INTERVIEW|パティ・スミス&セブリング監督 インタビュー 後編
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2015年4月13日

INTERVIEW|パティ・スミス&セブリング監督 インタビュー 後編

パティ・スミス&セブリング監督 インタビュー 後編

パティ・スミスの「言葉を描くという肉体的行為」とは

パティ・スミス――。1970年代に頭角をあらわし、類まれな音楽性と怒りを表現した詩、そして独自のスタイルを貫くパフォーマンスでミュージックシーンを刺激しつづけてきた伝説のロッカーである。“パンクの女王”と敬われているパティは、同時に詩、映画、写真など多岐にわたる分野で活躍するアーティストであり、社会活動家であり、母であり、娘であり、ひとりの女性である。そんな「ひとりの人間、女性」としてのパティをみごとにとらえたドキュメンタリー映画『パティ・スミス:ドリーム・オブ・ライフ』が、ついに日本でもシアターN渋谷ほかにて全国順次ロードショウされている。

パティ・スミスとスティーヴン・セブリング監督にインタビューを敢行した弊誌。後編では、アーティストとしてのパティ・スミスの顔に迫っていく。

Text by OPENERS

タイトル 『パティ・スミス:ドリーム・オブ・ライフ』 にこめられた想い

『パティ・スミス:ドリーム・オブ・ライフ』という今作のタイトルを聞いて、パティのファンがまっさきに思いつくのは、1988年に発表された同タイトルのアルバムだろう。今は亡きパティの夫、フレッド・スミスとの共同プロデュース作であり、活動をいったん休止していたパティの復帰作だ。パティとスティーヴンのふたりで考えた、というこのタイトルは、パティが唯一好んで飲むお酒だという日本酒を酌みかわしながら決めたそう。

「タイトルの候補はいくつかあったんだけど、どれもしっくりこなくて。それで、亡き夫、フレッドが私たちの最後の共同プロデュース作品に付けたタイトルを使うことにしたの。フレッドはもうここにはいないけれど、彼の“なにか”をこの映画に残しておきたいって思ったのよ。『パティ・スミス:ドリーム・オブ・ライフ』、これは彼に敬意を表してつけたタイトルなの」

yoshie tominaga(MILD inc.)

言葉を描くという肉体的行為

劇中では要所要所で、スティーヴンの撮ったフィルムに対してパティが即興でナレーションをつけるという手法がとられている。それは「ナレーション」というよりも「詩」であり、スティーヴンが捉えた映画のなかのパティがしていることと、まったくおなじだ。その、言葉をつむぐ行為を「言葉を描くという肉体的行為」だと表現するパティ。

「若かったとき、私は、詩人か画家になりたかったの。詩を書いてみたけれど、それでは十分でなかった。わたしはもっと、声をあげたかったし、ただただもっと大きなエネルギーを感じていたの。それは、絵を描いていてもおなじだったわ。描きはじめるとそれは、紙の上からはみだして壁までつづくほどだったの。それで結局“パフォーマー”という道に行き着いたわけだけど、自分が歌えたりパフォームができるなんて、はじめは思ってもみなかったのよ。でもパフォーマーという道は、私のなかにいた巨大なエネルギーが『外に出たい』って押し出てきた結果なのよね。いまでも驚いているわ、この環境に。でもパフォーマーになったことで、世界中のいろんな場所に行けて、いろんなものをみて、いろんなひとに会えている……。それって本当に素晴らしいことよね」

Photo by Steven Sebring

そしてパティは付けくわえた。

「だから、私たちの内面によく耳を傾けてほしいの。忙しいとか、自分には無理だ、とかそんな理由をつけてないで、“なにか”を感じたなら、とにかくトライしなさい。その“なにか”を外に出してあげて。上手か下手かなんて関係ない。私だってひどい歌手だったんだから。でも私のなかには巨大なエネルギーがあって、そのことを自覚していた。そのエネルギーが外に出てきた結果がロックンロールだったというだけなんだから」

その「言葉を描くという肉体的行為」は、スティーヴンの目にどのように映っていたのだろうか?

