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2022年5月23日
新雑誌「This」創刊! 丁寧な生き方を提案したい、とスタート。 編集長が編集長にインタビューしてみた!|LOUNGE
This|ディス
現代的なインパクトあるアプローチや、マーケティングとは距離を置いたスタンスを感じる新雑誌「This」。「ささやかだけれど、役に立ちこと」を目指しているという不思議な雑誌コンセプトは魅力になるのか!? ファッション誌「PLEASE」を立ち上げた編集長北原徹がまったく違う雑誌「This」編集長北原徹にインタビュー!?
Text & Photo by KITAHARA Toru
北原徹(以下「北」と略) 新雑誌「This」の創刊、おめでとうございます!
「This」編集長(以下「This」) ありがとうございます! 自分が自分にインタビューにされるって恥ずかしいのと自意識過剰な気もしますよね?
北 自意識過剰というよりは、「美意識過剰」なのかもしれませんね(笑)。
This 30年くらい前に上司だった尊敬というか敬愛する編集長から「あんたは美意識過剰」と言われたことを思い出しますね。とても、感慨深いです。あの編集長には「This」をご覧いただきたかった。とても切ない思いを感じますね。
北 そういう意味では、前職の会社の「匂い」はプンプンしますからね。
This 染み付いて、取れないんですよ。どうにもね。ぼくの雑誌の原点であり、目標であり、経験であり……、もはやフィロソフィーとかエスプリでしょうね。そういえば、敬愛する編集長もよく「エスプリ」という言葉を使っていました。好きな言葉ですね。
北 今日は「This」創刊に際して、その「エスプリ」を伺いたいと思っています。よろしくお願い申し上げます。
This 遅ればせながら、こちらこそよろしくお願い申し上げます。何から話したら良いのかな? ぼくの中にあったエスプリのコアな部分とかから話しましょうか?
北 最初からフルスロットルな核心に迫る話ってことですね。
This まあ、のんびりしたものです。というか、この「のんびり」がことの始まりかもしれないですね。というのは、ぼく自身が会社員だった頃の時代の流れの速さや、粗野で乱暴な感じの時代感、「時短」なんて言葉もあって、とても嫌な空気感に感じられたんです。だからでしょうか、その頃から一度立ち止まって、ゆっくり考えるような雑誌ってできないかなぁ、と朧げに思っていたんです。具体的なことはほとんどなかったけれど、豊かってなんだろう? みたいな禅問答が始まるわけです。
北 心が豊かになることと経済優先の考え方は平行線という感じがするときはありますね。
This それそれ。2000年代に入って、特に思っていたことなんだけれど、お金先にありきというか、すぐにお金の話になるわけです。それはどれくらいの利益になるんだってね。出版社の世界では「売れる本を作れ!」って売った本をつくったことがない人が号令かけているみたいな、変な自家中毒が起こるんです。編集長が紙の質を落として偉くなるポイント稼ぎをするなんて、読者を考えていないってことだと感じたのもその頃ですね。良い本を時間とお金をかけてつくればいつかは売れるっていう感覚ってまだ1990年代まではあったと思うんだけれど、いまは皆無に等しい。それが2022年の今できないかなぁ、という漠然とした思いがあったんです。
北 売れる本の企画がわかったら、みんな億万長者ってやつですよね。
This そうなんだよね。売れるものなんてわからないから模索する。最近の世間を見回すと、売れているブランド名を買うっていうが大企業というかホールディングスや投資家たちのやり方かもしれないけれど、そのブランドが売れた理由はやはりお金をかけて、丁寧につくったからに他ならなかったりするんですよ。本末転倒でブランドを持っている会社を買ったは良いけれど、「良いものつくっても、買い手はその質なんてはわかりはしないから質を落として利益優先!」って、でも、わかるんですよ、消費者だって馬鹿じゃないから。ブランドなんて、ディレクターが変わるだけで売れたり、売れなかったりするんだから。人なんですよね、結局売れる売れないって話も、さっきの紙代ケチるのと同じで。
今だからこそ紙へのアプローチ。大事にしたいことこそ紙でつくる。
北 そんな世の中なのに、なぜ、紙で?
