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ART
2020年1月17日
人間の存在を写し撮る写真家・鬼海弘雄の個展『や・ちまた』|ART
ART|45年以上に渡り市井に生きる人々のポートレイトを撮り続ける
写真家・鬼海弘雄氏の個展『や・ちまた』渋谷・NANZUKAギャラリーで開催
写真家・鬼海弘雄氏の個展『や・ちまた』が、渋谷のNANZUKAギャラリーにて、2020年1月10日(金)~1月26日(日)まで開催される。本展は、NANZUKAギャラリー初の“写真家”の展覧会であり、開廊以降15年をかけて育んできた同ギャラリーの文脈における、最後のミッシングピースとも呼べる特別企画展でもある。
Text by OZAKI Sayaka
日本の写真文化の深淵が生んだ至高の肖像写真
鬼海弘雄氏は1945年山形県に生まれ、法政大学文学部哲学科卒業後、トラック運転手、遠洋マグロ漁船乗組員、暗室マンなど様々な職業を経て写真家になることを決意。1973年より浅草で出会った人々を撮り続け、1987年『王たちの肖像:浅草寺境内』、1996年『や・ちまた:王たちの回廊』、2004年『Persona』、2019年『PERSONA 最終章』と、45年以上に渡る一連の浅草シリーズを収録した数々の作品集を発表。2004年には写真集『PERSONA』で第23回土門拳賞を受賞した。これまで『ペルソナ』(土門拳記念館、山形県、2004年)、 『東京ポートレイト』(東京都写真美術館、2011年)、『Persona 最終章』(奈良市写真美術館、2019年)などの個展を開催し、作品はニューヨークのインターナショナル・センター・オブ・フォトグラフィーにも収蔵されている。
鬼海作品の最も重要な点は「被写体となる人々の生き様や人間性をいかに写し撮るか」にある。鬼海氏は1973年より愛用のハッセルブラッドを手に浅草の浅草寺に立ち、一日の大半を通り過ぎる人を見つめ続け、何かを感じ取った人にのみ声をかけて、毎回同じ境内にある朱色の背景の壁で撮影を行なってきた。撮影人数は1日に1人から2人、多くても3人という。「ポートレイトは時間。その人が来た時間、これから行く時間を撮るんだよ」と語る鬼海氏にとって、被写体との関係性は非常に重要な意味を持つものだ。鬼海がファインダーを向ける対象は、職人、失業者、老人、学生、主婦、ないしは職業不明者など、市井に生きる無名の人々だが、鬼海氏は彼・彼女らを「王」と呼び、その尊厳を写し取るのだ。それを可能にする誠実さ、愛情、そして好奇心、これらこそが鬼海作品に通底するものである。
鬼海氏は学生時代に哲学者の福田定良氏と出会い、「人間が生きている中で一番贅沢な遊びは、表現することだ」と教えを受けたという。また自身について「自分などは最初から写真家の世界とはかけ離れた所で、ひっそりとしぶとく自生する野性植物のように撮り続けることしか考えていない」と語り、鬼海氏が被写体とする“ドロップアウト”した人々の姿は、鬼海氏自身の分身でもあると言えるだろう。
本展では、鬼海氏が1996年に発表した『や・ちまた』にフォーカスを当て、1000人以上の人々を45年以上に渡って撮影してきた一連のシリーズの中から、厳選した作品を展示する。また、同時にCASE(NANZUKAギャラリーと同ビルの地下一階スペース)にて、鬼海氏と同じくダイアン・アーバスに共鳴し、1980年から40年間に渡って大阪の新世界を徘徊して作品を撮り続けている写真家・百々俊二(どど しゅんじ)氏のポートレートシリーズから厳選した作品を集めた個展も開催される。
問い合わせ先
NANZUKA
Tel.03-3400-0075
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