第21回 「住」にまつわる話_チェア編
第21回
「住」にまつわる話_チェア編
椅子に「座る」というごく基本的な所作にしても、「どう座る」かは目的や気分 によって変わります。ゆえにデザインの方向性も多種多様。椅子の世界はグッド デザインの宝庫なのです。
Photo by Jamandfix
仕事に集中する椅子、ゆったり酒を飲むための椅子
シェルチェアにアーロンチェア、アノニマスデザインとして有名なエメコチェアなどなど、椅子には名作と呼ばれるデザインが数多くあります。そんな膨大なデザインが存在する椅子をもし目的別に大別するのならば、「くつろぐ」ための椅子と「集中する」ための椅子のふたつに区分できるのではないでしょうか。
ソファに埋もれて仕事をしたいとは思いませんし、OAチェアを前に酒を飲みたいとも思いませんよね。流線型のスポーツカーを見て速そうだと感じるように、椅子もその形状から座り心地やフィーリングが匂い立ってくるものです。
写真上の椅子はイームズのデザインによるハーマンミラー社の定番オフィスチェア『アルミナムグループチェア』です。オフィスチェアとはいうものの、お酒を飲んでもサマになってしまう、集中とくつろぎの中庸に位置するような椅子ですね。
で、この椅子、ミッドセンチュリー期のデザインというのもあって精度からすると現代製品に劣るのでしょうが、いろいろな意味でじつによくできているんですよ。
まず、多箇所に同規格のビスを用いるなど、構造に無駄がない。また分解可能なノックダウン式でありながら、十分な剛性と美しいフォルムをともに実現している。現代まで定番として愛されている事実にも納得がいきます。
ちなみに僕はスタンダードな革張りのものは敬遠し、あえてグレーのファブリックを張ってもらいました。現代の価値観では革=生地より高級という位置づけがされていますが、革張りのシートは本来、馬車の運転席に座る従者用のアウトドアシート(対してご主人さまが座るシートはビロード張り)だったはず。
けして高級な存在ではありませんでした。だから僕は真に格式あるファブリックにこだわった……というわけでは当然なく、まあ、要は好みでそうしたわけです。使い込んでクタッとなった革の風合いもたしかに魅力的なんですけどね。
折り畳みチェアの永世定番『ガタパウトチェア』
こちらはどこからどう見てもくつろぐための椅子。英国『マクラーレン』社の定番折り畳み椅子『ガタパウトチェア』です(現在、オリジナルは生産中止になってしまったとのこと)。
真夏に半ズボン姿で、川辺でこれに座っているとじつに涼しくて気もちがいいんですよ。見かけこそ安っぽいですが、安定感、座り心地ともに意外や良好。グリップに寄りかかって足を投げ出して眠るのも密かな楽しみです。
ともあれこの椅子がもっとも優れている点は、ワンタッチでじつにスムーズに広げられるところ。よく見るとフレームが直線のようでいてわずかに湾曲していたり、うまく力が伝わるように構造が考え尽くされているのです。ビールのタンブラーの話じゃないですが、変わる必要のない、完成されたグッドデザインだと思います。
威圧感のない、眺めていて心地良いデザイン
最後に、ちょっと腰掛けたり小物を置いたりするのに重宝している3つ足のスツールを紹介します。こちらは家具デザイナーとして有名な小泉 誠氏のデザインによるもの。素材は桜の無垢材です。木の表情に逆らうことなく、シンプルに造形化したそのデザインは、氏の真骨頂といえるでしょう。
セオリーからするとこの構造では60kgの体重を支えることはとてもできないはずなのに、それをさらりとクリアしている点もスゴい。職人が唸りながら試行錯誤して、形になった背景がうかがえます。
ただ、そんな過程はプロダクトの魅力とは一切関係なくて、純粋に、眺めていて心地良いのがイイ。新品で買ったときよりも深い色になってきたので、使い込めばもっと味が増してくれることでしょう。将来が楽しみな一品です。