「彼女が言葉を紡ぐとき、それはとてもスピリチュアルで、エモーショナル、そして刺激をくれて想像力を掻きたててくれるものなんだ。だから11年という長いあいだ、やってこれたのかもしれないね(笑)」

運命は自分でデザインするもの。それを一連の幸運と不運が邪魔をする

映画の冒頭で、スティーヴン所有の馬たちがスローモーションで駆け巡る映像のうえを、パティは悟ったように、穏やかにこう語っている。なんとパティらしい表現だろう!
駆け巡る馬たちをみていたら、スラスラと出てきたのだという。
「一連の幸運と不運の邪魔」。それは実際にこの映画を撮っていたときのスティーヴンの状況にもあてはまるのだと、彼は当時の苦労を語ってくれた。

「ひとりですべてをやっていたからとっても大変だったんだよ。カメラにつけていたマイクが落っこちちゃったり、アクシデントばっかりだったんだ。それに、すっごく良いシーンを撮ってたのに急にフィルムが切れちゃって『ストップ』って言わざるを得なかったりして、使えなかったシーンも多かったんだ。だから、編集のプロセスは本当に大変だったよ。その苦労が、この映画をよりクリエイティブなものにしてくれたけれどね」

インタビューも終わりにさしかかったころ、おもむろにギターを手にし「グレイトフル」(アルバム『ガン・ホー』収録)と即興の替えうた、そして「マイ・ブレイキアン・イヤー」(『トランピン』収録)を披露してくれたパティ。

「多くのジャーナリストたちが、私について本当じゃないことや、彼らの予測にしかすぎないことを書きたてたりして、私が“ひとりの人間であること”や、私のユーモラスな一面を忘れてしまっているの。だからこの映画を通じて、私の、より人間的な面が伝わるといいわね。“パンクロッカ―の自伝”みたいなのを期待するひとは観てガッカリしたりするかもしれないけれど、この映画を好きなひとも大勢いると思うわ」

彼女自身も大好きだという今作についてそう語るとおり、アーティストとしてのパティ・スミスだけでなく、われわれがいままで見たことがないような彼女の側面をたくさんみせてくれているパティのドキュメンタリー映画『パティ・スミス:ドリーム・オブ・ライフ』。それはインタビュー中も息がぴったりだったパティとスティーヴンのタッグでこそ成し得たことである。映画のなかのパティの姿は、パティのファンにとってとても貴重なものであろうし、いままでパティ・スミスという人物をよく知らなかった人びとにもポジティブなエネルギーを与えてくれる。

『パティ・スミス:ドリーム・オブ・ライフ』
監督│スティーヴン・セブリング
制作│スティーヴン・セブリング、マーガレット・スミロフ、
スコット・フォーゲル
撮影│フィリップ・ハント、スティーヴン・セブリング
編集│アンジェロ・コラオ、リン・ポリト
出演|パティ・スミス、フリー(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)、マイケル・スタイプ(R.E.M.)、サム・シェパードほか
製作国│2008年アメリカ映画
上映時間│1時間49分
配給│トランスフォーマー
宣伝・配給協力|ザジフィルムズ
公式サイト
http://www.pattismith-movie.com/
シアターN渋谷、シネマート新宿にて公開中。9月19日よりテアトル梅田ほか全国順次公開。

Tokyo Hipsters Club×「パティ・スミス:ドリーム・オブ・ライフ」
コラボレーション写真展「Patti smith/scene of life」開催
スティーヴン・セブリング撮影の大判写真や写真家・富永よしえがNYや今回の来日中に撮影したパティ・スミスのプライベートショットなどを展示予定。
期間|9月4日(金)~9月27日(日)
場所|Tokyo Hipsters Club FREE SPACE
入場料|無料
http://www.tokyohipstersclub.com/html/

Photo by Steven Sebring

           
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