Life is Edit. #009 ~いつも心にユーモアを~
島田 明|Life is Edit.
#009 いつも心にユーモアを
ひとりのヒトとの出会いによって紡がれ、生まれるあたらしい“なにか”。
ひとつのモノによって惹きつけられ、生まれるあたらしい“なにか”。
編集者とは、まさにそんな“出会い”をつくるのが仕事。
そして人生とは、まさに編集そのもの。
──編集者、島田 明が、出会ったヒトやモノ、コトの感動を紹介します。
文=島田 明
今回は、いつもわたしにエネルギーをあたえて、そして時をわすれて童心にかえり笑いあえる友人、エトロのメンズデザイナー、キーン・エトロとの出会いについて。
遊び心の大切さを体現する人
1968年創業、ペイズリー柄で知られるイタリアブランド、エトロ。そのメンズコレクションを一手にしきるのが、エトロ家四兄弟の次男坊、キーンです。
そんな彼との出会いはいまから2年半前。雑誌『LEON』でのある企画がキッカケでした。
現在も『LEON』誌上で連載中の、私のライフワーク?的ページは、海外の有名ブランドに無謀にも「こんな商品作れない?」とお願いするのが主旨の企画=ドリームコラボです。当時、そのコラボ先としてわたしがオファーしたのが、エトロでありました。
ええと、その企画内容とストーリーはですねえ、こんな感じでした……。
『ジェットセッターは多忙を極めます。当然、出張先で商談が長引き1泊、2泊の延泊はザラ。で、そこで困るのが下着の類い。ちょっとその辺で、なんて間に合わせで済ませないのがモテるオヤジ。おっと、そうだ、ここにあった! と見つけた先は、胸ポケットのなか。そうポケットチーフなのです。いつもは胸元を美しく飾るエトロペイズリー。でも広げると美しいブリーフに早変わり。ニキータちゃんとのもしもの臨戦態勢にもバッチリ対応、です(笑)』
どうですみなさん、笑っていただけたでしょうか?(汗)
いわんや、この企画を日本のプレス担当の方にお話したところ「やっぱり、そういう話は島田さんがしたほうがいいのでは…?」とやんわりことわられ、では、ということで私みずからがミラノにて直接キーンにプレゼンすることとなったのでありました。
おまけにプレゼン日は、コレクション準備で佳境をむかえ、若干殺気たつショウの前日という無謀さ。しかし、ままよ、どうにかなれ! と開きなおったわたしは、得意のいきおいだけはある自己流英語で、身振り手振りでキーンに趣旨を説明したのであります。
初対面のわたしの話をじっと聞き入っていたキーンは、ひととおりわたしの話を聞くやいなや大爆笑!「オモシロいよ、キミのアイデア!さっそくデザインにとりかかろうよ! ホラ、こんな感じ、どう?」とスケッチをはじめて。で、つぎには普段は部外者には見せないデッドストックの生地倉庫にわたしをつれまわし、あげくのはてにはいくつかの取材アポや仕事をほったらかして、「おなかすいてるだろ? メシどう? ウチの食堂、うまいんだよ。食べていきなよ」とにぎやかなランチタイムに突入。そこでは、明日のショウについてやファッションの話などまったくせずに、アートやダライ・ラマ、女性の話などに花が咲き。そのなかでいちばん盛り上がったのが、わたしがプレゼントとして持っていった杉本博司さんの作品集でした。
またもや杉本博司さんの作品で通じて
ざっと、杉本さんの作品、そのときを題材にした意味をつたえると、キーンは感慨深げに、こう言いました。
「私もファッションといううつろいゆくものをあつかっているけど、つねに永遠のときを表現したいと思っているんだ。そこにはわたしなりのメッセージをこめている。それはトレンドとか関係なく、わたしなりのメッセージなんだ。うしないつつある自然、少数民族、生きとし生ける者すべてへの愛…。ほら、このTシャツもそのひとつさ」
