ART|後藤靖香『机上の空砲/Empty revolver on desk』展
ART│戦時中の3人の植物学者をダイナミックに表現
後藤靖香『机上の空砲/Empty revolver on desk』展
現代美術家の後藤靖香(ごとう・やすか)による個展『机上の空砲/Empty revolver on desk』が4月26日(金)まで、大阪市のテヅカヤマギャラリーで開かれている。綿密なリサーチにもとづき、太平洋戦争中にシンガポールでともに働いた、国籍のちがう3人の植物学者をダイナミックに描いた大作が展示される。
Text by YANAKA Tomomi
会場には調査調査報告も
昨年、若手画家を支援し具象絵画の可能性を開くことを目的にした「絹谷幸二賞」や、大阪の文化に貢献した「咲くやこの花賞」を受賞するなど、活躍がめざましい後藤靖香さんの作品『机上の空砲/Empty revolver on desk』。
1942~45年にシンガポールが日本軍支配下であった時代の昭南植物園(現シンガポール国立植物園)でともに働いていた、国籍の違う3人の植物学者が、縦212センチ×横430センチという大きなキャンバス1枚に、ひとりずつ描かれた3点からなる大作だ。今年1月にシンガポールで開催されたアジア最大級のアートフェア『ART STAGE SINGAPORE 13』に出展され、日本では今回の個展が初披露になるという。
1982年に広島で生まれ、幼少期より祖父や親類の戦争体験を聞き、その過酷な時代を生き抜いたひとびとの強さに惹かれ、テーマとして作品を描いてきた後藤靖香。近年では、大阪名村造船所跡地で当時現場で働いていた若者たちに焦点を当て、緻密な取材を重ねた『床書キ原寸』などでも知られている。
今回の『机上の空砲』に描かれているのは、日本人である郡場寛博士、イギリス人のE・J・H・コナー博士、そして日系シンガポール人であった助手のアーサー・アルフォンソという、敵味方や国籍を超えて協力し、植物園を守った男たちの姿だ。
丹念なリサーチに制作時間のほとんどを費やし、墨を使ってダイナミックに、一気に描きあげている。また、会場では郡場博士の調査のために青森に赴いた際の調査報告にくわえ、シンガポールでの追跡調査の発表も予定されているという。
いま、もっとも注目を集める現代アーティストのひとり、後藤靖香渾身の新作。時代の荒波にもまれながらも研究に尽力した3人と、後藤靖香の熱き想いにあふれている。