ロニ・ホーン写真展『This is Me, This is You』(その1)
第33回 ロニ・ホーン写真展
『This is Me, This is You』(その1)
ニューヨークを拠点に活躍する現代美術作家ロニ・ホーン。ラットホールギャラリーでは6月20日~8月10日(日)の日程で、彼女の日本における初の個展『This is Me, This is You』を開催しています。
彼女のことをあえて“現代美術作家”と呼んだのは、その表現が写真だけにとどまらず、立体作品やドローイング、インスタレーション、テキストと、非常に多岐にわたっているからです。実際、彼女のキャリアは、ミニマリズムに影響を受けたコンセプチュアルな立体作品からはじまっています。また今回の個展も表現手法そのものは写真ですが、そこには、かねてから「言葉を通じてヴィジュアルにたどり着く」と語る彼女にしか表現できない一種独特の世界が展開されているのです。
北村信彦/HYSTERIC GLAMOURPhoto by Jamandfixedit by TAKEUCHI Toranosuke(City Writes)
女性的な繊細さと男性的な強さを兼ね備えた作家
これまでラットホールでは、純粋な写真家の個展だけをおこなってきましたので、訪れる人もフォトギャラリー的な印象が強かったと思います。しかし、ロニ・ホーンは、ドローイングあり立体作品ありという作家で、写真家という枠は完全に通り越している人。そういう意味では、今回彼女の個展を開催できたことで、ギャラリーとしてのハードルがひとつ上がった気がしています。
僕自身、彼女に会うのは今回が初めてでしたが、業界でも有名な“鋼鉄の女性”と聞いていたので、軽い怯えもありながら対面しました(笑)。でも実際に会ってみると非常に好印象。彼女の方もこのギャラリーやギャラリーのスタッフをすごく気に入ってくれたようでした。ただし、やはり緊張感のある人物だったことも事実です。女性の繊細さと男性の強さの両方を兼ね備えた人とでもいうのでしょうか。外見もすっきりシャープな印象ですし、話に向かう姿勢に男性っぽいところを感じました。その男性っぽさも、力強いというよりは、もっと脳内的な強さ。それが眼に表れていましたね。
写真作品の枠を越えた知的な仕掛け
今回の作品『This is Me, This is You』は、1998年から2000年にかけて、彼女の姪であるジョージア・ロイだけを撮影した写真作品で、48枚のポートレートを鏡合わせのように、向かい合う2面の壁に並べた構成になっています。対になったそれぞれの写真は一見、同じ写真にも見えますが、よく見ると、微妙な時間差のある写真がセットになっているんです。ロニは、このディスプレイをおこなうために、あえてラットホールのメインの壁は使わずに、サイドの壁2面を使って展示をしました。このあたりも通常の写真展の枠を越えているところといえるでしょう。
写真自体はひとりの少女のポートレートなんですが、ホールの真ん中あたりに立って、首を振りながら交互に見ているうちに、ポートレートという写真の枠も越えて、自分はどういうカタチの写真を見ているんだろうか? という感覚に襲われていきます。まあ、これこそが彼女が仕掛けた“インテリジェンスのある仕掛け”なんですけど。ですから彼女は、片面がガラス張りで外から中の風景を一望できるこのホールを非常におもしろがってくれました。仕掛けにハマっている観客をガラス越しに眺めることで、スペース全体がまた違う作品に見えてくる。そういう意味で、彼女の仕掛けとこのスペースが、ものすごくマッチしていたというわけです。僕も外から見ていて、ここでビデオを長回ししてもおもしろいかな、なんて思いましたね。
ロニ・ホーン個展『This is Me, This is You』
日程|8月10日(日)まで開催中
時間|12:00~20:00(月曜定休)
場所|RAT HOLE GALLERY
東京都港区南青山5-5-3
HYSTERIC GLAMOUR 青山店B1F
でんわ|03-6419-3581