BOOK|パリの達人が綴ったスタンダードにまつわるエッセイ集
BOOK|パリの達人が綴ったスタンダードにまつわるエッセイ集
山本ゆりこ著『わたしのフレンチ・スタンダード A to Z』
パリをはじめとするヨーロッパの食文化などにかんする著書をすでに10数冊も書かれている、山本ゆりこさん。その彼女の新刊は、たくさんの写真やイラストが散りばめられた辞書スタイルのかわいらしいエッセイ集だ。じつはこの本、鎌倉にオープンしたあるセレクトショップの本好き店主のリクエストから誕生した本なのだという。
Text by YAMAMOTO Yuriko
遠くフランスに想いを馳せ、13年間の記憶を辿る
13年間暮らしたパリから、日本に帰国して2010年4月で丸1年が経つ。フランス菓子を学ぶという目的の留学だったが、私自身、こんなに長くなるとは想像もしていなかった。幸運にも、フランス菓子の枠を超え、フランスやヨーロッパの食文化やライフスタイルを紹介する本や記事を執筆することで、パリに住む権利を得ることができたのだ。
今年3月には、パリでの暮らしの集大成として執筆した著書『パリの宝物70』(毎日新聞社)の出版記念イベントを、吉祥寺のギャラリー・フェブにておこなった。イベント期間中、なつかしい方に再会する。その方はライターの山口 淳さんで『わたしのフレンチ・スタンダード A to Z』(マガジンハウス)の書くきっかけをくださったムッシューだ。
山口さんとの出会いは、2004年だったと記憶している。当時、私はカフェオレボウル収集家として、都内でカフェオレボウルにかんするイベントを催したり、本を出版したりしていた。ある日、山口さんから、「ある雑誌でカフェオレボウルを取り上げたいので、その歴史や背景をインタビューさせてほしい」というアプローチがあった。まだ駆け出しだった私は「すごく人気のあるベテランのライターさんだから失礼のないように」という、仲介役の方の言葉が頭から離れなかった。
山口さんは、その仕事ぶりと人柄のよさから多方面に顔が広い。『わたしのフレンチ・スタンダード A to Z』の依頼主である脇本廣志さんもそんなひとりだ。
脇本さんは現在、ネット上で『4cups+desserts』というフレンチ系のセレクトショップを経営されている。その脇本さんから山口さんに本の製作依頼があった。それは、鎌倉に本格的なリアルショップとカフェをオープンするので、オープン記念にふさわしい本を作ってほしいというものだった。
内容はおまかせ。『4cups+desserts』の宣伝や記事は一切入れなくてもいいので、フランス雑貨などを取り上げた一般書店で販売する価値のある書籍にしてほしいというのが脇本さんからの要望だった。そんな依頼を受けた山口さんが「いっしょに1冊本を作りませんか?」と私に電話をくださったのは、かれこれ3ヵ月ほど前のことになる。
あるテーマについて自由に書いてよいというのは、思った以上にむずかしい。そこはベテランの山口さん、「山本さんの好きなものを、アルファベット順で紹介したらどうだろう。文字によってはたくさん出てくるものもあるだろうし、逆に“X、Y、Z”なんかは、なかなか出てこないかもしれないけどね」と、突破口を提案してくださった。
私はまず、好きなものをAからZまで、思いつくままにリストアップした。“C、P、S”ではじまるアイテムが多くて削るのに困ったし、フランス語ではほとんど使わない“K”や“W”に該当するアイテム探しには苦労した。苦労の反面、“A to Z”というあたらしいフィルターにかけることで、私の好きなもの、好きなポイントがクリアになっていくプロセスがとても楽しかった。遠くフランスに想いを馳せ、13年間の記憶を辿っては、文字に起こしていく日々がつづいた。
私は自他ともに認める薀蓄好きだ。でも今回の本は、「薀蓄はほどほどに、アイテムに対する山本さんの目線が丁寧に綴られつつも、サラッと読めるエッセイにしてくださいね」と山口さんから念を押されていた。だから薀蓄の分量にも、ずいぶんと注意を払った。さらに、文字ばかりにならないように、撮り溜めていた写真を随所に散りばめた。
山口さんをはじめとするスタッフの皆さんのおかげで、バランスのよい本に仕上がったのではないかと思う。上品な淡いグリーンの表紙に、見返しのクラッシックな花柄がきいている。持ちやすいコンパクトな形だから、バッグのなかにしのばせ、ぜひお気に入りのカフェまで連れて行っていただければ、著者冥利につきるというものだ。
4cups+desserts 鎌倉
1階では服や雑貨をあつかい、2階にはショップ直営のカフェ「Biscuit」がある。
営業時間|11:00~18:00 金曜~火曜
定休|水曜、木曜
神奈川県鎌倉市扇ケ谷1-9-14
Tel. 0467-25-6300