This え? 紙だから良いんじゃないの? 紙以外で雑誌はつくれないでしょ? ちなみに弊社の社是が「読者とともに。書店とともに。」と前職の会社の会議室にあった言葉に付け足した言葉としています。だから、書店さんに並ぶことがひとつの幸せでもあるんです。もちろん、Web Magazineという存在も知っているし、ぼく自身も参加させていただいているし、この原稿もWeb Magazine用だからね。それでも、紙が良い。というか、好きなんです。デジタルがあるからこうしたアナログが生きるってこともあると思いますしね。昔は、紙は2次元って言われていましたが、デジタルの登場で、「めくる」という行為そのものが3次元として捉えられるようになって気がするんです。飛び出す絵本はつくれなくても、気持ちの上では飛び出しますね(笑)! ついでに言うと、紙って価値があるって再認識して欲しいという願いも込めています。もしくは新しい価値は古き紙にあったというような意識でしょうか?
北 どこかで忘れてきてしまった感覚を、ここで取り戻す、というような意識って必要だと思いますね。雑誌を買って、インクの匂いに嬉しくなったということもあります。情報が一次情報をそのまま載せているのではなく、編集者がきちんと選んで載せているという感覚が以前の雑誌には色濃くありましたが、最近は予算の問題もあるからだと思いますが、なんか薄っぺらい気もしますしね。
This そこは大事ですよね。「This」はタイトルロゴをはじめ、写真も文章も取材もデザインもほとんど手前味噌だから、自分さえ動けば良いと思ってやっています。もちろん、自分がデザインのすべてができるわけではないので、手伝ってもらっていますが。それでも、取材のときの撮影からデザイン感覚を持ってやっているつもりでもあります。
北 ちなみに、このひとりでほとんどをやるという感覚はもう一誌つくっているファッション誌「PLEASE」も同じです。そこは我ながら面白いアプローチだと思っていますが、そのアプローチも「Arne」という雑誌があって、大橋歩さんの編集の仕方がすごい! って思ったんです。それを真似したのが「PLEASE」の基本的なクリエイティブに対するアプローチですね。
This 大橋さんがおひとりでおつくりになっていたことはこの「This」も少なからず影響を受けています。というか、そもそも「Arne」が目標なんです。自分の周りにある、気になるものをどんどん取材して、撮影して、文章書いてってスタイルは本当に尊敬するしかないですよ。ぼくにとっては伝説でしかありません! 大好きです。大橋さんのインスタにも取り上げていただ来ました。
北 ここまで話を聞いて、やっとこさ、ディテールになりますが、そもそものんびりとした感覚で、豊かな気持ちになれる雑誌をつくることがスタートという中で「This」はどう舵取りをしていくんでしょうか?
This 家に帰って、のんびりと寛ぐ、寛ぐって良い言葉! 寛ぐときにちょっと読んでもらうくらいの雑誌でいいと思うんです。レイモンド・カーヴァーさんの短編で村上春樹さんが翻訳した「A Small, Good Thing」(邦題「ささやかだけれど、役に立つこと」)という言葉がすごく好きで、大きく、もしくはすぐに役に立つことではないかもしれないけれど、のんびりとね。って言って、良いのか? こんなんで! とも思うけれど、まあ、丁寧に生きるって、そういうことだと思うんですよ。すぐに役に立つというより、毎日のお片付けが大事だったり、ちょっと汚れたら台拭きや雑巾で拭くってことだったり、体に良いことを少しでもやってみるとか、ゴミはきちんと分別するとか、そういう取り止めもないことを日々の営みの中でやっているといつかは役に立っていたことがわかるかもしれないし、わからないかもしれない。それでいいんだって感覚になればね。
北 「自分に良いことは、地球に良いこと」ということも言っていますよね?
少しでも良いことを次の人のための行動を。それは次代であり自分ためかもしれない。
This ぼくね、「洗い物」好きなんですよ。お皿洗って、台所を片付けるのね。
北 皿洗いって雑誌づくりにも関係しますか?
This 直接は関係ないけれど、哲学として繋がる気がするんです。ぼくは、たとえば珈琲を淹れるのにもキッチン周りが片付いていると良いと思うんですね。だから、珈琲を淹れる前に洗い物したりすることも多いんです。皿洗いって、やっつけでもできるし、食器洗い機もあるから、それに任せるのも良いかもしれないけれど、ぼくとしては手で洗って、洗いかごが整頓されているのが理想なんですね。だから、洗う前にまず編集するんです。
北 へ、編集ですか?
