BOOK|穂積和夫『絵本 アイビー図鑑』
BOOK|アイビーはファッションではなく、スタイルだ
穂積和夫『絵本 アイビー図鑑』
つい先日発売されたばかりの写真集『JAPANESE DANDY』の表紙を飾ったのは、この『絵本 アイビー図鑑』の著者であるイラストレーターの穂積和夫氏だ。日本のダンディたち130人の肖像のなかから、彼が表紙に選ばれた理由、そしてファッションにたいするこだわりがこの一冊に凝縮されていた。
Photographs by JAMANDFIXText by ITO Yuji(OPENERS)
「ブランドには詳しくない」
『絵本 アイビーボーイ図鑑』『絵本アイビーギャル図鑑』につづく、第3弾となる穂積和夫氏による本著だが、34年ぶりの新刊にあたって、以前の2冊とは構成も変え、イラストはすべて描きおろしされたものを使い、オールカラーで現代にふさわしい多くのアイテムがくわえてられている。
穂積氏といえば日本におけるイラストレーターの先駆者であり、アイビーをじぶんのスタイルとして取り入れた人物として知られる。ここで大切なのは“時代とともにうつろうファッション”でなく、アイビーを自身のスタイルへと発展させた氏の“ブレない感性”だ。
よって本著のなかには“わたし自身はブランドについてはあまり詳しくない” “おしゃれはやっぱり自分自身で決めるもの”といった、HOW to本にはない、“親切すぎない”表現も使用されている。ただ、ここには穂積氏独特のファッション観が込められているような気がしてならない。それを代表するのが自身による名言“俺がブランドだ”である。
ファッションではなく、自分のスタイルがほしい大人に
この言葉は決して驕りから生まれたものではなく、戦後間もない時期からアイビーをこよなく愛してきた男の生き方から生まれた価値観でもある。これまでひと筋にアイビーを着つづけることで、見えてきたもの、そして伝えたいこと、そういった多くの意味が込められているのだと思う。
現代の若者は、つねに他人を意識し、SNSでつながり、ひとりになることを極端に避けている。それはつまり、価値判断基準をじぶんのなかにもてないからであり、なにをもって自分が善しとするかの線引きが、だれにもわからなくなっているからではないだろうか。
その答えのひとつが『絵本 アイビー図鑑』だ。ブランドではなく、自分で自分の服を買い、気に入ったものを心地よく着こなす、といった、ごく当たり前の服にまつわる考え方を育んでくれる、というのがその理由だ。アイビー自体は、それがひとつのスタイルとなっているため、本著に出てくるアイテムをしっかりと考えて身に纏えば、大人のワードローブは美しく整う。
そして前書きにおいて氏はこう結ぶ。
“うまくアイビーをマスターできれば、それ以外の流行がやってきても、難なく取り入れたり着こなすことができるはずです。あなたがいまよりもさらにおしゃれになることを大いに期待しています”。
メンズからレディス、カフリンクスからバッグ、そして和服まで。アイビーという観点から幅広いジャンルにわたって、時を超えたベーシックを教えてくれる一冊は、どんなファッションスナップよりも、自分らしいスタイルを構築するために役立ってくれるだろう。
『絵本 アイビー図鑑』
発売中
著者|穂積和夫
発行|万来舎
仕様|A5判 上製、128ページ
価格|2484円