天然ガスと再生可能エネルギーのベストミックスを
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2015年2月9日

天然ガスと再生可能エネルギーのベストミックスを

次世代エネルギーの本命は──

天然ガスと再生可能エネルギーのベストミックスを

次世代エネルギーの中心になにがくるか。天然ガスこそが有力な答え、というのが石井彰氏だ。著書『エネルギー論争の盲点』(NHK出版)が話題を呼んでいる石井氏のインタビューをとおして、天然ガスの重要性をさぐってみよう。

文=小川フミオ
写真=JAMANDFIX

再生可能エネルギーも度を越すと、環境破壊に

──2011年7月に出版された『エネルギー論争の盲点』を興味ぶかく読みました。副題には「天然ガスと分散化が日本を救う」とありますね。



エネルギーの分散化がキーワードなんです。いま世の中は、3月11日の東京電力福島第一原子力発電所の放射能もれ事故以来、原発はいっさい廃止して、これからは風力や太陽光による、いわゆる再生可能エネルギーによる発電に切り替えていくべきだとする論調も出てきています。でも、原発に依存していた結果、停電を余儀なくされたのと同様、たとえば太陽光発電にだけ頼ると問題が出てくるんです。



──太陽光発電では、問題が出てくるのですか?



なぜなら、いまの日本の電力消費を太陽光発電だけでカバーしようとすれば、試算によると、日本列島4~5倍の面積が必要になります。それは極端な例かもしれませんが、メガソーラー発電所のように大規模集中的に太陽光パネルを設置すると、その下の地面は日光が遮断されてしまうので、植物は育たず自然破壊になる。




──エコロジーと自然破壊のはきちがえに気をつけないと、ということですか。



再生可能エネルギーも、ある程度の量を超えるとエコでなくなってしまう。薪炭利用のために過去に世界各地で森林の伐採で自然環境が破壊されてきました。砂漠化寸前までいった産業革命直前の英国がいい例です。原発発電量の大半を太陽光や風力でカバーするのは、この観点からムリがあるわけです。でも全否定するつもりはありません。太陽光パネルはビルの屋上に設置するなどして、補完的な発電をまかせれば自然破壊にはなりません。そこで、各エネルギー源の欠点を補い合うエネルギー・ミックスという考え方をするといいのです。



──さまざまなエネルギーによる発電を組み合わせることで、100パーセントになることをめざすわけですね。



どんなエネルギーでもそれだけに依存しようとすれば、なんらかの問題が出るものです。原発だって稼働中はCO2は出さないということになっていますが、今回のような事故が起きると人類の生存にかかわる問題になる。かといって石炭による火力発電ではCO2排出量がかなり多くなります。



──日本ではエネルギーの入手という問題をつねに抱えているわけです。その不安も原子力発電容認へと傾倒した背景にあります。



そうです。1970年代の石油ショックはいまだに記憶に鮮明です。石油がなくなって生活が成立しなくなる、というパニック心理がいっきに噴出した社会現象になりました。でもじつは、石油の供給量がしぼられたのではなく、原油価格が値上げされたわけですが。このように、資源を輸入に頼ることの多い日本では、不安感がつねにありますね。そこで私が注目しているのは、世界各地にたっぷりある燃料である、天然ガスです。



──世の中には、一次エネルギーと二次エネルギーがあります。電気を例にとれば、原子力や火力、水力という一次エネルギーから作られる。で、電気は、照明や家電や電気自動車などを動かす二次エネルギーです。天然ガスは、原子力や火力などとおなじ一次エネルギーですね。化石燃料であるという点では、石油や石炭と同列に並ぶものなのでしょうか。



そうです。メリットは、埋蔵量が多いこと。そして、燃焼時にはほかの化石燃料にくらべてCO2をはじめ有害ガスの排出が少ないことです。おなじ熱量でCO2排出量が石油より約3割、石炭より約5割少ない。また、ガス井戸からどんどん自噴するので、設備が石油なみに簡単なため、コスト面でも低く抑えられます。これも大きな利点です。



