ピーター・バラカン×中野香織「21世紀のダンディズム」を語る(第3回)
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2015年5月11日

ピーター・バラカン×中野香織「21世紀のダンディズム」を語る(第3回)

中野香織『ダンディズムの系譜 男が憧れた男たち』発刊記念

ピーター・バラカンさんと21世紀のダンディズムを語る(全4回)

第3回 イギリスと日本のメディア比較

『ダンディズムの系譜 男が憧れた男たち』(新潮選書)の発刊を記念して、ピーター・バラカンさんをお招きしての“ダンディズム対談”。
第3回は、イギリスのタブロイド紙などと日本のメディアの比較を語ります。

文=中野香織Photo by Jamandfix撮影協力=レ・コントアール・ド・ラ・トゥールダルジャン

タブーありすぎの日本、自制心なさすぎのイギリス

中野 イギリスの次世代のダンディ候補として、王室の若い王子たちの顔も思い浮かぶんですけど、彼らの評判はどうですか? とくにハリー王子。タブロイドにしょっちゅうひどい写真が載ってますけど……。

バラカン タブロイドもね、しょうがないんです(笑)。この前も水泳のマイケル・フェルプスがターゲットにされていました。外国の彼のガールフレンドのところでマリファナを吸っている写真をタブロイドが買ってね。かわいそうに。あれくらい、無視してあげればよかった。

中野 有名であればあるほど格好の餌食にされますね。

バラカン 昔っからタブロイドは、サイテーなんですよ(笑)。無名なひとをもちあげて、有名になったらたたきつぶす。

中野 情けのかけらもありませんものね。名のあるひとは、けなされるか、からかわれるか。あれも嫉妬がなせるわざでしょうか。日本の週刊誌にも似たような体質はありますが。

バラカン おなじような島国根性なのかな。でも日本にはタブーはあるけど、イギリスにはタブーはない。

中野 王室がもう格好の標的ですもんね。日本ではまだ王室のスキャンダルはややアンタッチャブルなところがある。

バラカン 日本はタブーがありすぎ! ほんとうの意味での言論の自由が存在しない。言っちゃいけないことが多すぎる。少なくとも電波媒体では。

中野 たとえばどんな?

ピーター・バラカンさん

バラカン この前の、若い力士たちの大麻事件のときにしても。NHKの番組だったんですけど、リスナーから「リーガライズ・イット(合法化しろ)」という曲のリクエストがきて、かけようとしたんです。
もちろん大麻を容認しているわけじゃまったくないんだけど、みんな過剰反応になってて、おかしくない? ということを言いたかった。
でもダメでした。プロデューサーは少しでも大麻を容認していると思われたら、クビになる。BBCではぜったいそういうことはないんだけどね。ある程度の規制はあるけど。

中野 ああ、たしかにそういうときの日本人はぴりぴり過剰反応しますね。それこそ「空気を読め!」の世界。少しでもその空気に逆らうようなことをすればものすごいバッシングにあいますから、触れないにこしたことはないんです。そういうときは、言論の自主規制がはたらく。

バラカン とにかくタブーが多いです、日本は。イギリスはそういう意味では健全。でも、イギリスのメディアもどこかで自主規制がある程度なければ、ダメですね。タブロイドは自制心のかけらもない。そこがいけないね。

中野 でもそれをおもしろがる国民でもあるでしょう? イギリス人は。

バラカン たしかに部数を比較してみると、圧倒的にタブロイドが売れてます。でもあれは新聞じゃない。ヒマつぶし(笑)。

中野 モラルなしに爆走しているような点では、ダンディズムのかけらもないですね。基本的に労働者が読むものなんですか?

バラカン いや、どうだろう。今ではそうでもないんだよ。驚いたんだけど、うちの母がデイリー・メイルを読んでいて。母はどうしてこんなもの読むんだろう、と(笑)。

中野 私も電子版、ときどき読みますよ(笑)。ゴシップばっかりだったりしますが、人間の虚栄心がいきつくところを見せてくれませんか? セレブがタブロイドに載るために「もっともっと」とすごい方向に走ったりして。

バラカン セレブを生き方の見本みたいに見てしまうのは、まちがってるね。こきおろすのは健全だけど。でもこきおろしつつ、こだわっているんだよね。

中野 無視すればいいんですけど、無視はしない(笑)。セレブにとっては、無名よりも悪名がとどろくほうがはるかにマシ、なんですよね。オスカー・ワイルドも言ってるとおり。だからネタになる行動がますます過激になっていく。

イギリスのユーモアは、日本人には理解困難

バラカン イギリスにいらしたのはいつぐらい? 90年代なら「スピッティング・イメージ(Spitting Image)」というテレビ番組があったの、ご存知ですか?

中野 いえ、見てませんでした。

バラカン 人形を使った風刺のコメディ番組です。サッチャーの人形とか女王の人形とかつくって、どぎつくこきおろすような番組だったんですけど、そういうのが人気なんです、イギリスでは。だいたい、イギリスのユーモアって、いじわるですからね。

中野 毒が入ってますよね(笑)。

バラカン 日本人には、ぜったいわからない(笑)。イギリスのコメディ番組が日本で成功することは、ありえないですよ。

中野 「モンティ・パイソン」好きなひとは多いですよ。

バラカン 好きだと言っているひとでも、どこまで理解しているか、ビミョウですね(笑)。

中野 ばかばかしくてアナーキーなあたりが……。

中野香織さん

バラカン たぶん、そんな雰囲気が好きなんでしょうね。毒々しいユーモアまではたぶん理解しにくいと思いますよ。

中野 たとえ理解できたとしても、それで笑えるかとなると、きっとイギリス人のようには笑えないんでしょうねえ。

ピーター・バラカンさんと21世紀のダンディズムを語る(全4回)
最終回 21世紀のダンディズム――ロマンティックな個人主義
につづく

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撮影協力|
レ・コントアール・ド・ラ・トゥールダルジャン
Tel. 03-5428-4591
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