第15回 リー・フリードランダー展(2)
第15回 リー・フリードランダー展
スペシャルトークショー その2
前回に引き続き『リー・フリードランダー展』でのスペシャルトークショー後半の模様をお伝えします。
話は、フリードランダーさんの写真の撮り方から写真家リー・フリードランダー論へと展開していきます。(北村信彦)
Photo by Jamandfixedit by TAKEUCHI Toranosuke(City Writes)
彼の写真には彼の全キャリアがある
山岸享子●ここでちょっと、リーの写真の撮り方についてのお話をさせていただこうと思います。
それは非常に特殊で、写真家としての彼のあり方を端的に表しているからです。
まず彼はライカからはじまった写真家なんですが、とにかく毎日写真を撮るんです。撮影のために撮る写真ではなく、日常の中で毎日撮る。ですから彼の写真の中には、大げさではなく彼の全キャリアがあります。
端から見ていると、いったいなにを撮っているのかわからない。一見なんでも撮っているようにさえ見えます。もちろん彼の中には意図があるのでしょうが、「まずテーマを決める」という日本的アプローチから考えると、彼はアプローチの見えない作家です。そして、撮った写真をすぐに焼きます。『TOWARD THE SOSIAL LANDSCAPE』と名付けられたあのセルフポートレートも、実は撮った写真の中に偶然自分が写っているものがあって、それをおもしろいと感じたのがはじまりだったようです。
綿谷さんは撮る前にテーマを決めるほうですか?
綿谷 修●僕もなるべく様式にはハマらないように心がけています。ところで、フリードランダーさんの写真を見ていると、被写体は違ってもどれもフリードランダーだな、と思えるのですが、彼の写真のオリジナリティってなんなんでしょうね? 若いコなんかに訊くと、ただ「好きだ」という答えだったりするんですが。
大島 洋●いろいろ説明することはできるとは思いますが、むしろ若いコたちが素直に感じる、好きとか嫌いで論じちゃっていいんじゃないでしょうか。
山岸●私も評論家ではなく、写真家の目で作品を見てしまうことが多いので、同じ質問されたら「好きだ」と答えてしまうと思います。
私的な視線を極めることで追求したリアリティ
大島●彼自身はどうだったんでしょうね? 感覚的なものであったとは思いますが、セルフポートレートを「社会的風景」といった。それはどういう意味だったんでしょうか?
山岸●彼は本当に言葉では説明しない人なんですよ。70年代にインタビューを申し込んだこともあったんですが、ひとことで「No」といわれてしまいました。もう会って言葉を交わしたんだから、勝手に書いてくれ、と。
ただ、彼は暗室ワークのすごく好きな人だったので、そういうことについては盛り上がって話してくれましたね。
それから、以前彼が来日ときに、写真評論の平木 収さんが、彼に会うんだったらコンストラクテッドフォトグラフス、いわゆるメイク写真をどう思うか訊いてみてくれないかとおっしゃるので、リーにそのことを訊ねたことがありました。
答えは「人間が考えることなんかには限界がある、と僕には思える。それより目の前に展開することの方が無際限におもしろい」というものだったんです。明快な回答ですよね。
大島●もう結論が出てしまいましたね(笑)。私個人の私論でいうと、リー・フリードランダーとは、ロバート・フランクらよりも、もっと私的な視線を極めることでリアリティを浮き彫りにした写真家だったんじゃないかと思っています。
MC●みなさん今日は興味深いお話の数々、どうもありがとうございました。
山岸、大島、綿谷●こちらこそ、ありがとうございました。
リー・フリードランダー写真展「RETRO-SPECTIVE」
日程:2007年3月30日(金)~5月6日(日)
時間:12:00~20:00(月曜定休)
場所:RAT HOLE GALLERY(ラットホール ギャラリー)
港区南青山5-5-3 HYSTERIC GLAMOUR 青山店B1F
TEL:03-6419-3581