地方自治体だからこそ取り組めるエネルギー政策|SHIFT JAPAN
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2015年1月16日

地方自治体だからこそ取り組めるエネルギー政策|SHIFT JAPAN

神奈川県 黒岩祐治知事に聞く

地方自治体だからこそ取り組めるエネルギー政策(1)

再生可能エネルギーやスマートグリッド構想など、環境への先進的な取り組みで知られる神奈川県。その首長として、県民を「脱原発社会」へ導くために「神奈川からエネルギー革命を!」と旗を掲げるのが黒岩祐治知事だ。知事選で掲げた「4年間で200万戸分の太陽光パネルを設置する」との公約に変更はあったものの、あらたなエネルギー政策に向けて「革命の旗」を振りつづける。その政策とは?

文=松井健太郎

写真=齋藤誠一(黒岩知事)

神奈川県独自の「マイパネル構想」を

──黒岩知事は、半年前の知事選で「4年間で200万戸分の太陽光パネルを設置する」との目標を掲げられましたが、その後、撤回されました。その理由は?

はじめに申し上げておきますが、「撤回」はしていません。「4年間で200万戸分」と公言した数字は、東京電力福島第一原子力発電所の事故によって危機意識が非常に高まったなかでの発言で、時間もなく、きちんと精査したものではありませんでした。大きな目標値を掲げることで、県民に強いメッセージを発したかったのが真意です。後のち、私も県のエネルギー対策について学習を重ねるなかで、太陽光発電だけではなく、風力、バイオマス、小水力など、さまざまな再生可能エネルギーの可能性があることも学びつつ、そうした「創エネ」のほかにも、「省エネ」や「蓄エネ」によっても効率的なエネルギー需給を実現できることを理解しました。そこで、太陽光パネルを200万戸分設置するだけではない総合的なエネルギー対策をとることが正しいと判断し、2020年までに県の消費電力の20パーセントを再生可能エネルギーで賄うというあらたな目標に変更したのです。

半年前、「4年間で200万戸分」という神奈川県のほぼ半数の世帯に太陽光パネルを設置するという数字を掲げたことで、県民のエネルギーに対する意識を動かし、原子力発電に過度に依存しないエネルギー体系を早急に構築するための「起爆剤」にはなったと自負しています。

──今後、県のエネルギー政策をどのように展開させるつもりでしょうか? 具体的な政策をお聞かせください。

メガソーラーの建設を検討しつつ、ほかにも、「屋根貸し」という概念をかたちにしたいと考えています。1戸建てとちがって集合住宅にお住まいの方は太陽光パネルを設置することが困難ですから、代わりに県の施設や工場の屋上などに太陽光パネルを設置し、集合住宅の住民がそれを購入するという、神奈川県独自の「マイパネル構想」の実現を検討中です。

また、12月からは「かながわソーラーバンク」の仕組みを立ち上げます。県民の方々がパネルを設置したいときに「かながわソーラーバンクセンター」にご相談いただくことで、県が協定を結ぶ事業団提供のプランを利用できるようになります。このプランは、参加事業者を公募し、工事の保証内容やメンテナンスなどのアフターサービスもふくめて事業者から提案をいただきます。県と事業者の連携により、パネル設置の促進につながるものと期待しています。
さらに、太陽光パネルの設置のための補助金にも限度がありますから、県民から広く資金を集め、「市民ファンド」として太陽光発電を設置し、運用するという案も検討しているところです。

神奈川県 黒岩祐治知事に聞く

地方自治体だからこそ取り組めるエネルギー政策(2)

地方から日本のエネルギー政策の仕組みを変えたい

──孫正義ソフトバンクグループ代表を事務局長にして設立された「自然エネルギー協議会」。黒岩知事は副会長を務められていますが、現在、どのような活動を展開中でしょうか?

「自然エネルギー協議会」は、原子力発電に依存しすぎるのは危険だという機運のなか、自然エネルギーの普及・拡大を目的にして7月に設立されました。もともとは、10の知事を集め、孫正義さんが1自治体につき79億円を出資し、1億円を自治体が出資、代わりに自治体は土地を提供し、税金を免除するというかたちで、各道府県にメガソーラーを建設しようというプロジェクトを計画していましたが、賛同する道府県がなんと35も集まりました。到底、すべての資金を孫さんが賄うことはできませんから、現在、道府県は連携し、情報を交換しあいながら、ソフトバンクなどソーラー事業者と個別で交渉するかたちでメガソーラーの建設に向けて準備を進めている段階です。

──黒岩知事は、「神奈川からエネルギー革命を!」と力強く県民に訴えています。地方自治体だからこそ取り組めるエネルギー政策とは?

知事の役割は、旗を振ること。「神奈川からエネルギー革命を!」と、就任して半年間、私は旗を振りつづけてきました。県民の方々も、これまでの当たり前の生活が、300キロメートルも離れた福島県の皆さんの多大なリスクのうえに成り立っていた事実に気づき、意識を変え、私が振る旗印のもとに集まってきてくれています。

黒岩祐治知事 03

私は放送業界の出身ですから、そうした「生活者の肌感覚」を鋭敏に察知することができます。これまでのテレビのかたちは、テレビ局が番組をつくり、電波で流して、各家庭がアンテナで受信して、見るというものでした。ところが、インターネット社会の到来によって、誰もが自分のカメラで撮影した映像をネット上に流すことが可能になりました。個人が小さなテレビ局のようなもので、これは、メディア界の革命です。そんな革命がいま、エネルギー社会にも起こっているのです。電力会社が発電し、送配電する電気を各家庭で使っていましたが、いまは、太陽光パネルなどで自分の家で発電も送電もできるようになったのです。個人が主体となるエネルギー社会の到来、その主体のもっとも近くに存在するのが地方自治体なのです。「神奈川からエネルギー革命を!」という意識を共有し、広めていく作業を、スピーディに、かつ確実に成し得ることができるのは、国ではなく、より人びとの暮らしに近い場所にいる地方自治体だと自覚しています。地方から、日本のエネルギー政策の仕組みを変えていきたいですね。

黒岩祐治|KUROIWA Yuji

神奈川県知事。1954年大阪府生まれ。1980年早稲田大学政治経済学部卒業、同年フジテレビジョン入社。「FNNスーパータイム」、「報道2001」のキャスターを務めたのち、ワシントン駐在。みずから企画・取材・編集を手がけた救急医療キャンペーン「救急医療にメス」が救急救命士誕生に結びつき、第16回放送文化基金賞、平成2年度民間放送連盟賞を受賞。2009年に退社後、国際福祉医療大学大学院客員教授を経て、2011年4月知事就任。『情報から真実をすくい取る力』(青志社)など著書多数。

           
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