TOKYO PREMIUM BAKERIES|第10回 ショーマッカー
第10回 Schomaker|ショーマッカー
アレンジなしの正真正銘ドイツパン
東京でほんとうに「上質でおいしいパン」を提供しているパン屋さんを紹介する連載第10回は、東急目黒線と大井町線が交差する大岡山で人気のドイツパン『ショーマッカー』。ドイツ北西部の実力派ベッカライ『ショーマッカー』から「のれん分け」を許された、本場の味が魅力です。
取材・文=戸川フユキ写真=高田みづほ
なるべく国産の材料で、なるべくからだによいパンを
昔ながらの風情が残る、大田区・大岡山の北口商店街。中央の通りから一本左の細い道を5分ほど進むと、パン屋のおじさんのイラストがSの字をかたどる看板を掲げた『ショーマッカー』にたどりつく。一見ごく普通の、こじんまりとした町のパン屋さんだが、一歩店内に入ると、ずらりと並んだドイツパンの見事なラインナップに「これは本物のドイツパンの店だ!」と期待が一気に高まった。
清水信孝シェフは、大学の農獣医学部に在籍していたころから「食」に興味があり、アルバイトで製パンの面白さに触れたことがきかっけで、卒業後はフランスパンを中心に手がける大手製パンメーカーに就職した。
しかし働くうちに、日本のパン屋にはアレルギーをもつ人が安心して食べられる、からだによいパンが少ないことが気になりだし、ドイツパンはなぜ酸っぱいのか? なぜからだによいといわれるのか? なぜ自分の勤める店のドイツパンを、ドイツ人が買って行かないのか? など、ドイツパンへの興味と疑問が次第に大きく膨らみ、25歳のとき、ついにパンづくりの研修のため単身ドイツに渡ったのだった。
ドイツでの研修は2年に及んだが、後半の1年は、ドイツ北西部、オランダ国境に近いロイドという小さな町にあるパン屋『ショーマッカー』でお世話になる。マイスターの資格をもつアンドレアス・ショーマッカー氏の店は、「Die Bio Baeckerei Schomaker」、つまり無農薬・オーガニックのパン屋である。ドイツでもオーガニックのパン屋は多くはないそうだが、『ショーマッカー』では氏が自ら選んだ無農薬のライ麦を、パン工房内にある自家製の「製粉機」で製粉し、その日のうちにライ麦の風味豊かなパンを焼いている。
ショーマッカー氏に実力を認められ、念願のオーガニックのパン屋で働きはじめた清水シェフだったが、最初のころはずいぶん苦労したようだ。まずパンの丸め方が違った。日本では手を引きながら丸める「引き丸め」に慣れていたが、ドイツではからだ全体を使って、生地を押しながら成形する「押し丸め」が主流だった。
また日本ではパンの見た目の美しさや繊細さが求められたが、ドイツでは力、スピード、そして数が重要視された。つまり、いかに素早くたくさんのパンをつくれるかが職人に求められるのだ。
それでもなんとか「押し丸め」を修得してからは、研修が楽しくなっていったというのだから、清水シェフのガッツも大したものだ。
清水シェフのパンは、ドイツの製法100%で、いっさいアレンジをくわえない。パンの素材は基本的に「ライ麦と天然酵母に水と塩」と、いたってシンプル。素材は国産で、なるべくからだによいものを使う。使用するサワー種はドイツから持ち帰ったもので、水温や室温の調整をしながら、一日三回大切につないでいる。栄養価が高いのにカロリーが低く、毎日食べつづけられる本当にからだによいパンばかりだ。
おすすめは、ひまわりやカボチャなどの種がたっぷりと載せられた、賑やかな「パーティークランツ」。ライ麦30%、国産小麦70%で、ドイツパンが初めての人にも食べやすい食感だ。またドイツ語で「ライ麦パン」を指す「ロゲンブロート」は、ドイツではもっともスタンダードなパン。ライ麦100%で酸味が強く、これぞドイツパンのどっしりとした味わいだ。噛めば噛むほどライ麦の香りが口中に広がり、ハムやチーズとの相性も抜群である。
大岡山は、以前近くにドイツ学校があったため、現在もドイツ人の比較的多い町だそうだ。取材の最中もドイツ人の親子が来店し、清水シェフと楽しそうにおしゃべりをしながら、大量のパンを求めて行った。
本家ドイツの『ショーマッカー』から唯一の「のれん分け」を許され、本店と同じロゴマークを掲げる大岡山の『ショーマッカー』。近隣に暮らすドイツ人のお得意さまが多いことが、「本物の味」であることのなによりの証であろう。
Schomaker 『ショーマッカー』
東京都大田区北千束1-59-10
Tel. 03-3727-5201
営業時間│9:00~18:00
毎月曜休
(東急目黒線・東急大井町線、大岡山駅下車徒歩5分)
http://www.schomaker.jp/