松浦俊夫|いまの先にある音を探して(後編)
松浦俊夫|from TOKYO MOON 11月24日 オンエア
いまの先にある音を探して(後編)
DJ松浦俊夫による、大人のための音楽番組『TOKYO MOON』。日曜の夜23:30から、InterFM 76.1MHzにてオンエア中です。世界中から選りすぐった“フレッシュ”な音楽や、大人の知的好奇心を刺激するトピックスをご紹介。ここではオンエアされたばかりの内容を振り返ります。アーティストについて深く掘り下げたり、関連した楽曲を紹介したり、さらにはその曲が購入できたりと、『TOKYO MOON』を目と耳で楽しむ連載です。松浦俊夫がプロデュースを手がける新プロジェクト、HEX(ヘックス)。プロジェクトの黎明期(れいめいき)についてお話した先週につづき、今回はHEXに参加してくれた、才能溢れる4人のメンバーを紹介します。
Text by MATSUURA ToshioPhotographs by Mari Amita
“カメレオン”ドラマー、みどりん
SOIL & "PIMP" SESSIONS(以下、ソイル)のドラマーであり、そして数多くのプロジェクトに参加するみどりん。ジャズからダンス・ミュージックまで、時代とジャンルを超えた音楽を愛する彼とは、イベントで一緒になることが多かったこともあり、演奏をいつも間近で聴いていて、いつか一緒にできたらいいなと漠然と思っていました。
その思いが決定的となったのは、2年前に恵比寿LIQUIDROOMで開催された、ジャイルス・ピーターソンがプレゼンターを務めるイベント「WORLDWIDE SHOWCASE 2011」。偉大なるジャズ・ジャイアンツ、ジョン・コルトレーンの生誕85周年を祝うという主旨のイベントに彼はソイルとして出演。コルトレーンの楽曲のカバーをプレイするという、特別なセットを披露しました。
その演奏がいい意味で普段のソイルとはまったくちがうテンション、そしてグルーブだったのです。そのカメレオンのように、その場に応じて自分を変化させることができるという新しい面を見て、これはソイルとまったく別のプロジェクトで彼を生かすことができるだろうと思いました。
実際レコーディングでも、ドラム・パッドを導入するなど、新しい試みにも積極的にチャレンジしてくれました。彼のグルーブに対するリベラルな姿勢の成果は、アルバム冒頭「Jazzstep」での、生ドラムとドラム・パッドが融合した鬼気迫るプレイに表れていると思います。
3役を同時にこなす凄腕コ・プロデューサー、佐野観
キーボードとプログラミング、そしてコ・プロデューサーとしてHEXに深く携わってくれた佐野観さん。震災直前に、和物ジャズのリミックス・プロジェクトのCDで、たまたま耳にした彼の秋吉敏子さんの楽曲のリミックスの、ただ者ではない音作りに衝撃を受けて以来、一緒にやるチャンスをうかがっていました。
彼の場合は、昨夏にわたしの作業を手伝ってもらった際、自宅にお邪魔して本棚にあったビル・エバンスの本を見かけたときに、これは絶対に間違いないと確信しました(ある意味なんの根拠もないのですが、その“感覚”をわたしは大事にしています)。
わたしの抽象的なアイデアを“翻訳”してほかのミュージシャンに伝えながら、並行してプログラミングもする。さらにキーボードを演奏するという、異なる3つの役割を同時に果たしてくれた功績はとても大きいものでした。「Uncensored Love Transmission」の印象的なアレンジと彼のコーラスは、女性にとても人気です。
狂気とラテンを奏でるジャズ・ピアニスト、伊藤志宏
ジャズ・ピアニストとして、ほぼ毎日のようにライブ・ハウスで演奏を続けるかたわら、映画音楽の作曲などを手がける“ワーカホリック”な伊藤志宏さん。最初の出会いは、トランペットの島裕介さんとのShima&Shikou Duoの演奏を聴いたとき。そこで感じた“狂気”、そしてモントゥーノをはじめとしたラテンを感じさせるプレイに魅せられて以来、一方的に思い焦がれてきました。
契機は2012年12月、DJで訪れていた福岡でのこと。その会場に、おなじく福岡でライブだった志宏さんがわざわざ遊びに来てくれて、手渡してくれた彼のアルバム『ヴィジオネール』を聴いたときでした。収録曲である「遠雷」のシネマティックで美しく、どこかセンチメンタルな旋律に惹かれて、これはもう弾いてもらうしかないなと思いました。ブルーノートからプロジェクトの話があったのはその直後です。
多忙を極める彼がメンバーと一緒に演奏できたのは、約4カ月のレコーディング期間でわずかに3日。その限られた時間のなかで、とてもよい演奏と創造を残してくれました。とっつきにくいようなフリをして、実は人懐っこいナイスガイでもあります。