This そうだよ、編集。カテゴリーに分けるんだ。コップやカップといった汚れの少ないもの、平べったい皿類、箸やカトラリー、丼やなます皿みたいな深さのあるものと鍋やフライパンといった具合にね。そうすると洗いやすいし、洗いかごへの置き方も美しさを気にしながらできるし、あとで片付けやすいんです。
北 なるほど。ちょっとストイックな感じがしますね。
This そうですね。精神集中にもなる気はしています。それで、最後に周りを布巾で拭いて終わりなんですが、これって、後で台所を使う人、たとえば家族かもしれないけれど、仮定として、次に台所を使う人が自分だったら、と考えるわけです。自分が気持ち良く料理ができると思うと綺麗にして損はないって感覚です。
北 その次の人を地球と考えるということでしょうか?
This だってそうでしょ? 人間だって動物だからさ。自分の体に悪いことは必ず地球にもダメージ与えますよ。うろ覚えで申し訳ないのですが、「ゴキブリをこの世の中から無くすことは簡単だけれど、それをやったら人間もいなくなる」というような話を読んだことがあります。逆にいえば、人間に悪いことはゴキブリにも悪いわけで、それはすべての動植物にも言えるだろうし、地球環境そのものにも同じことが言えるんじゃないかと思うんです。専門家ではないから、100%で合っているとは言い難いですが、それでも感覚的には合っていると思います。極端な話をすると地球環境って、もう戻らないと思うんです。経済を優先してしまった報いかもしれませんね。だけれど、遅らせることはできると思うんです。いままではペーパータオルを使っていたのをハンカチにするとか、掃除機で電気を使うよりも箒で掃いて、雑巾で綺麗にするとか、そんなささやかなことが地球の役に立つかもしれないじゃないですか? プラスチックストローが問題になって、紙ストローが登場したけれど、紙に変えたら地球には良いのか? って思ったんです。あのとき、ストローそのものの必要性に関して話題にならなかったけれど、ぼくはずっと前からストローは個人的には使わない生活だったんです。話はずれますが、2号目では石けんの話を書こうと思っていますが、まさにそんな自分の体に良いことが地球にも良いって感じだと思って取り上げます。
北 創刊号ではアンティークレースコレクションの第一人者ダイアン・クライスさんのアンティークレースの講義も載っていますね。
This 実は「This」発進の原動力がレースなんです。レースと関わりの深い米澤美也子さんと出会って、レースのことを教えていただきました。「レースは親から子へ、子から孫へ」と昔から言われるんだと。良いものを大切にする、大切にするということは丁寧に使うということだと思っています。その精神がもともと自分がつくってみたかった雑誌のイメージとうまく合致すると思ったんですね。そこで、米澤さんと相談しながら、アドバイスをいただいたり、取材先にご連絡とっていただいたりというお付き合いをしながら、完成させていきました。当初は2月中に創刊と考えていたんですが、丁寧にお付き合いしたほうが良いと思えることもたくさんあって、まさかの3ヶ月ほどの延長戦になりました。とはいえ、「のんびり」が良いと思っているわけですから、雑誌のエスプリがそのまま出ていますよね(笑)。
北 はははは! 笑っちゃいけないんでしょうけれど、それがまさに「This」らしいと。行き当たりばったりという感じとは違うと思うんですが、どうやって取材して行ったんですか?
