第14回 リー・フリードランダー展(1)
第14回 リー・フリードランダー展
スペシャルトークショー
現在ラットホールギャラリーでは、5月6日までの日程で『リー・フリードランダー展』を開催しています。彼は1960年代から現在まで第一線で活躍するアメリカの写真家で、日本の写真界にも多大な影響を与えた人物です。ギャラリーではその展示にあたり、去る4月6日、フリードランダーさんに縁の深い3名によるトークショーを開催しました。
メンバーは写真家で評論家でもある大島洋さん、今回の展示のプロデュースをしてくださったキュレーターの山岸亨子さん、そしてヒステリックグラマーから写真家の綿谷 修という3名。そしてこの『ネズミの穴』では、今タイトルから2回にわたり、そのトークショーの模様をお伝えいたします。(北村信彦)
Photo by Jamandfixedit by TAKEUCHI Toranosuke(City Writes)
「社会的風景」という名の写真
綿谷 修●僕がリー・フリードランダーを初めて見たのは、いまから20年ほど前のことでしたが、どこか庶民的で物静かなところにすごく惹かれたのを覚えています。僕にとっては同時代の作家ではない彼ですが、初めてブレイクした60年代当時というのは、どういう受け止められ方をしていたんですか?
山岸享子●最初に彼が注目を集めたのは『TOWARD A SOCIAL LANDSCAPE』という展覧会によってでした。この展覧会はアメリカはもとより全世界で同時代的共感をもって受け入れられ、日本では“コンポラ”という言葉さえ生み出しました。写真といえばそれまでは、フォトジャーナリズムに代表されるパブリックステイトメント的なものが一般的でしたが、当時急速に、写真はもっと個人的なメディアじゃないかという考え方が浮上していました。『TOWARD A SOSIAL LANDSCAPE』は、そうした背景の中から生まれ、より日常的で個人的なテーマを写し出したその写真は、若い世代からの共感を得たというわけです。
知的に切り取られた日常が新しかった
大島 洋●私が20代の頃には、コンポラに対してなにかとても知的な雰囲気を漠然と感じていました。いまとなってみれば、当時の感覚をどのようにでもいうことができますが、実際には幼く曖昧に「カッコいい」と捉えていたように思います。TOWARD THE SOCIAL LANDSCAPE、すなわち“社会的風景に向かって”というテーマについても少し後に「写真と思想のための挑発的資料」と謳って創刊された『プロヴォーグ』誌にならっていえば、「来るべき都市社会のための挑発的資料」といったイメージを、あるいはもっていたのかもしれません。ですが、当時を思い出してみると、やはりすべてをもっと漠然と受け入れていたような気がします。
山岸●私も最初の印象は「写真ってこんなにもカッコいいのか」というものでした。ただ日本でいうところのコンポラとはちょっと違うと思っています。撮り方も日本人のようにムードで撮るのではなく、アメリカ写真の伝統である一点ずつ完結させるような硬質な撮り方ですね。
綿谷●なるほど。僕は持論として、写真にはコンポラとアノニマスしかないんじゃないかと考えているんですが、フリードランダーさんの写真はコンポラでありながら、どこかアノニマス。そして、そのあたりに彼の写真の説得力があると感じています。
大島●私は彼の写真に当時すごく新しさを感じました。ロバート・フランクらに影響を受けながらも、より希薄な感じがあって、その希薄さが時代の感性を伝えているんじゃないかと受け止めました。
リー・フリードランダー写真展「RETRO-SPECTIVE」
日程:2007年3月30日(金)~5月6日(日)
時間:12:00~20:00(月曜定休)
場所:RAT HOLE GALLERY(ラットホール ギャラリー)
港区南青山5-5-3 HYSTERIC GLAMOUR 青山店B1F
TEL:03-6419-3581
リー・フリードランダー(LEE FRIEDLANDER)
リー・フリードランダー(LEE FRIEDLANDER)は、1934年ワシントン州アバディーンに生まれます。少年期より写真撮影を始め、53 - 55年にはロサンジェルス・アートセンターでエドワード・カミンスキーに師事。1956年よりニューヨークに移りインデペンデント・フォトグラファーとして活動を続け、米国ドキュメンタリー写真新世代の中核として高い評価を獲得していきます。
66年、「社会的風景に向かって」展(ジョージ・イーストマン・ハウス)で<コンポラ写真>の旗手のひとりとして紹介され、国内外の写真家たちに大きな影響を与え、70年には、自ら出版社を設立し最初の写真集『Self Portrait』を出版します。
写真が個の内的な表現にかかわるメディアとしての新しい方向を模索した時代、60年代にはじまるフリードランダーの歩みは、路上の日常風景にまなざしをむけることからスタートしました。何気ない日常の中に在る情景を社会的風景としてとらえ、写真を見る行為は現実ではなく、写真家が解釈したパーソナルな世界を見ることだと主張。日常を個人的な視点からとらえた作品は その後の現代写真の展開に大きな影響を与えました。
ストリート・フォトグラフィを中心にすえたフリードランダーの写真制作は、その後も家族や個人的な交遊から生まれたポートレイト集、愛してやまない木々や自然の風景を題材としたシリーズなど多様な作品が発表されています。
2005年、ハッセルブラッド国際写真賞を受賞。同年、ニューヨーク近代美術館で約500点の作品を展示した本格的回顧展『フリードランダー』は彼の半世紀の歩みをまとめたもので、人々を感動に包み込みました。
本展では、彼の初期から中判カメラによる最新の作品までを集大成展として紹介致します。