TOKYO PREMIUM BAKERIES|第7回 スピカ・麦の穂
Lounge
2015年4月16日

TOKYO PREMIUM BAKERIES|第7回 スピカ・麦の穂

第7回 Spica│スピカ・麦の穂

明日の自分をつくる、「いのちのもと」となるパン

東京でほんとうに「上質でおいしいパン」を提供しているパン屋さんを紹介する連載第7回は、東急池上線長原駅下車徒歩5分の『スピカ・麦の穂』。国産の小麦粉や材料にこだわり、日本の食文化に合った「いのちのもと」となるパンをコツコツと焼く、小さな街のパン屋さんです。

取材・文=戸川フユキ写真=高田みづほ

国産小麦と天然酵母、そして生産者の顔の見える素材

東急池上線長原駅を降りて徒歩約5分。環七通りを越えた懐かしいムードの漂う商店街に店を構える『スピカ・麦の穂』。小さな店舗ながら、都内の自然食品店にもパンを卸す実力店だ。以前にお土産でいただいた、ナッツやフルーツがたくさん入ったこちらのパンが記憶に残っていた。しっかりとした噛み応えのある、ずっしりと重たいパン。しかし一本筋の通った正直な味がするのだ。

会社員や飲食店勤務を経て、大手パンメーカーで働いていた降矢泰次シェフが天然酵母のパンに出合い、天然酵母パンの老舗『ル・ヴァン』での修行ののちにこの店を開いたのは1989年。「パン屋だったら、もっと子どもとの時間が増えると思ったんですよ」と冗談まじりに語る降矢氏だが、当時はお子さんにアトピーがあったりと、身体によい食生活の大切さを痛感した末の決断だったようだ。

『スピカ・麦の穂』のパンは、国産小麦にこだわり、小麦の粒をそのつど石臼で挽き、主にレーズンからおこした自家培養天然酵母と、水と塩を使ってシンプルにパン生地をつくる。素材の味を活かすために砂糖は使わず、生地に混ぜ込む副材料も、なるべく生産者の見える素材を使う。

「今日食べるものが、明日の自分をつくる。だから良い素材で丁寧につくったものが一番なんです」と降矢シェフ。よく考えれば当たり前のことだが、ジャンクなものや添加物だらけの食品が氾濫する現代では、あらためて考えさせられる言葉だ。

327_05_IMG_3640

全粒粉入りでバターは少なめの珍しいクロワッサン

327_07_IMG_3548

ライ麦20%配合の軽い食感が人気のパン「ライト」

看板商品のパン「私のお気に入り」は、国産小麦に有機のクルミ、カレンツ、レーズンがぎっしり入り、まわりにたっぷりとオートミールが付けられたちょっと贅たくなパン。ワインやチーズにもよく合い、プレゼントとしても人気がある。店舗では、スライスして量り売りもしている。

また特大の「日々のパン」は、群馬産の小麦に、岩手産ライ麦35%、全粒粉15%に岩手産のクルミを使ったしっとりとした食感のパン。「ミルク味がする」と評判の国産のクルミは味が濃く、毎日食べたくなる深い味わいのパンだ。

降矢シェフは、経験を積んだ現在でも仕事場に入ってくると「いいなぁ。ここは自分の空間だな」と喜びを感じるそうだ。パンづくりを一生の仕事に選び、今日もコツコツと正直においしいパンを焼く。「自然の材料を使うことは、自分にとっては当たり前のことなんですけどね」と言いながら、すばやくパンを成形していく降矢シェフの流れるような手さばきに、なんとも言いがたい不思議な安心感を覚えた。

「スピカ・麦の穂」
東京都品川区旗の台5-28-13 シュロス旗の台1F
Tel. 03-3788-5536
営業時間|11:00~19:00
月・火曜休
(東急池上線長原駅下車徒歩5分)
http://www.ebara-aoiro.or.jp/kaiinjigyou/kouri/034_spica/

           
Photo Gallery