キーンがわたしにみせてくれたのは、絶滅にひんする部族、ジョロニモがプリントされたTシャツでした。彼自身、民族学を勉強していたこと、そして日本のアイヌ民族にあうためにわざわざ北海道に足をはこんだこと……。またしても(笑)、わたしが師とあおぐ杉本さんの作品を通じて共通言語を持つ”仲間”ができた瞬間でした。
それ以来、年に2回のミラノコレクションのたびに、手土産をもってキーンに会いにエトロ本社にむかいます。ときにそれはアートの作品集だったり(今回は「鳥獣戯画」の作品集をプレゼント)、キーンがたまたまわたしが着ていたTシャツFAKEの文字を見て「僕の名前はKEANだからFAKEANなんてあったら面白いよね」という言葉をうけ、わたしがさらにウケ狙いで、そのアイデアをTシャツにデザインしてつくってもっていったり。そのTシャツをプレゼントしたときは、キーンはたいそうよろこんでくれて「いやさあ、このTシャツ着て、ショウのフィナーレに出ようと思ったんだけど、秋冬のコレクションだったんで、スタッフに止められちゃってさあ」なんて言ってくれて(感激)。
先月、キーンに会いに行ったときは、ショウ翌日でしたが、お昼をはさんでの会食は2時間以上にわたりおおいに盛り上がりました。最近、キーンは再婚(2度目)したのですが、そのうつくしい奥さんを非常にリスペクトしていて「やっぱり、ミューズは大事だぞ、アキ!」と盛んに言っておりました(笑)。
また、今年のコレクションのなかで、杉本作品「海景」に見られる、空の白さから水平線、そして海へと溶けこむうつくしい自然のグラデーションにインスパイアされ、シャツをつくったことを、そっと打ち明けてくれたり。そんな彼のデザインにヒントをあたえただなんて…、ほんと、編集者冥利に尽きる!と感涙にむせびそうになるわたし、でした(笑)。
ほんとはシャイでナイーブなキーン
オープナーズの連載をスタートする、ずっと前からキーンの人間的素晴らしさはことあることに、いろいろな人につたえてきたわたしですが、今回はややかしこまって? この連載にキーンを紹介したい旨をつたえると、キーンは照れ笑いを浮かべて「いや~、じつは僕、シャイで露出することがきらいなんだよね。ショウのフィナーレもさ、やっとのことでさ。もう心臓バクバクもんなんだよ」と意外なおことば。そういえば、むかし、キーンはポートレートとなると、ゴリラのお面やカブリ物をやたらとかぶって出てたこと思い出しました。そうか、キーンは本当はすごくシャイでナイーブな人なんだ、と再認識したわたし。で、彼が出したアイデアが、うしろ向きのポートレイト。彼は、ユーモアたっぷりにこう説明をしてくれました。
「イタリア語でね、DEていう単語があってね。英語でOF=”~の”という意味なんだけど、これを僕のファミリーネーム、ETROの頭にくっつけるとDEETRO、イタリア語で”うしろ”って意味になるんだよ。だから、僕のポートレイトはうしろから。どう、アキ?なかなかグットアイディアだろ!」
いつもウィットを効かせ、ユーモアのすばらしさをおしえてくれる。それがキーンなのです。
そういえば、わたしの大事な師匠である、ポール・スミスさんとキーンとは大の仲良し。キーンは私に、こんな話もしてくれました。
「ポールは大事な先輩でもあり、友人なんだ。ミラノに彼の店がオープンしたときにね、ふざけて一日、おたがいの店で僕ら自身が入れ替わってショップスタッフになりすまそう!という話になってね(笑)。で、ポールが僕の店で、僕が彼の店でスタッフをやって接客したワケ。
そりゃあ、お客さんはビックリしたよ、”なんでエトロが、ポールの店にいるんだ?”って(笑)。いやあ、僕はずいぶん売ったよ、ポールの服を! 営業の才能もあるみたいだね、僕には(笑)」
わたしが好きな人、わたしが好きな服、わたしが好きな世界。
こうやってさまざまな垣根をこえて、つながっている感覚が味わえる瞬間に出会うたびに言いすぎかもしれませんが「生きててよかった」と思います。
ありがとう、キーン。
これからも、わたしをいつも笑わせてくれる、
いい友人でいてください。
わたしも笑わせるネタ、またもっていきますから(笑)。