ウッド&エレクトリック・ベースの巧みな両刀使い、小泉P克人
ベースの小泉P克人さん。じつはベーシストが彼に決まるまで、その選定にとても苦労していました。ウッド&エレクトリック・ベースの両刀使いで、なおかつ個性的な音を奏でるミュージシャンであるという、一見普通に見える条件でしたが、わたしが「これぞ」と思うような音を出す人が見つからなかったというのが正直なところです。
そこでみどりんと志宏さんの両方から、「ぜひ」と推薦されたのがPさんでした。本人と会っていろいろ話をした結果、参加してもらうことになりました。
生演奏によるセッションを、とても大事にしている方だったので、“深い霧のなかで道を探していく”やり方にはかなり戸惑わせてしまったのですが、徐々にお互いのやり方が分かるようになってからは、アプローチを具体的に説明するようになっていったので、短い時間のなかでよい演奏を残せるようになりました。エレクトリックなイメージの強いPさんですが、憂いを感じさせるウッドのプレイがとてもかっこよく印象に残っています。
こうしてそろった4人のミュージシャンとともに作った楽曲に、縁あって20年ぶりの共演となったエンジニアのzAkさんが、最後にすばらしい魔法をかけてくれた8つのピース。それがいま、みなさんが耳にしているアルバムです。まだ私たちの旅ははじまったばかり。HEXを気に入ってくれたあなたが、6人目のメンバーとなってHEXを一緒に育てていってください。そして共に“いまの先にある音”を探しにいきましょう。
『HEX』
2835円(TYCJ-60019)
発売中
01. ジャズステップ
02. スイート・フォー・ザ・ヴィジョナリー
03. アンセンサード・ラヴ・トランスミッション
04. ハロー・トゥ・ザ・ウィンド feat.グレイ・レヴァレンド
05. オーサカ・ブルース feat.中納良恵(EGO-WRAPPIN')
06. ダハシュール・ワルツ
07. トロピカリア 14
08. トーキョー・ブルース feat.エヂ・モッタ
HEX
http://www.universal-music.co.jp/hex/
REVIEW|TRACK LIST
01. Kan Sano / sing bird (origami PRODUCTINS)
02. Zara McFarlane / Love (Bronwswood / Beat)
03. Chihei Hatakeyama / White Light (Home Normal)★
04. Grégory Privat / Four Chords (Inpartmaint)★
05. HEX / Uncensored Love Transmission (Blue Note / Universal)
06. Flying Lotus / MmmHmm (Brainfeeder / Beat)
07. John Wizards / Jamieo (Planet Mu / Ultravybe)★
08. Durutti Column / Experiment In Fifth (Les Disques Du Crépuscule)★
09. Kuniyuki / Roots Remembered (Jazzy Sport)
10. Imperial Tiger Orchestra / Sudani Tune (Mental Groove / ritmo calentito)
11. Witch / Kuomboka (Now Again!)
12. Patrice Rushen / Haven´t You Heard -Joey Negro Extended Disco MIx (Z)
13. Shuya Okino / Still In Love - Kyodai remix (CDR)
今週の「TOKYO MOON on iTunes」
これまでに紹介した楽曲のなかから、選りすぐったものをここで購入できます。気になった楽曲がすぐ入手できる喜びを味わってください。今回はHEXのメンバーの個々の作品をピック・アップしました。
Soil & "Pimp" Sessions / Armageddon 2011.7.17
松浦俊夫『TOKYO MOON』
毎週日曜日23:30~24:30 ON AIR
水曜日26:00~27:00(再放送) ON AIR
『TOKYO MOON』へのメッセージはこちらまで
moon@interfm.jp
Inter FM 76.1MHz
www.interfm.co.jp