連載エッセイ|#ijichimanのぼやき「サステナブルの話」
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2021年9月1日

連載エッセイ|#ijichimanのぼやき「サステナブルの話」

第29回「サステナブルってなんだろう」

「ひたすら肉体の安全無事を主張して、魂や精神の生死を問わないのは違う(三島由紀夫)」――日本初のコールドプレスジュース専門店「サンシャインジュース」ボードメンバー、伊地知泰威氏の連載。今回は、いまよく聞くワード「サステナブル」について一考する。

Photographs and Text by IJICHI Yasutake

誰にとってもハッピーな循環の仕組み

これまで、東京の様々な「街」を紹介させてもらっていたけど、それは僕が、街が育んできた文化というのか、シーンというのか、その空気や温度が好きで、東京オリンピックを契機に色んな街で再開発が進んで、どんどん街並みが変わっていく中で、そういうものが少しでも残っていってほしいと思っていたのが大きい。「サステナブル」という言葉を聞くようになって久しいけれど、街がどんなに便利になっても、そこにいる人たちが作る空気や温度はずっと持続していってほしい。
しかし、この「サステナブル」というワード。なんだか実態を掴み切れていない。定義で括って実態は掴まずに、ニュアンスで理解していればいいのだろうけど、実体化しないといけない人たちは大変だ。仕事柄多くの企業のブランディングやコミュニケーションをサポートしているけれど、皆一様に、「何かサステナブルな取り組みをしないといけないけど、何をしたらいいんだろう」という感じ。
言葉の意味だけを見れば、サステナブル(sustainable)=sustain(持続する)+able(~できる)が組み合わさった単語だ。社会を、地球を、未来に向けて、持続可能な発展性あるものにしていきましょう、ということ。これだけ異常気象や豪雨災害に見舞われ、自然の生態系も変わっている今、わかりやすい「環境」がフォーカスされるのは必然と言えるかもしれない。
ただし、理屈だけで「環境」を考えるなら、「風船」は最終的にゴミにしかならないからやめちゃえということも言えるし、極論、「車」や「冷暖房」もやめればいいけれど、「風船」は子どもたちを笑顔にするし、その笑顔を見るだけで僕ら大人も笑顔になる。「車」や「冷暖房」がなくなったらCO2は減るかもしれないけど、肉体的疲労は増えて、仕事のパフォーマンスは低下して、経済生産性は落ちて、ひいては国力も落ちる。
社会や地球には、そこで生きている植物や動物がいて、その中には我々人間もいる。人間というのは厄介なもので、その他多くの動物と違って、法律や常識、秩序、さらには利害関係がある。さらに、時に理屈を凌駕する感情があって、その中で適切な経済活動をしないと発展していかない生命体。自分たちがお爺ちゃんお婆ちゃんになったとき、自分たちが死んだ後もかわいい子どもや孫がハッピーに生きていけるための、より良い社会を作っていくと共に、今自分たちがハッピーに生きるためにはどうすべきか同時に考える必要がある。
それが、冒頭の多くの企業の葛藤であり、「何をしていいかわからない」と言っていることに繋がっているのかもしれない。「環境」にフォーカスして、容器や資材を変えようとすると原価コストが上がる。でも販売価格は上げられない。もしかしたら利便性が落ちてお客さんが離れてしまうかもしれない。色んな危惧や懸念が出てきてしまうのだろう。
食料にしても、洋服にしても、「余っている。捨てられている」というのはもったいないかもしれないけれど、よくよく考えれば物質的に十分満たされていることの証でもある。ハッピーに死んでいく上では、必要なのに足りない飢餓状態よりもよほどいいわけで、そこに先ずは感謝しないといけないと思う。そのうえで、ゴミの分別、使わない電気は消す、食べ残ししない、必要な分だけ買う、、、子どもの頃にママやパパから教えてもらったことは忠実に実行すべしである。
でも、世の中には今足りてない人もたくさんいるし、足りている人もいつ足りなくなるかはわからない。だから僕は、無駄なものはなくし、本当に自分にとって必要な分だけを取り入れたい。自分が必要だと思うものには、どれだけお金やリソースを投下してもいいけど、要らないものには1分1円たりとも使いたくないし、「あったら使うだろうな」というような十分条件のものにすらもできるだけ費やしたくない。でも自分にとって無駄なもの、不要なものでも、他の誰かにとっては必要だったり、価値がある場合もある。
環境や立場は各人各様で、ものの見方や捉え方は色々あるから、なるべく視座は広く持っていたい。今は表舞台に出ていないもの、脚光を浴びていないことでも、見方や環境を変えたり、形を変えたりすれば、新しい価値が生まれるかもしれない。新しい価値が生まれれば、需要も生まれて、取引も発生して、経済もまわるかもしれない。無駄な物、不要なことから利益が生まれて、それを新しい活動に転換できる。それは誰にとってもハッピーな循環の仕組み。これからはそんな視点を持って、色んな物事に携わっていきたいと思っている。そんなところです。
伊地知泰威|IJICHI Yasutake
1982年東京生まれ。慶應義塾大学在学中から、イベント会社にてビッグメゾンのレセプションやパーティの企画制作に携わる。PR会社に転籍後はプランナーとして従事し、30歳を機に退職。中学から20年来の友人である代表と日本初のコールドプレスジュース専門店「サンシャインジュース」の立ち上げに参画し、2020年9月まで取締役副社長を務める。現在は、幅広い業界におけるクライアントの企業コミュニケーションやブランディングをサポートしながら、街探訪を続けている。好きな食べ物はふぐ、すっぽん。好きなスポーツは野球、競馬。好きな場所は純喫茶、大衆酒場。
Instagram:ijichiman
                      
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