──太陽光パネルなど発電設備への投資については、将来への不安にもつながります。多額の税金を投入すれば、それが納税者の負担になりかねません。高齢化社会で活力が落ちていくこれからの日本では不安も大きいと思います。コスト安も、たいへん重要なテーマですね。ところで天然ガスは輸入するのですか。



液化天然ガス(LNG)というかたちでですね。液化というのは、メタンガスが中心になる天然ガスをマイナス162度Cで冷却することで、輸送しやすいかたちにしたものです。専用の輸送船を使い、港の備蓄基地に保管します。サハリンやオーストラリア、日本に比較的近いカナダ西岸など、世界各地で生産されているので、石油のように中東に頼らなくてもいい。それもリスクの分散化になります。



──天然ガスの資源量はどのていどなのですか?



最近の世界の天然ガス資源量評価では、400年以上と言われています。もっとも石油の埋蔵量もあと100年分以上はあると推定されていますが。一次エネルギーとして天然ガスに注目しているのは、さきに述べたようにCO2発生量が石油や石炭より圧倒的に少ないこと。もうひとつは、発電効率がよいことです。コンバインドサイクルとよばれる方法では、ガスタービンを回して発電し、そのあと排気熱でスチームを作りもういちど発電します。石炭による火力発電と比較すると1.5倍効率がよく、結果的にCO2排出量は3分の1になります。このコンバインドサイクルという高効率発電方式が重要なキーワードです。


次世代エネルギーの本命は──

天然ガスと再生可能エネルギーのベストミックスを

天然ガスとコジェネ

──日本が一次エネルギーにおける天然ガスの割合を増やした場合、供給はどのようなかたちでおこなわれるのですか?



将来的には、ロシアから欧州へと天然ガスが送られているのとおなじように、液化天然ガスをタンカーで輸入するだけでなく、大陸からパイプラインで輸入することも考えられます。パイプラインについては地震で損傷する危険性を危惧する向きもありますが、地下鉄と同様に地盤と一緒に揺れて応力があまりかからないので、損傷のリスクは非常に低い。あるいは、陸上パイプラインにして、それを高速道路脇とかに併設するのはどうでしょうか。メリットは、損傷があっても陸上ならば修復が容易なことです。天然ガスは比重がとても軽いので、万一、穴があいて大気中に放出されるとすぐ上空へと上がってしまい、爆発事故を引き起こす可能性は少ないことも利点です。


──天然ガスのメリットがこれだけあるのに、なぜ、日本のマスメディアは天然ガスの将来性についてポジティブに語らないのでしょう?



エネルギーの専門家に聞かずに、環境活動家ばかりに意見を聴くからでしょう。世界的に天然ガスが一次エネルギーに占める割合はどんどん高くなっていて、たとえばオランダは約50パーセント、イギリスやイタリアは約40パーセントです。アメリカは原子力発電の国といった思い込みが私たちにはありますが、いまは脱原発の動きが加速していて、天然ガスが約25パーセントもあります。



──日本の一次エネルギーにおける天然ガスの割合は、現状どのぐらいですか。



先進国と比較するといちじるしく低くて、約15パーセントです。ロシアは約50パーセント、中国や韓国も天然ガスに注目しています。なぜ日本では天然ガスが無視されてきたかというと、原子力を一次エネルギーのトップに据えたいという電力業界と政府の思惑があったのかと思わざるをえません。やはり原子力の割合が高いフランスで天然ガスが約17パーセントしか占めていないのと近いものを感じます。ただし欧州の場合、隣国からいくらでも電気を買えますから、たとえばドイツが脱原発した場合でも、隣国フランスの余剰電力という担保がある。そこが自国内のみの発電に頼らざるをえない日本と大きくちがう点です。


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──これからは天然ガスをどう使うべきなのでしょうか。



たんにコンバインドサイクルというかたちで大型発電所の燃料として使用するだけではなく、天然ガス利用を基盤にした、スマートシティづくりをめざしてもいいのではないでしょうか。社会全体で効率のよいエネルギーの使い方をすることが大事なのです。地域単位で包括的に電力の使用を管理するシステム「スマートグリッド」の実験が進んでいますが、二次エネルギーである電気にとどまらず、一次エネルギーの天然ガスを効率よく使うことも考えるべきです。



