INTERVIEW|パティ・スミス&セブリング監督 インタビュー 前編
あのパティ・スミスのドキュメンタリー映画
『パティ・スミス:ドリーム・オブ・ライフ』 公開!
パティ・スミス&スティーヴン・セブリング監督 インタビュー 前編
パティ・スミス&スティーヴン・セブリング監督 インタビュー 前編
パティ・スミス――。1970年代に頭角をあらわし、類まれな音楽性と怒りを表現した詩、そして独自のスタイルを貫くパフォーマンスでミュージックシーンを刺激しつづけてきた伝説のロッカーである。“パンクの女王”と敬われているパティは、同時に詩、映画、写真など多岐にわたる分野で活躍するアーティストであり、社会活動家であり、母であり、娘であり、ひとりの女性である。そんな「ひとりの人間、女性」としてのパティをみごとにとらえたドキュメンタリー映画『パティ・スミス:ドリーム・オブ・ライフ』が、8月29日よりシアターN渋谷ほか全国順次ロードショウされる。
弊誌はパティ・スミスとスティーヴン・セブリング監督にインタビューする機会に恵まれた。映画公開日の8月29日は1999年に他界したパティの父親の命日であり、インタビュー当日はくしくも彼の誕生日であった。
Text by OPENERS
パティの“弟”、スティーヴン・セブリング監督
パティ・スミスの11年にも及ぶ記録映画が撮られていたと聞いて、だれもが驚いただろう。彼女のように怒りをあらわにする「ロック・クイーン」が、いったい誰に11年間ものあいだ自身につきまとわせることを、許したというというのか。
「ドキュメンタリー映画を撮りたいというオファーはあまたと受けてきたわ。でも、ドキュメンタリーなんて死んだひとに対してやることみたいじゃない。それに、わたしの身近な人びとにあれやこれや質問とかしている映画なんてつまらないし。そんなものを作る気はまったくなかったの」
そんな彼女にみごと「イエス」と言わせた人物は、ファッションフォトグラファーのスティーヴン・セブリングである。ふたりのはじめての出会いは、1995年にさかのぼる。『スピン・マガジン』のポートレイト撮影のため、デトロイト郊外にあるパティの自宅を訪れたときのことだ。じつは当時、スティーヴンはパティの音楽を知らなかったという。
「アリゾナで育ったら、聴くのはスレイヤーとか、ヴァン・ヘイレン、メタリカみたいなメタル音楽だったんだよ」と苦笑するスティーヴン。撮影から数週間後にパティに招待された彼女のじつに16年ぶりのコンサートで、彼は大きな衝撃を受けた。
「デトロイトでのフォトセッションで僕が出会ったパティは、母性あふれる人物だったんだ。でもステージ上には、まったく別の人物がいた。おなじひとだとは思えなかったよ。完全に打ちのめされてしまったね。僕は魚のように彼女に釣られてしまい、彼女のフィルムを撮りたいっていう思いにとりつかれた。彼女とともに旅をし、彼女のことを理解したい。そして、フィルムを通して彼女のことをもっと学びたい、って……。それで彼女にオファーしてみたんだ。でも、はじめは笑って受け流されていたよ」
スティーヴンのなにが、笑って受け流していたパティの壁を取り崩し、一緒にドキュメンタリー映画というものを撮る気にさせたのだろうか? パティは当時のことを回想する。
「何回目かに、彼はこう言ったの。 『僕は、あなたの人生のすべてを撮る。あなたが、やることすべてを。アートワークや政治的活動、そしてあなたの子どもたち。でも、もしそのフィルムをあなたが気に入らなかったら、全部あげるから』って。それはとても勇敢なことだし、このひとなら信頼できると思ったわ。だから『Ok, やりましょう』と言ったのよ。それ以来、彼はわたしの弟みたいな存在ね」
信頼さえあれば、ハッピーな状況がうまれるものよ
パティを撮りつづけるという日々がはじまってからも、ふたりの良い関係はつづいた。
「彼は、私の行くところどこでもついて来て、ただただわたしを学ぼうとしていたわ。しかも、ひとりで。クルーも照明もなし。ただ、カメラを持っていつも私のそばにいただけ。それはとても人間的で、オーガニックな行為だなって思ったわ。私の子どもたちもスティーヴンのことが大好きで、彼はまるで私の“弟”のような存在になったし、何より本当に彼を信頼できるの。一緒に仕事をするひとを信頼できること、それはとっても大事なことだし、信頼しあえればいつだってハッピーな状況がうまれるものよ」
