Life is Edit. #013 ~仕事場を見れば作品がわかる~
Lounge
2015年4月27日

Life is Edit. #013 ~仕事場を見れば作品がわかる~

島田 明|Life is Edit.

#013 仕事場を見れば作品がわかる

ひとりのヒトとの出会いによって紡がれ、生まれるあたらしい“なにか”。
ひとつのモノによって惹きつけられ、生まれるあたらしい“なにか”。
編集者とは、まさにそんな“出会い”をつくるのが仕事。
そして人生とは、まさに編集そのもの。
──編集者、島田 明が、出会ったヒトやモノ、コトの感動を紹介します。

文=島田 明

たった500名にも満たない、世界中から集まったジャーナリストやバイヤーたちを一同にあつめ、デザイナーが約半年間、七転八倒、悶絶し抜いた結果が、世界に先駆けお披露目される晴れ舞台でもあり、残酷な結果にも、至福の瞬間にもなりうる戦場=ランウエイ。その現場に居合わせる幸福を感じながらも、同時に、その裏側、彼らの真の部分を知りたくなる欲求は回を増すごとにたかまるばかり。
今回は、そんなコレクションや展示会をおえた、バックヤード、その仕事場にお邪魔してアレコレと自分なりにかんがえてみたことを。

「ジュリアーノ フジワラ」が生まれるミニマルな空間

ミラノコレクションの本番が終わって数日後、わたしはジュリアーノ フジワラのデザインオフィイスを訪ねました。デザイナーの松村正大クンとはすでに東京でご飯など一緒にしていたので気心知れた間柄。まだ20代ということもあり、どうも後輩、というか弟のように接してしまう、わたしではあります(笑)。そうさせるのも、彼自身が、いろんなことから学びたい! という真摯な姿勢の人であり、とびきり自然体ゆえ。こういう人には、わたし、イロイロと世話したくなっちゃうんですよね。で、デザインオフィスは、そんな彼の人柄を表わすような、機能的で飾り気のないファクトリーの様相。
本人も、一日の大半はここで過ごす、というだけあって、ドーム型の天窓から入ってくる自然光が部屋全体に流れる音楽と相まって、心地よい空間を創り出していました。

天井が高いからか、大きなテーブルを囲んでのスタッフのみなさんとの談笑も、どこか美術館のカフェで話しているような、いい反響音に。時間が経つのも忘れてしまう、そんなモノづくりに集中できる、すてきなオフィスでした。ミニマルな服は、やっぱり、こういう場所から生まれてくるんだな、と実感。

その後、ミラノでは出不精、という松村クンを連れ出し、わたしの知り合いの日本料理『友よし』で3代目の逸見さんと大いに盛り上がり、その勢いで、大尊敬している雑誌『MONOCLE』の編集長(ウォールペーパーを創刊した人!)であるタイラー・ブリュレさんや編集のタケちゃん、メンズビギの坂田クン、スタイリストの小沢クンなどが集うバーに連れてゆき、またそこでも深夜まで大盛り上がり!
と、深~い夜を松村クンと分かち合ったのでした。

何やらPCでチェックしている松村クン。コレクションのフィナーレでもシャイな印象ですが、話すと結構熱いお人柄。今後はファッションだけでなく家具や、音楽などトータルに生活をデザインしていきたいそう。

ビックリ玉手箱、な「エトロ」の館

ミラノコレクション中、必ず立ち寄り、ご飯やお茶を一緒にするのがキーンの仕事場、エトロ本社です。
今回は、エトロのショウがミラノの最終日ということもあり、展示会も重なって、かなりタイトスケジュール。ですが、そこは親友キーン。しっかり、昼をはさんで、社内の食堂でしっかりランチする時間を工面してくれました。そこでは、いつものように、まったくファッションの話はなく、最近見た絵画や音楽などの四方山話に花が咲きました。ただひとつだけ、わたしが手掛ける来年創刊の新雑誌『ENZO(エンツォ)』の件を話すと、キーンはわたしの肩を抱きながら「俺たちは仲間だ。世の中を変える仲間だ。俺は俺の才能を信じている。またお前の才能も信じている。だからAKI、自分を信じろ。自分の才能を信じるんだ」と強く強くわたしを勇気づけてくれました。うぅぅぅぅ、感激。

そんな感涙のわたしを引きづるように(笑)、キーンは彼のデザイン工房を案内してくれました。
そこは自然光が降り注ぐサンルームのよう。壁一面には次のシーズンの秋冬のスワッチやデザイン画が何層にも張られていました。前日に09年春夏が終わった途端、もう次のシーズンの準備に突入している、その終わりなきファッション戦争を垣間見ましたが、無造作に積み上げられた生地見本は、どこかアートっぽく余裕を感じさせたりして。
ファッションというよりアーティストの巨大なアトリエといった感じでして、そのスワッチの山を見ながら、キーンは「そうさ、これは我々のアートさ。僕らのアートは、こうして楽しみながらアイデアを出し合いながら生まれてくる。だからエトロではね、ショウの音楽から演出、広告ビジュアル、そのすべてを、この会社内のスタッフ全員でやるんだよ。外注に出すような分業化が進んでいる会社がほとんどだから、稀だろうなあ、ウチみたいな会社は。だからこそ、チームワークが大事なんだよ、仕事も人生も楽しもう!というチームワークがね」

エトロのオフィスに来るたび長居したくなるのは、わたしにとって、ここが一番リラックスできる場所だから。
それはキーンと、そのスタッフ全員の家族愛にあふれた場所であるからなのです。

まるで迷路のようなエトロ社を、泳ぐように案内してくれたキーン。
スワッチが広げられ乱雑そうに見える机ですが、ちゃんとキーンはどこに何があるか把握してました。記憶力もバツグン!

