LOUNGE /
FEATURES
2022年6月20日
フランス仕込みのSAKEが世界を席巻する日|WAKAZE
WAKAZE|ワカゼ
株式会社WAKAZE代表取締役 CEO稲川琢磨さんインタビュー
「日本酒を世界酒に」をビジョンに掲げ、伝統的な酒造りの手法を活かしながら、世界が刮目する革新的な酒造りを行っている「WAKAZE」。2020年にはパリ近郊の酒蔵で、パリの水と米を使った、フランスの人々が楽しむためのSAKEを発売し、瞬く間にシェア№1を誇る人気銘柄となっている。
Photographs by OHTAKI Kaku|Text by KOIZUMI Yoko |Edit by TSUCHIDA Takashi
世界の食文化の中心地で、日本伝統のSAKEを造る
WAKAZEの代表取締役CEOの稲川琢磨さんは祖父同様、いずれは起業して「海外で日本のモノづくりがしたい」と考えていた。そして日本酒にフォーカスしたのは単純明快、「美味しかったから」。
「それまでは日本酒と焼酎の違いもわからなかった。アルコール度数が高いだけで、美味しくないという印象だったんです。就職してからも敬遠していたんですが、ある時、とても美味しい日本酒に出合った。ワインにも勝るフルーティさで、この感動を海外に伝えたい! と思うようになりました」
そしてフランスを拠点に選んだ理由として、「フランスは世界の流行の中心だから」と答える。
「フランスはある意味、食文化の中心。パリで流行したものが世界に伝播していくし、パリへの憧れというものを欧米やアジアの人々が持ち続けています。またエルメスやルイ・ヴィトンといった世界のトップブランドもフランスがベースですし、やはり世界の流行発信地の中心でブランディングをしたいと考えました」
もうひとつがフランスにおけるアルコール消費量にある、と稲川さん。
「フランス人のアルコール消費量は日本人の2倍。人口は日本の半分程度ですが、フランスには日本と同程度の市場規模があるんです。またフランスはヨーロッパのなかでも一番日本好きが多い国でもある。日本好きが多い、大きなマーケットという意味でもフランスはポテンシャルがあるだろうと思いました」
そして稲川さんにはフランス留学の経験があり、土地勘とネットワークがあることも背中を押した。とはいえ稲川さん自身には酒造りの経験はない。そこで出会ったのが、共同創業者であり、最高醸造責任者である今井翔也さんだ。今井さんは100年超の歴史を持つ群馬県の聖酒造の三男で醸造の知識に長け、日本各地の有名酒蔵での経験も積んでいた。
「三男なので跡を継がずとも良く、また彼も海外でやってみたいという気持ちがあって、“小さくてもいいから始めてみよう!”となりました」
2016年のことだった。
フランス産の飯米を超硬水で仕込む
創業当初は日本国内で醸造した日本酒を、フランスに輸出することからはじまったが、結果的には、高価な日本酒となってしまった。関税や手数料など、製造以外のコストがネックになったと振り返る。
「僕らは日本酒を民主化したかったんです」
稲川さんが目指した“日本酒の民主化”とは、テーブルワインのように、誰もが日常使いできるようにすること。日本酒を世界酒にするためには、もっとカジュアルなものにしなくてはならない。またホームパーティが多いフランスで、ワインのように日本酒を飲んでもらうための味に仕上げなければならない。
これらは2019年、パリに醸造所「KURA GRAND PARIS(クラ・グラン・パリ)」を建てたことで叶う。
ここで醸造される「WAKAZE」の特徴は4つ。
・南フランスで生産される食用米(カマルグ稲)を原料とする
・低精白(精米歩合は90%)
・超硬水(東京のおよそ4倍)
・現地のワイン用酵母を使用する
・南フランスで生産される食用米(カマルグ稲)を原料とする
・低精白(精米歩合は90%)
・超硬水(東京のおよそ4倍)
・現地のワイン用酵母を使用する
「日本が培ってきた酒造りでは、吟醸クラスまで磨き上げられた(外側を削った)お米と、日本の柔らかな超軟水がベースとなっています。その真逆を行くのがフランスでの酒造りでした。でもこの“硬水醸造法”(※)だったからこそ、フランス人好みの味を生み出すことができたんです」
※日本酒造りが日本全国に広まるきっかけとなった“軟水醸造法”と対になる言い方。軟水醸造法はおよそ100年前に広島で三浦仙三郎がつくった手法であり、それまで日本では灘をはじめとする硬水地域でしか酒造りが盛んでなく、軟水地域である広島でも美味しいお酒をつくろうと開発された手法。それが全国に広まり、いまでは軟水醸造法が酒造りの基盤となっている。WAKAZEがフランスでやろうとしているのは、そういった技術の転換点だ。製法を確立すれば、酒造りができる地域を広げることが可能になる。