「信頼」――それは、完成した映画を観たパティの、こんな感想にもあらわれている。
「随所で、スティーヴンを思い出すの。あ、ココにスティーヴンがいた、とかココでカメラを落とした、とかってね。これはスティーヴンのポートレイトでもあり、彼のフィルムだと思っているわ。だから、自分がずーっと映っている、なんていう映画でも耐えられたのよ(笑)。わたしの家族、子どもや友達、みんなが自然体で映っている、とてもチャーミングな映画だと思うし、それがこの映画のすごいところじゃないかしら」
彼女はこの映画を観るたびに、今は亡き人びとを懐かしんだり、「こんなことも乗り超えてきたのね」と思いを馳せるのだという。そんな、登場人物みんなが自然体で映っている作品をつくることができた理由をスティーヴンはこう語る。
「そこには信頼関係があったからね。でも、それは一瞬にしてできたものではなかったよ」
終始口数の少ないスティーヴンだったが、世界中のどこへ行っても、独特なオーラをはなちながらも周囲に溶け込んでしまうパティについて「彼女はカメレオンだからね」とコメントしたり、ユーモラスな一面もみせてくれた。ユーモアのセンス、それもパティとスティーヴンを家族のような関係に導いた要因のひとつかもしれない。
アーティストとは、つねに勇気をもって動きつづけるだけ
パティの行くところはどこへでも着いていき、ひたすらカメラを回しつづけたスティーヴン。途中でお金も底をつき、借金はかさんでいったという。それは非常に過酷な状況に思えるが、彼は当時のことを軽やかに笑う。
「パティを撮ることに、ドラッグのようにお金を投資していたんだよ。このフィルムが映画になるとも思っていなかったし、だから“完成”とかそういう概念もなかったんだ。パティを撮りつづけること、とにかくそれが僕の本当にやりたいことで、ただただそれだけだった。ファッション関連の撮影の仕事でお金を作ることもできたから、まぁなんとかなったよ」
波乱に満ちたパティの人生にも貧しい時期はあった。
「私はあまり裕福な生まれじゃなくて、人生にもアップダウンがつきものだった。スティーヴンに出会ったときはわたしは大事な夫を亡くし、お金もなかったし、どん底だった。でも、わたしたちの祖先はもっと厳しい現実を生き抜いてきたのよね。それに比べて私には愛しい子どもたちがいて、健康なからだをもっていた、それで十分じゃない? だから、貧しい状況に対して嘆いたり怒ったりする必要なんてなかったの。アーティストってそういうものよ。貧しい時期があっても、受け入れなければいけないの。そして、つねに勇気をもって、動きつづけるだけ」
「trust」――インタビュー中に、なんどもふたりの口から出てきた言葉だ。ふたりの信頼関係があってこそ映し出されたパティ・スミスの真の姿が『パティ・スミス:ドリーム・オブ・ライフ』にはある。
『パティ・スミス:ドリーム・オブ・ライフ』
8月29日より、シアターN渋谷、シネマート新宿ほか全国順次公開
監督│スティーヴン・セブリング
制作│スティーヴン・セブリング、マーガレット・スミロフ、
スコット・フォーゲル
撮影│フィリップ・ハント、スティーヴン・セブリング
編集│アンジェロ・コラオ、リン・ポリト
出演|パティ・スミス、フリー(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)、マイケル・スタイプ(R.E.M.)、サム・シェパードほか
製作国│2008年アメリカ映画
上映時間│1時間49分
配給│トランスフォーマー
宣伝・配給協力|ザジフィルムズ
公式サイト
http://www.pattismith-movie.com/
Tokyo Hipsters Club×「パティ・スミス:ドリーム・オブ・ライフ」
コラボレーション写真展「Patti smith/scene of life」開催
スティーヴン・セブリング撮影の大判写真や写真家・富永よしえがNYや今回の来日中に撮影したパティ・スミスのプライベートショットなどを展示予定。
期間|9月4日(金)~9月27日(日)
場所|Tokyo Hipsters Club FREE SPACE
http://www.tokyohipstersclub.com/html/