This 自分も長年編集業をやっているので、身近な存在での取材といっても、それなりに選別する目を持っていると自負しています。米澤さんからしぼり染めをしていらっしゃる前原悠子さんをご紹介いただき、会いに行ったら、女三代の物語が隠されていたり、たまに通るところの焼菓子屋さんがなんでたまにしかやっていないのか? と思ったら、そこにも物語がきちんとあったり、レース工場を見学でも繊細な技術にはきちんとした人間力が感じられたり、珈琲のネルドリップって旨みを引き出す装置でありながら、ペーパーに比べて、本当に経済的でペーパーを捨てることがないから地球にも優しい、つまり、自分が美味しく飲めることが地球に良いってことだったり、友だちの編集者が「失語症」の介護をして、その体験から「失語症」からどうやったら回復させられるかを考えたノートをつくったので、お話を伺ったり、という感じで、それぞれの生活という「営みの断片」を覗いてきたって感じですかね? 自分もエスプリを持って雑誌をつくろうとしたわけですが、多くの人のエスプリをいただいてきた、という。
北 話を聞いていると、「This」は普通のことを扱う雑誌なのに、どこか普通じゃない、と感じますね。
This 昔、ある雑誌で「普通じゃない、普通」って特集組んだことがありましたね(笑)。でも、一番難しいことなのかもしれないです。普通じゃない、普通って。人間って、自由を求めているように見えるんですが、自由から逃げたいそうなんです。エーリッヒ・フロムの『自由からの逃走』という本に書いてあって、読んだ当初、高校時代はちょっと訳がわからなかったんですが、いまはなんとなくわかりますね。誤解を恐れずに言うと、多くの人が就職するわけですが、ほとんどの就職している人は自由から逃走した結果なんです。自由とは恐ろしくもまた、とてもパワーがいることです。COMME des GARCONSのTシャツに「MY ENERGY comes from freedom and a rebellious spirt.」がプリントされていて、ぼくはすぐに買いました。これが普通じゃない、普通なのかもしれません。自由から逃げずにいることがエネルギーになるって良いじゃないですか? そういえば、今回取材させていただい方もほとんどが自由の中にいる気がしました。
北 なるほど。「This」は自由を求める雑誌であると! 「This(=これ)」が自由だと!
This いやいや。そんなに格好良くないですし、自由は全員に本来はあるものだから。そうですね、「This」ってもっと手短なこと? なんというか、半径3m以内みたいな自分の身の丈って感じかな。「人間立って半畳、寝て一畳」っていうじゃないですか。貧富なんて本当はなくて良いと思うんです。遠くのものより近くのものをきちんと知って置きたいって感じかな? だから「That」じゃなくて「This」ってオチで良いですか?
北 ケムに巻かれた感じですが、それが「This」ってことで良いんじゃないですか? ありがとうございました!
This ありがとうございました! みなさま、「This」をよろしくお願い申し上げます。
誌名「This」
- ISBN 978-4-908722-19-6
- 価格|定価700円+税
- 全国の書店にお問い合わせください。アマゾンなどネット書店での扱いもあります。
- 問い合わせ|info@please-tokyo.com
- B5正寸/中綴じ
<告知>
「This」創刊を記念して、GINZA SIX 6Fの銀座 蔦屋書店にて創刊日の5月15日より6月4日まで、ダイアン・クライスさんのアンティークレースを飾りながら、創刊フェアをしていただくことになりました。
「This」創刊を記念して、GINZA SIX 6Fの銀座 蔦屋書店にて創刊日の5月15日より6月4日まで、ダイアン・クライスさんのアンティークレースを飾りながら、創刊フェアをしていただくことになりました。
「愛おしい、レースの物語。
This創刊号記念フェア」
This創刊号記念フェア」
新たなライフスタイル雑誌「This」が創刊されました。
レースのお話しをひとつの骨格としたThisは、
丁寧に大切に生きることや、自分の身の丈、「足るを知る」ような生き方を読者とともに考えてゆきます。
今フェアでは、アンティーク・レース鑑定家ダイアン・クライスさんの貴重なレースコレクションを展開。
また、誌面でもピックアップされている「THE LACE CENTER」の華やかなレースアイテムを揃えました。
眺めているだけで心がときめく、繊細で愛おしいレースの世界を楽しんでいただきたいです。
https://store.tsite.jp/ginza/event/magazine/26571-1051210511.html
レースのお話しをひとつの骨格としたThisは、
丁寧に大切に生きることや、自分の身の丈、「足るを知る」ような生き方を読者とともに考えてゆきます。
今フェアでは、アンティーク・レース鑑定家ダイアン・クライスさんの貴重なレースコレクションを展開。
また、誌面でもピックアップされている「THE LACE CENTER」の華やかなレースアイテムを揃えました。
眺めているだけで心がときめく、繊細で愛おしいレースの世界を楽しんでいただきたいです。
https://store.tsite.jp/ginza/event/magazine/26571-1051210511.html