島田明 Life is Edit. #20 イタリア・ソロメオ村で、幸運な再スタート
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2015年4月27日

島田明 Life is Edit. #20 イタリア・ソロメオ村で、幸運な再スタート

島田 明|Life is Edit.

#020 イタリア・ソロメオ村で、幸運な再スタート

ひとりのヒトとの出会いによって紡がれ、生まれるあたらしい“なにか”。
ひとつのモノによって惹きつけられ、生まれるあたらしい“なにか”。
編集者とは、まさにそんな“出会い”をつくるのが仕事。
そして人生とは、まさに編集そのもの。
──編集者、島田 明が、出会ったヒトやモノ、コトの感動を紹介します。

文=島田 明

~ソロメオ村、再訪。クチネリさんとの再会

ミラノからクルマを飛ばすこと約4時間。ペルージャの近くに位置するソロメオ村は、イタリアが偉大な農業国であること、ここが巨大な穀倉地帯であることを再発見させてくれる場所です。
じつは、ここを訪れるのは3回目。4年前、雑誌『LEON』に在籍していたときにはじめて訪れました。

その際、わたしが日本人ジャーナリストとしてはじめて現地取材をしたということで、非常に歓迎していただき、以来、クチネリさんとは仕事を超えて、友好な関係を築かせていただいています。

また、その渡航の際、尽力していただいた現ウールン商会の寺西敏夫さんとも、仕事を超えた師弟関係をつづけさせていただいています(今回も、寺西さんのお力添えあっての実現でした。この場を借りてお礼を申し上げます。ありがとうございました!)。

ゆえに、クチネリさんのいるソロメオ村には、人一倍、思い入れがあるのです。

そして、思い入れる理由がもうひとつ。
それは「ブルネロ クチネリ」というブランドのスロウで人間味溢れる魅力です。

『LEON』在籍当時、わたしはひとつの強い想いがありました。
それは、世に知られていないブランドを探し出し、多くの人びとに広く啓蒙することでした。
編集者として、そのサクセスストーリーを手伝うのが、最大限のエクスタシーであることは今も変わりません。

はじめて訪れたピッティ会場での黒山の人だかり、そしてラフながらも計算されたディスプレイ(興奮して写真を撮ろうとしたら怒られました・汗)、ベーシックながらも微かなモード的味わい、そしてなによりクチネリさんのカッコよさ。4年前の、あの興奮は、いまだに忘れられません。

トスカーナ地方の、とある街の路地にて

ゆえに、このブランドに触れ、クチネリさんに再会し、ソロメオ村に今また訪れると、編集者としての原点、自分はなにをしたいのか? といった自己原点に立ち返れるのです。

今回は、そんなソロメオ村周辺の自然の魅力を紹介しようと、イロイロと周囲を回ってみました。

夕暮れどきのソロメオ村を撮影しようと、カメラマンのマッシとコーディネーターのミナコちゃんとともに一面に広がる麦畑を前にカメラを構えて日暮れを待っていたら、光る大きな発行物体が!
そう蛍! イタリアにも、蛍はいたのです、しかも規格外の大きさの天然モノで(今の日本の蛍は養殖モノ。哀しい……)。

ソロメオ村にある一軒(たぶん一軒しかない)の雑貨屋さんには、大きなスイカが無造作に転がり、ミラノなどの都会では見たこともないような日用品(とくに歯磨き粉)が置かれていました。店のおばさんから「エスプレッソでも飲んでいけば?」と声をかけられたりして。
ちょっとノスタルジックな気分にさせてくれました。

なにか仕事、というより30年くらい前の、長野の親戚の家に遊びに行った、子どものころの、アノ夏の想い出……。
そんなフラッシュバック体験を、ソロメオ村はさせてくれました。

~島田雅彦さんと一緒に

そして、今回の旅には、特別な方に同行していただきました。
作家の島田雅彦さんです。

わたしが大学生1年生のときです。
おなじ苗字のひとが、おなじ大学生でありながら、いきなり処女作『優しいサヨクのための嬉遊曲』が芥川賞候補にあがり、当然のごとく、その存在が気になり、すぐさま本屋に行って買って読んだものの、自分と年齢では大差がないのにこの突出した才能はナンなんだ? と、歴然とした差を見せつけられ、ある意味、すがすがしい気持ちになったことを今でも覚えている、その、クチネリさん同様、こちらも私の思い入れたっぷりの(笑)島田雅彦さん、です。

いやー、本当に雅彦さんとの旅は楽しかったです。

雅彦さんのiPodに収められたオペラやクラシック音楽を聴きながらの(ときたま雅彦さんの解説付き)、ミラノからソロメオまでの長い車中は、その長さを感じさせないほど、気持ちいい時間でした。

雅彦さんの発案で、ミラノに帰る前に寄り道したトスカーナ地方。
ヨーロッパの農業が、こんなにも豊かで、人びとをあたたかく、心豊かにしてくれるのかを、教えてくれたのも、雅彦さんでした。

おいししいものを食べることは楽しい。
男同士の、気の合う仲間の集まりが一番楽しい。
そして知的であることは楽しい。

知的であること、の豊かさ、気持ちよさを、26年前の、あの青二才の自分に教えてくれたように、今回も雅彦さんから学んだ気がします。

邸宅、という言葉がピッタリのクチネリ宅にて

そんな雅彦さんがソロメオ村を訪ねて書き下ろした特別寄稿の「ブルネロ クチネリ」論と、
わたし自身の数度にわたる現地取材を通じて感じてきた「ブルネロ クチネリ」の素晴らしさ、魅力にかんしては、8月24日発売の雑誌『UOMO』10月号の別冊でチェックできます。

是非とも、ご一読ください。

──そんなわけで、編集者として最高の再スタートを切らせていただいた、わたし。
ああやっぱり、編集者って楽しいな、と改めて思った、今回のソロメオ村への旅でした。

           
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