吉田眞紀 第52回 「衣」にまつわる話_花のかたち編
Lounge
2015年5月11日

吉田眞紀 第52回 「衣」にまつわる話_花のかたち編

第52回 「衣」にまつわる話_花のかたち編

春から初夏にかけては、花屋の店頭が一気にはなやぐ季節ですね。とくに贈るあてがなくても、つい買ってみたくなるものです。殺風景な部屋も花が一輪あるだけで、空気が澄んでいるような気がする……。
花にはそんな不思議な力があります。

語り=吉田眞紀まとめ=戸川ふゆきPhoto by Jamandfix

すらっとした造形と、はかなさが美しい

とても個人的な話になりますが、僕は鉢植えの花があまり好みではなく、なかでも蘭の花がどうも苦手です。蘭は高貴な花のひとつとされ、愛好者も多く世界中で珍重されていますが、なにか自己主張が強すぎて、部屋にあっても和むことができません。そのフォルムもどこか人間っぽく、こちらが見ているのではなく、蘭の方からじっと見られているような気がしてしまい、どうしても食虫植物を連想させてしまいます。

僕の花の好みは、蘭のように大げさなものではなく、かといってかわいらしすぎる小花でもなく、どちらかというと「カッコイイ」感じがする、すらっとして造形のはっきりとしたものです。具体的にいうとチューリップやユリなどでしょうか。

また、花はその「はかなさ」が大いなる魅力で、瞬間的な美しさがひとを強く惹きつけます。もし美しさがずっとつづけば、花はたちまち人工的な匂いをまとい(もちろん、人間のつごうでさまざまに改良されたものではありますが)、うっとうしささえ感じます。その最たるものが、蘭なのかもしれません。

花の趣味というのは、男性にとってどこか女性の趣味にも通じる、本質的な「好み」が反映されるのではないでしょうか。もちろんこれは私的な見解ですが(笑)。

装いにも、フォルムの美しい花を

第52回 「衣」にまつわる話_花のかたち編

紺のジャケットにフラワーポット

装いのなかでも、なんとか生の花を身につけられないかと思って、かつてつくったのが、写真の「フラワーポット」です。これは、ジャケットのラペルホールにピンのパーツを差し込み、短く切った生の花をポットに固定します。小さいながらも胸もとに主張が生まれ、着こなしのポイントとなります。

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麻のジャケットにフラワーラペルピン(くちなし)

これにならい、カフリンクスも生の花でつくれないものかと試行錯誤しましたが、シャツの袖口はどうしてもジャケットの袖口と擦れるので、なかなかうまくいきません。そんなときに、生の花に樹脂コーティングをした作品を発表していた作家とめぐりあい、彼の協力を仰いで誕生したのが、紅いバラの「フラワーカフリンクス」(ページのトップ写真)と、白いくちなしの「フラワーラペルピン」です。

花は枯れていくのが、あくまで本来の姿なわけですが、この技術によって、生の花そのままのくっきりとしたフォルムを、いつでも装いにプラスできるようになりました。

一輪の小さな紅いバラを、袖口からそっとのぞかせる──時にはそんな着こなしも、「大人の男の洒落」と楽しんでいただけたらと思います。

           
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