──たしかにすでにガスを効率よく使うシステムがありますからね。



発電機の排熱を有効利用する、いわゆるコジェネですね。いま私たちが考えたほうがいいのは、社会が必要とするエネルギー全体のことです。たんに電気をなにで作るのか、という議論でなく、たとえば、エネルギー全体をどのように効率よくまかなうのか、が重要なことです。それにはガスのコジェネがとても有効な候補だと思います。いい例が、六本木ヒルズです。2011年3月11日の、東京電力福島第一原発の事故による電力供給量の削減が社会不安を呼んだとき、六本木ヒルズでは、ビル全体をガスによるコジェネで動かしていることが話題になりました。ご記憶の方も多いと思います。背景には、ビルのテナントである外資系の企業が、電力の安定供給を要求しているため、少しでも安定性が高い自家発電を選んでいたことがありました。



──コジェネとはコジェネレーション。つまりCO(ともに)+GENERATE(発電する)なる言葉にあるように、オフィスや家庭で、発電・温熱・冷熱をひとつのエネルギーでおこなうものですね。一般家庭でもガスによるコジェネは有効なのでしょうか。



4人以上の家庭なら燃料電池利用のコジェネで大きな省エネができます。いまはまだ燃料電池が高いのですが、これからライン生産により量産化すれば価格も大きく下がり、さらに大量普及の可能性が高まります。


──天然ガスの価格が高い、と新聞で書かれているのを目にします。



海外から輸入される液化天然ガスを、世界で一番高く買っています。電力会社が、長年にわたって安定供給を優先しすぎて高い価格を認めてしまったからです。この「負」の実績がいまも尾をひいています。原発がメインだから、価格引き下げ交渉にも熱心でなかった。米国の3倍もの購入価格です。いま、さまざまな機関が天然ガスを安く手に入れる方策をさぐっていますが、どうもいまひとつ、腰が引けている感がある(笑)。

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電力会社は消費者に高コストのツケをまわす「包括原価方式」によりかからないで、天然ガスによる発電と、輸入価格の値下げに真剣に取り組んでもらえれば、私たちに大きなメリットになります。



──天然ガスはブリッジエネルギー、つまり、環境負荷の低いエネルギーが出てくるまでの、つなぎ的存在ととらえる向きもありますが。



いや、再生可能エネルギーの導入に限界がある以上、半永久的に頼らざるをえないのではないでしょうか。むしろそれを前提に、コストから社会基盤づくりまで、真剣に考えたほうが賢い選択だと思います。太陽光発電に熱心と言われるドイツでも、エネルギー消費全体の0.2~0.4パーセントにすぎません。ドイツの発電量の16パーセントが、いわゆる再生可能エネルギーですが、水力を主軸にして、風力、バイオマスなど、さまざまなエネルギーを組み合わせています。かつ、再生可能エネルギーの不安定性については、デンマークや、水力発電の多いノルウェーとの相互依存を利用したり、さらに、機動性のよい天然ガス発電によるバックアップを採用しています。それで平準化させているのです。日本でも、天然ガスに再生可能エネルギーを組み合わせて、危機管理とCO2削減、そして社会コスト低減、いくつもの面から有効なミックスを探っていくのが、もっとも大事なことだと思います。




石井彰|ISHII Akira

1950年生まれ。エネルギーアナリスト。エネルギー・環境問題研究所代表。早稲田大学非常勤講師・招聘研究員。日本経済新聞記者を務めたのち、石油公団で資源開発に携わる。著書に、『エネルギー論争の盲点』(NHK出版新書)のほか、『大転換する日本のエネルギー源 脱原発。天然ガス発電へ』 (アスキー新書)、『世界を動かす石油戦略』 (共著、ちくま新書)などがある。

           
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