島田明 Life is Edit. #19 パトリック・コックスと、新しい旅へ
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2015年4月27日

島田明 Life is Edit. #19 パトリック・コックスと、新しい旅へ

島田 明|Life is Edit.

#019 パトリック・コックスと、新しい旅へ

ひとりのヒトとの出会いによって紡がれ、生まれるあたらしい“なにか”。
ひとつのモノによって惹きつけられ、生まれるあたらしい“なにか”。
編集者とは、まさにそんな“出会い”をつくるのが仕事。
そして人生とは、まさに編集そのもの。
──編集者、島田 明が、出会ったヒトやモノ、コトの感動を紹介します。

文=島田 明

つい先日、ロンドンに2泊4日の強行軍で、デザイナーであるパトリック・コックス氏に会いに行ってきました。
彼の新しいプロジェクトに関するミーティングが主たる目的でしたが、彼の家を実際訪れ、彼がつくりだす私的空間、彼の靴やバッグなどの偉大なアーカイブ、そして彼のあたたかな人柄に触れることができ、また多くのことを学んで帰ってきました。
今回は、そんなショートトリップで得た、未来に向けての、ちょっと夢のあるお話を……。

~パトリック・コックス氏との馴れ初め~

パトリック・コックス自身とはじめて出会ったのは、昨年の秋。
彼のジュエリーを手がけるヴァンドーム青山が主催したパーティ会場でのことでした。
じつは、オウプナーズでも取り上げられている加藤博照クンのブランド「nineSiXty」とパトリックのコラボレーションラインである「nineSIXty LUXES×PATRICK COX」はわたしが発起人でして、いわば“仲人”みたいなものなのです。

その打ち合わせを兼ねて来日したときから、おなじ歳(1963年生まれ)ということもあり意気投合。
今年の3月の再来日の際には、ふたりで東京クルーズしたり、帰国後はメールにて情報交換したり、と交流を重ねていました。そんな彼から「AKIと仕事がしたい」という、非常にありがたいラブコールをいただき、BLBGの田窪さんの仲立ちで、彼との仕事、パトリック・コックスのすべてのアイテムにおけるコンサルティングの仕事がスタートすることと相成ったのでした。

東京で会った際、その業務を受ける前に、わたしは彼に直接、リクエストを出していました。
それは「僕は君の素晴らしい作品である靴は昔からよく知っているけど、もう一度、君の靴のアーカイブを改めて直接見て確認したい。そして、君がどういう家で、どういったインテリアに囲まれ、どう生活しているかを知りたいんだ」といったものでした。
偉大な功績、とくに靴づくりにおいては一世を風靡した彼ですが、いまの彼が知りたい。
それをわたし自身が知ることで、彼との新しい次のアイデアが生まれる、そう思ったからです。

とパトリックに偉そうに言ったものの(笑)、ありがたいことに毎日、さまざまな仕事に追われ、スケジュール調整もままならず(汗)、渡英したスタッフのなかで、わたしだけ今回の強行軍、と相成ったワケでありました。

~センスはディテールに(こそ)表れる~

パトリック本人からは、彼の家のインテリアのコンセプトは
“グレコローマンスタイルとモダンのミックス”的なことを事前に聞いてはいました。

わたし自身、インテリアにもファッション同様、強いこだわりがあります。
わたしの場合、モダンとアールデコのミックススタイルがコンセプトでありますが、これは案外ミックスしやすいスタイルなんです。
なぜなら、そこに共通したデザインのルーツというか、ディテールがあるから。
しかし、パトリックの言う、ミックススタイル、古代ローマの彫刻やレリーフとモダン、いったい全体どうやって合わせるんだ? とわたしのなかでは、なかなか消化しきれませんでした。
そういった例を、過去、見たことがなかったのです。

しかし、彼の家の玄関を跨(また)いだ瞬間、その計算されたバランスに、わたしは圧倒されました。

1階の壁には大小さまざまな黄金の鏡が飾られ、その対面の暖炉上にはダミアン・ハースト「AUROTHIOGLUCOSE」、おびただしい数のエルトン・ジョンやエリザベス女王など多くのセレブリティとの写真。

机にはガラスの犬の置物があったので「これって、ジェフ・クーンツ?」と聞いたら、
パトリック曰く「これは、ガレス・ピューの作品。なかなかいいでしょ?」と得意顔(笑)。
さすがは目利き、新進デザイナーのアートな作品もしっかり押えているところあたり、単なる有名作家モノ好きなアートラバーとは一線を画しています。

聞けば、どれもが、ガレスとおなじように、まだ有名になるちょっと前に購入したそう。
そういったフラットな視線に、わたし自身、非常に共感を覚えたのでありました。

地下のダイニングに降りる階段は、この建物に残された古い手摺(すり)だけをそのまま使い、柱をすべてクリアにするといった、じつにニクイ演出もなされています。

地下には長いテーブルが鎮座し、壁にはダークな調度品に合わせ、ドラマティックにライティングされた古代ローマのレリーフが。

2階に上がれば、大きな泥だらけの地面の写真がメインの壁を飾っていました。
パトリックは、この写真を見ながら「単なる泥だらけの地面に見えるかもしれないけど、このクルマが通った跡を見てよ。ねっ、ユニオンジャックに見えるでしょ?」
と、子どものような笑顔で教えてくれました。

センスがいい。
それもひととはちがう、高度でオリジナルのセンスがある。
私は、ただただ、彼の趣味のよさに感心しきりでした。

と同時に、彼の、このセンスのよさは、新しいモノづくりへの、大きな大きな可能性をわたしに示唆してくれました。
彼が新たに生み出すモノへの期待感、それが確信へとわたしのなかで変わったのです。

~新しい旅の期待と興奮を胸に~

というわけで、パトリック・コックスとの新しい創造への旅がはじまりました。
どんな素敵なモノを一緒に生み出していくのか、いまからワクワクしています。
と同時に、わたしのモノづくりの中核をなす雑誌づくりにも、新しい旅がはじまります。
雑誌『UOMO』での編集者としての再スタートです。

すでに休刊となってしまった『エスクァイア日本版』では、わずか2号でしたが、非常に有意義で楽しい時間を過ごすことができました。
最後のお別れパーティの席上、私がファッションディレクターとして編集部にいたことを知らなかった方にも数名お会いしました。わたしとしても皆さんに移籍の報告を直接してご挨拶に回りたかったのですが、移籍直前の休刊騒ぎで、編集部はそれどころではなかった、というのが実情でした。その節は、本当に失礼いたしました。

6月号の「11人のスタイリスト」、そして最終号である「LOVE」。
いずれも、私なりに納得のいく仕上がりとなりになったのと同時に、わたしのなかで閉っていた、雑誌での創造の箱のひとつを、開けることができました。

この場を借りて、エスクァイアに関わった、すべてのスタッフの方々にお礼を言います。
「本当にありがとうございました」

そして、同時に、皆に、そして自分自身にエールを送ります。

「いい仕事をしましょう、諦めずに。そうすれば、きっと次に繋がります。
そして、いつかまた、一緒に仕事をしましょう。それまでお互い頑張りましょう」

           
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