戸田恵子|ミュージカル『ザ・ヒットパレード』開幕直前です!!
戸田恵子|ミュージカル『ザ・ヒットパレード』開幕直前です!!
山田太一ドラマ、という初体験のスリルと興奮を味わったのも束の間、戸田さんのシフトは早くも舞台モードへ。
しかも、自ら「苦手……」と語る再演ですが、懐かしいヒット曲満載のミュージカル『ザ・ヒットパレード』に取り組んでいます。その格闘の日々、開幕直前の想いに迫ります。
まとめ=尾上そら
苦手の二文字とガッツリ格闘中!
『ザ・ヒットパレード』再演、稽古はいよいよ佳境に入っております。稽古初日に私が発した言葉は「Time is Money」=「時は金なり」。2月はただでさえ1bヵ月が短いし、前回お話した『ありふれた奇跡』の収録も重なっていたため、苦手な「再演」に取り組むためには、本当に時間が足りないと思っているんです。そう、私はとても“再演”に苦手意識がある。
自分を分析するに、それはメンタル面の弱さに原因があるように思います。ついついおなじドツボにハマってしまうんですよね。そして、自分で自分に疲れてしまう。
でも日常をふくめ、瑣末な問題をいろいろ抱えながら、芸術や創造に向かうのは、誰でもおなじこと。その点で、私はまだまだ精神的にセミプロだな、と反省しきりなのです。プロはどんな精神状況でも、必要ならば「100%明るい芝居ができます!」と言えないといけませんからね。動揺している場合じゃないんです(笑)。
最近でいえば、永井 愛さん作・演出の二兎社公演『歌わせたい男たち』の再演ツアーが、苦手に直面した場でした。でも、結果としては共演の皆さんにも助けていただき、素晴らしい経験ができた。永井さんはやっぱりスゴイ! と感激するほど、私にとって成果の大きな作品になりました。
だから、後ろ向きになってはいけないと、自分を叱咤激励しながら稽古を重ねる毎日。お姉さんは闘っているのデス(笑)。
とくにこの作品は、今の私にも重なる、職業としてたくさんの方々に娯楽やエンターテインメントを届けようと頑張った、渡辺 晋さん・美佐さんご夫妻をモデルにしたもの。だからこそ、気持ちのうえでもおふたりが歩んだように、つねに高みをめざして前進していかなければいけないんです。目の前に壁があれば、果敢によじ登る。でもつい、「これ、本当に登れている?」と不安になり、足もとに目を落としてしまう。日々、そんな繰り返しです。
ジワジワ染み込む「栄養」を蓄えるために
でも、そんな繊細な作業こそが、再演には必要なことだとも思っていて。よく「再演だからパワーアップします!」というような発言がありますよね? もちろん、ひとそれぞれの感じ方や考え方があっていいと思うのですが、私にはむしろ、再演にトライするときは勢いやパワーを増強するより、こまやかに作品の細部を点検することが大切なのではないかと思えるのです。
初演はどうしたって初々しいし、とにかく幕を開けようという勢い、キラキラするような輝きに満ちている。でも、回を重ねたからこそ見える作品の魅力、それを伝えるためのシンプルでダイレクトな表現が必ずあるはず。
それを見つけだし、具体化することはとても神経を使う作業ですし、精神的にも肉体的にも自分を追い込んでいかなければできません。むしろゼロからつくるより、遥かに高いハードルでしょう。でもひとつの作品を再演するということは、そのハードルを越えることだと私は思うのです。
たとえばこの作品はミュージカルですが、歌はもちろん、ひとつひとつの場面のシチュエーションを、ストレートプレイとおなじぐらいの気持ちで紡いでいけたら、さらに大きな感動を客席まで届けられるのではないでしょうか?
また、劇中には誰もが耳にしたことのある昭和の大ヒット曲がちりばめられていますが、それとおなじくらい素敵な、宮川彬良さんのオリジナル曲もたくさんある。ヒット曲の力は大きなものですが、そこに寄りかからず、オリジナル曲とのつながりをより深め、お互いを引き立てあうように歌えたら、ミュージカルとしての魅力は自ずと倍増するはず。
初演とちがうように、とは考えていませんが、気づいたところには果敢にトライしていきたい。それが私の再演へのスタンスです。見た目に大きな変化はないかも知れないけど、「おなじ台詞なのに初演より、もっと耳に入ってきた」「シンプルだけど力強く感じた」などというように感じていただけたらとてもうれしいし、それが目標でもあります。そのためにできることは、すべて力を尽くしたい。パートナーである原田泰造さんとも、作品や役の根本から話し合ったりしているのです。
私はどうも狩人的性質のようで、放っておくと新作を生み出すときの、作品を“ガブッ”とくわえる醍醐味に魅せられがちなのですが(笑)、今回のように機会をいただき、再演に挑戦するということは、より深くジワジワと身に染みていくタイプの栄養を自分自身に蓄えることになる、血肉になることだと思います。
今はとても苦しいけれど、幕が開けばきっと素晴らしく充実した時間が開かれると信じて、最後の追い込みにまい進します。 劇場では、皆さんを晴れやかにお迎えしますからね!!