TOKYO PREMIUM BAKERIES|第8回 ダンディゾン
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2015年3月6日

TOKYO PREMIUM BAKERIES|第8回 ダンディゾン

第8回 Dans Dix ans│ダンディゾン

10年後を見据えてシンプルにつくる、安心素材のパン

東京でほんとうに「上質でおいしいパン」を提供しているパン屋さんを紹介する連載第8回は、JR中央線・吉祥寺の街にオープンして6周年を迎えた『ダンディゾン』。パン職人ではないオーナー夫妻が、「地元においしいパン屋をつくりたい」とはじめたお店です。

取材・文=戸川フユキ写真=高田みづほ

メインは食パン4種類。──毎日食べるパンだから

若者の「住みたい街」として人気の高いJR中央線の吉祥寺。駅の北側の喧噪が遠のいた辺り、大正通りの輸入玩具店の先を曲がった突きあたりが、『ダンディゾン』の入る淡いピンク色の建物だ。目の前に小さな公園を配する奥まった場所の地下で、日々パンが焼かれているとは、ちょっと想像しにくいロケーションである。

以前は専業主婦だったオーナーの引田かおりさんは、空き地だったこの土地を眺めるたびに「いつかここでなにかできたらいいな」と漠然と思っていたそうだ。それからいくつもの偶然と幸運を引き寄せて土地を手に入れ、ご主人の退職を機にビルを建て、ついに「大好きな吉祥寺においしいパン屋をつくりたい」との夢を実現させたのが2003年。地下はパン屋、一階は知人の洋服店、そして2階は引田さんオーナー夫妻が「素敵だと感じるもの」を紹介するギャラリー「fève」が入っている。

パン屋のオープンにあたっては、都内の有名店で活躍していた木村昌之氏がシェフとして迎えられた。当時はまだ24才の若さであったが、オーナー夫妻が「キャッチボールをしながら、一緒においしいものをつくり出すことができる人」と確信した逸材だ。

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『ダンディゾン』のパンは店名のとおり「10年後」の未来を見据えて、保存料や添加物をいっさいくわえずに、からだにやさしい素材で丁寧につくられる。

メインとなる4種類の食パンは、どれも食べ切りの小型サイズで、おいしさを閉じ込めた丸のままで販売する。店頭には、無農薬の野菜や果物を使ったパンなど、常時35種類ほどのパンが並ぶ。なかでも食パンの「OE15」は、バターを使わずにイタリア産の無農薬オリーブオイル15%と水で焼き上げられ、適度な噛み応えと軽い食感が人気。サンドウィッチにもおすすめのパンだ。

またコルシカは、プルーンとクレモンティーヌ(西洋みかん)のクリームにプルーンの角切りを合わせ、折り込み生地で包んで焼いたパン。砂糖不使用で、アルマニャックの香りが豊かな大人の味わいだ。

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「パン工房に直接パンを買いに来た」雰囲気のガラス張りの厨房に、重厚な一枚板のドア、白を基調とした揃いの制服に、スタッフの説明を受けながら個別にパンを選ぶスタイルと、初めて訪れた人はちょっとそのスタイリッシュさに戸惑うかもしれない。しかし木村シェフは「ここに来ないと買えない、長く親しまれる“吉祥寺のソウルフード”となり得るパンをつくりたいんです。箱(ビル)に負けてなんていられませんから」とじつに職人らしく力強い。パンづくりにかける情熱とその実力に、オーナー夫妻が太鼓判を押すのもうなずける。

『ダンディゾン』では開店30分前にスタッフ全員が厨房に集まり、マイカップでお茶を飲む。これはオープン当初からの日課で、チームワークが必須の仕事なだけに、ゆったりした時間を共有することがよいコミュニケーションとなっているそうだ。「おいしいものをつくるためには、働く人にも生活を楽しむ余裕がなくては」という、職人出身ではないオーナーの思いが、こんなところにもあらわれている。

気持ちのいいものに敏感なオーナー夫妻と、人を喜ばせたい思いが人一倍強いシェフがタッグを組んでつくり出すパンは、6年経ったいま確実に吉祥寺の味になりつつある。吉祥寺の街で頻繁に見かける、様々な年齢層の人が持つ『ダンディゾン』の手提げ袋が、それを如実に物語っているようだ。

Dans Dix ans 『ダンディゾン』
東京都武蔵野市吉祥寺本町2-28-2 B1F
Tel. 0422-23-2595
営業時間|10:00~18:00
水曜・第一、第三火曜休
(JR中央線、吉祥寺駅下車徒歩10分)
http://www.dans10ans.net/

           
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