※日本酒造りが日本全国に広まるきっかけとなった“軟水醸造法”と対になる言い方。軟水醸造法はおよそ100年前に広島で三浦仙三郎がつくった手法であり、それまで日本では灘をはじめとする硬水地域でしか酒造りが盛んでなく、軟水地域である広島でも美味しいお酒をつくろうと開発された手法。それが全国に広まり、いまでは軟水醸造法が酒造りの基盤となっている。WAKAZEがフランスでやろうとしているのは、そういった技術の転換点だ。製法を確立すれば、酒造りができる地域を広げることが可能になる。
飯米と超硬水によって醸された「WAKAZE」は、白ワインのごとく爽やかな酸が特徴だ。ミネラル感なども感じられ、味に厚みがある。これが前菜から濃い味付けの洋食に合うのだと稲川さんは分析する。
「それでも1年目は高評価が得られず、2年目に改良を加えています。ニーズから味を設計し、すぐに味に反映できるのがわれわれの強みですから」
1本19.5ユーロ(約2500円)という値付けはフランスの地でも購入しやすい価格帯。幅広い料理に合う味は飲み飽きることなく、とくにホームパーティでも非常に重宝されているという。
MASTERED IN JAPAN, MADE IN FRANCE
2020年、KURA GRAND PARISで誕生した「WAKAZE」は瞬く間に人気となり、フランスにおける日本酒市場のシェア3分の1を占める急成長ぶりで、№1ブランドとなった。現在、生産が追い付かないほどだという。今後は20兆円ともいわれるフランスのワイン市場の1%を目指すそうだ。
「主にオンラインで購入いただいていますが、購入後半年間のリピート率は50%。これは他社にはない数字と自信を持っています」
コメント欄に並ぶのは「驚くほど美味しい!」という評価だという。稲川さんは「驚かせ続けたいので、毎月新しい商品を開発しています」と笑顔を見せる。実際、これまでも70種以上の新作を生み出し、それぞれ新たな顧客の創出につなげている。
「日本では日本酒にフレーバーを付けたら日本酒ではなくなってしまいますが、こちらには先入観がないので、美味しければ“日本酒として”大いに楽しんでいただけるのも、新作を作り続けられる要因ですね」
それと同時に「(瓶が)割れていない!」「デリバリーが早い!」ということも評価ポイントとして記載されているのだと苦笑する。
「日本で当たり前のことが、当たり前ではありません。とくに荷物の取り扱いについては、大きな差がありますね。ですから梱包材から徹底的に見直し、安心・安全な独自の梱包方法を作りました」
エコロジーの観点からも梱包材のすべてでプラスチックは使用せず、地産地消にも考慮した。そしてオンラインに書き込まれる疑問や質問、注文、感想については、その日のうちに返信することがモットーだと続ける。
「文末には“Teamおもてなし”という一文を添えています。われわれは単に日本酒を売るのではなく、配送や梱包、カスタマーサービスも含めて日本の文化を体感してもらうことも重要だと考えているからです」
2019年に誕生したKURA GRAND PARISでは、現在、チェコやイタリアなど6か国の人々が酒造りを学んでいる。
「業界№1になることがWAKAZEのゴールではありません。それより日本酒に関わるプレーヤーを増やし、業界のすそ野を広げることが目標です。新しいタイプの日本酒を造ることで飲み手を増やしたいし、うちの蔵で学んでいる人が自国に戻り、そこで新たな酒造りを始めてほしい。WAKAZEが飲み手や作り手の門戸を広げて、それぞれが得たことを次のステージで活かす。そんな場所にWAKAZEがなれたらいいと思っています」
そして今年5月。パリにIZAKAYAレストラン「WAKAZE PARIS」がオープンした。こちらも日本酒を体験・体感してもらうことを主軸に置く。
「座席数は少ないですが、一人ひとりに深い体験をしてもらい、その方々に日本酒のアンバサダーになってもらうことが目的です」
オープン前の予約で700人のリストが並んだというから、フランスでのWAKAZE人気がうかがえる。この店もまた日本酒の門戸を広げる存在になるはずだ。
「僕らはつねに“MASTERED IN JAPAN, MADE IN FRANCE(マスタードインジャパン、メイドインフランス)”と言っています。日本で伝統的な製法を学び、フランスの現地の材料で、現地でつくり、現地の人に届ける――トラディションとイノベーションの両方を大事にしていて、その掛け算で生まれたモノやコトがお客さまに響いているのかもしれません。その流れをつくるまで時間はかかりましたが、ここにきてようやく伸びが感じられるようになりました。これからもトラディションとイノベーションでWAKAZEを伸ばしていきたいですね」
問い合わせ先