吉田眞紀|第53回 「住」にまつわる話_本の魅力編
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2015年5月11日

吉田眞紀|第53回 「住」にまつわる話_本の魅力編

第53回 「住」にまつわる話_本の魅力編

たとえ飛行機の重量超過料金を払うことになろうと、腕がちぎれそうな思いで電車に乗ることになろうと「これはいいな!」と思ったら、そうそう我慢できないのが“本を買うこと”です。本との出会いは瞬間のインスピレーション。偶然のなかにも必然が存在している気がしてなりません。

語り=吉田眞紀まとめ=戸川ふゆきPhoto by Jamandfix

世界中どこへ行っても欠かせない本屋めぐり

たとえばリングをデザインするとき、ほかのリングはまったく見ないでつくる ── ということを、以前にもこのコラムで書きました。僕の場合、デザインのアイディアソースになるのは、つくるモノとはまったく関係のないジャンルのモノ。たとえば、かつて見た映画のワンシーンや、本の1ページなどです。いろいろなジャンルの本を眺めていると、それらの刺激が自然と脳裏に焼きつき、ずいぶん経ってからひとつのアイディアとなって出現するわけです。

なかでも手に取ることが多いのが、情報量も豊富でクオリティも高い洋書の写真集。選ぶジャンルはじつにさまざまで、美しい風景の写真集もあれば、人物のポートレイトもあり、またモノが好きなので、古い車や飛行機、ナイフの写真集なども気に入って数多くもっています。

日本にいても海外へ出かけても、「今日は本屋めぐりをする日」を僕は必ずつくります。というより、無理につくらなくても、自然と本屋に足が向いてしまうのですが(笑)。

それでいて、「やった! すごい本を見つけた!」と小躍りして手に入れた本でも、一度端から端まで目を通したら数年は開かない……。なんてことも多いのです。
しばらく経ってから、「あれ? あんな本、もってたよな~。」と思い出して、積み上げられた資料のなかからその一冊を見つけ出し、またパラパラとめくる。
本と僕とのつきあいには、つかず離れず、しかしつねに存在を身近に感じる心地のよい距離感が存在します。

美しい本の誘惑に勝つことは難しい

こんなこともありました。あるとき、飲みに行く途中に時間があったので、つい神田神保町の古本屋に寄り、そこで特大の「エッフェル塔」の本を見つけてしまいました。この本には、エッフェル塔の手描きの設計図から、ひとつひとつのネジのデザインにいたるまでが、じつに細密に描かれています。コンピューターなど存在しなかった時代に、あれほど美しく巨大な建造物が、どのようにして人の手で造られたかが、当時の写真とともに詳しく記されており、記録としても大変貴重なものです。

内容の素晴らしさもさることながら、本のデザインも精細で美しく、見つけたときは、もう発狂しかねないほどの興奮を覚えました。そして気がつけば、この何キロもある重たい本を、僕は脇に抱えて歩いていたのです(笑)。
飲みに行くのに、わざわざ手ぶらで出かけたはずなのに! しかもこの本はサイズも特大で、家の本棚のどこにも入りません(笑)。そのため、本棚の前に立てかけて置くのが定位置となってしまいました。
また、大好きな飛行機「コンコルド」の本は、手に入れたのはよいけれど大きすぎて本棚に入らず、その一冊のためだけに棚板を一段はずしました。
こうして確実に家中のスペースを浸食していく、本の理不尽さに日々翻弄されながらも、本屋通いは懲りずにつづけています。
わかっちゃいるけどやめられない ── 本屋は僕にとってのワンダーランドです。

           
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