアがこの時代に重要だということを訴えたいですね。
INTERVIEW|DJとミュージシャンの関係性
沖野修也(KYOTO JAZZ MASSIVE)×池田憲一(ROOTSOUL)
『DESTINY replayed by ROOT SOUL』の制作秘話を語る(2)
Photographs by SAITO RyosukeText by IWANAGA Morito(OPENERS)
DJとミュージシャン、それぞれの視点
沖野 冗談抜きに、池田のようなミュージシャンはなかなかいないとおもいますよ。プレイヤーでありながら、楽曲を俯瞰できている。それは、自分のバンドがあり、アレンジャー、プログラマーの仕事をこなし、The RoomでDJの現場を見ているのが日常だからなのかもしれない。
──池田さんから見た、沖野さんは?
池田 沖野さんは、楽器をさわらないんですよね。でも、ミュージシャンから見てもミュージシャンらしいメロディのラインをとったりとか、半音のニュアンスやブルーノート、テンションというものを理解している。ほかのDJの方でそういうことを理解している人はあまりいないでしょうし、作曲までやる人もそういないんじゃないですかね。
沖野 基本的にDJが曲を作るということは、ディレクションやメンバー選び、カバー曲、音色のジャッジなんですよね。プログラミングをできる人は別として。僕は、一枚アルバムを作るとなれば、全曲のメロディーを自分で書きたいとおもうタイプなんです。そういうコンポーザー的なDJは実は少ないんですよ。
池田
音楽もトータルじゃないですか。実際にビジュアルなども含めて商品となるときには。沖野さんは本を執筆して、絵も描いて、会社も経営して、そういうものをすべて筋を通してプロデュースされているな、と。僕が特に感じるのは、1960、1970年代のジャズ、クロスオーバーのスピリット。それを軸に人と人とをつなげる。身近にいて常に勉強させてもらっていますね。
──DJという職業にたいして、池田さんはどうおもいますか?
池田 DJは、曲のひとつひとつが聴いた人にどのようなイメージをあたえるかをわかっている。純粋なリスナーであり、イメージのライブラリーを膨大にもっているように感じます。歴史上の名曲も現代の曲も同列で比べられているというか。だからDJの方はいい曲を作ることが多いのではないでしょうか。ミュージシャンだとなかなかそういうふうに楽曲を比べる人がいない気がする。どちらかというと、こういう曲をやるときにはこう演奏をするとか、技術的なものの蓄積なんですけど。そういう意味で沖野さんのジャッジには絶大な信頼があって。デモを出すと、自分が聴くのとはちがう角度から意見が来るので、なるほど、と気付かされます。
沖野 ミュージシャンは自分の生み出したものへの愛着が強いから、DJに比べると客観視できていないのかなとおもうんですよね。好きなミュージシャンの演奏や人間性にたいして感情移入したり、憧れをもっているところがある。 一方、DJはやっぱり曲なんですよ。ジェームス・ブラウン全部とか、マイルス・ディヴィス全部ということではなく、そのなかでもこの曲!みたいに。 もちろんリスペクトはしているけれど、ミュージシャンに比べると、尊敬するアーティストとの距離が遠い。DJ系のプロデューサーは、チームを集めて指揮を執るので、出来上がった曲にたいしても客観性がある。 だから僕はミュージシャンにはもっとハードルを上げろって言っているんです。ぼくなんかは自分の曲を、スティービー・ワンダーやマイケル・ジャクソンといっしょにかけられるかどうかというところで選んでますから。
池田 DJは「選ぶ立場」ですからね。
沖野 だから僕の場合は、自分でメロディーも書くので「選ばれる立場」という側面も強くなる。でも選ばれることにたいして、覚悟はできているんです。ちなみに今回のアルバムは、作品として発売を目指したのではなく、当初、DJでプレイするためだけに作ったREMIXだったんですよね。現場でかけたときの反応がとても良かったので、アルバム化にいたることになったんです。
──リリースツアーの見どころをお願いします。
沖野 ツアーは僕がDJで回るのですが、『DESTINY replayed by ROOT SOUL』からの楽曲の前後に、何をもってくるのかを聴いてほしい。ふるい音楽との相性もいいだろうし、もちろんサウンドの音圧もふくめ、現代的な音楽とのマッチも目指したので。リリースパーティに関して言えば、池田がルートソウルでライブをやるので、この録音物が生で体験できる。それは、このツアーのハイライトになるんじゃないかと。
池田 ライブは2月22日(土)のThe Roomのみですが、ぜひ観にきてほしいですね。アルバムに参加してくれたミュージシャンを中心としたメンバーで、作品の世界観をさらに厚いものにして届けられるので。アルバムの音源を発展させた、ライブならではのことをやります。
──楽しみにしています。
iTunesダンス・アルバム・チャート 一位獲得!
『DESTINY replayed by ROOT SOUL』
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価格│2100円(ZLCP-0147)
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Extra Freedom/Village again
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『DESTINY replayed by ROOT SOUL』Release Tour 2014
1月31日(金) 京都・Metro
2月10日(月) 大阪・CIRCUS
2月14日(金) 福岡・MILLS
2月21日(金) 浜松・Planet Cafe
2月22日(土) 渋谷・The Room [1st] 19:00~ [2nd] 23:00~(1部2部共に場内禁煙)
3月1日(土) 高崎・CANOES BAR
3月29日(土) 札幌・ACID ROOM
4月25日(金) 名古屋・club JB'S
and more…
ツアー日程は随時更新中。詳しくは下記ホームページへ
http://www.extra-freedom.co.jp/artists/shuya_okino