アイデアが散乱する「ベル&ロス」の教授(?)部屋

ミラノからパリに移動して、1年ぶりにサントノーレ通りにある「ベル&ロス」本社を訪ねました。
夕方6時ちかくだったので、スタッフはそそくさと帰宅するなか、友人ブルーノ・ベラミッシュだけはちゃんと待っていてくれました(笑)。さすがはブルーノ、かれこれ10年の付き合いからか、小奇麗なショウルームより彼の雑然とした部屋の方がわたし自身落ち着くことを知っているようでして、「ぼくの部屋で話そうか」とすぐに言ってくれました(笑)。

彼の頭のなかのアイデアをひっくり返したような、そんな表現がピッタリな彼の部屋にはミリタリーのヘルメットや計器、軍やデザイン、建築の参考文献や写真集などが本棚から溢れてアチコチに散らばっていて。積み重ねられた本の間からナニやら無造作に引っ張り出してくるや「あっ、コレ。次の時計のプロトタイプね。どう思う、AKI?」なんて(笑)。こういうラフな感じも、相変わらずブルーノ流でした。

彼は、ここで新作時計のアイデアを練るそうですが、その有り様は、大学教授の研究室かおもちゃ部屋、とでもいいましょうか。いろんな場所から、いろんなモノが飛び出してきて、もう奇想天外なマジシャン状態(笑)。あの斬新な時計は、こんな予測不能な場所から生まれてくるんだあ、と妙に納得でした。

PCに向って仕事しはじめるブルーノは、まるでインテリな大学教授風?
一緒に行ったリカー、ウーマン アンド ティアーズの小木基史クンが帽子を棚から見つけておねだりしたらお土産にくれました。結構、いつも太っ腹なブルーノです。

笑顔が絶えない「ロエベ」のショウルーム

約2週間のヨーロッパの旅。その最後を飾ったのが、スペイン・マドリッドでした。
スペインを代表するブランド、ロエベのプロダクトデザイナーと打ち合わせが今回の目的でしたが、何よりわたしにとって初のスペイン訪問。今回はまったく前情報なしに乗りこみ、ニュートラルな状態でスペインを感じたい、と思った次第。で、わたくし、不覚にも予想外の大感激! まず人がやさしい。空港スタッフやホテルの従業員、会う人会う人「オラ!」で始まる挨拶も、どこか牧歌的。パリやミラノにない、素朴な感じです。
また食事も抜群に美味い! 今回、ロエベの平塚嬢のはからいで現地のコーディネーター守屋さんと一緒に食事をしたのですが、すべてがじつに美味い! 太陽をしっかり感じる味とでもいいましょうか、肉にしろ野菜にしろ、しっかり自我を主張している。これが見事でした。

そんな感激の昼食後、訪れたロエベ本社では、プロダクトデザイナーであるペペさんが笑顔でわたしをむかえてくれました。今回はショウルームでの打ち合わせでしたが「僕は独りこもってデザインするより、みんなとこうやってアレコレ打ち合わせするのが好きだから(笑)」といたってオープン。これもスペイン風、とでもいいましょうか、デザイナー、プレスの垣根を越え、ああだこうだ、と皆で意見を出し合って。非常にリラックスした時間をわたし自身も一緒に過ごすことができました。

前日はヨーロッパカップでスペインが優勝した記念すべき日。その翌日ということもあり街中が若干お疲れムードでしたが、そのゆる~い感じが、私の若干疲れ気味なゆる~い気分にマッチしたのは間違いありません(笑)。

上司部下関係なく、活発な議論が繰り広げられるのは、スペインのお国柄か、それともロエベの社風か。サッカーもファッションもチームワークが大事と、しみじみ感じたわたし。

旅での出会いがアイデアを生みつづける

今回の旅では、本当に得るものが多かったわたしです。
ショウや展示会を見るだけでなく、その裏側にまわって、彼らと直接話して得た経験と知恵。

憧れの編集者である『MONOCLE』のタイラー・ブリュレさんと深夜遅くまで語りあったこと、
ショウの待ち時間に『VOGUE』の斉藤和弘さんがお話してくれた編集者としての面白さ、
キーン・エトロがわたしを勇気づけてくれた、数々のことば。

それらの出会いと言葉は確実にわたしのなかで結実しています。
それは編集者ほど面白い仕事はない、ということ。
そして自分の才能を信じて、雑誌を作ることが大事、だと。

すでに、このオウプナーズのなかでもご紹介しましたが、2009年3月10日、ひとつの雑誌の創刊を手掛けます。
新雑誌『ENZO(エンツォ)』です。
コンセプトは "NO SENCE, NO SUCCESS(センスなくして成功なし)"。

センスがよくなれば、いろんな場面、いろんな世界で幸せになれる、成功できる。
そんな幸せに直結するセンス向上に役立つ雑誌をわかりやすく丁寧につくっていきたい、と思っています。

とにもかくにも今回の旅を通じての出会いは、わたし自身が結果、勇気づけられました。
編集者としての喜びを再認識した旅でもあった。新雑誌に向けて、なお一層の力を得た旅でもありました。
出会った人々に、ただただ感謝、感謝のわたし。
そして、このご恩はぜひとも『ENZO』にてお返ししたいな、と思っております。

こちらは新雑誌『ENZO』のタブロイド版。広告代理店さんやクライアントさん用に号外用としてつくったモノです。イメージは"ウォホール VS バスキア 対決の図"からインスパイアされて、の"EWAN VS ジローラモ 対決の図"。
男は闘わないと、とわたしなりのメッセージを込めて!

           
Photo Gallery