第11回 ボリス・ミハイロフという謎解き その1
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2015年4月17日

第11回 ボリス・ミハイロフという謎解き その1

第11回 ボリス・ミハイロフという謎解き その1

edit by TAKEUCHI Toranosuke

「LOOK AT ME」より。© Boris Mikhailov

最初は一貫した方向性が掴みづらかった

今回からは、この前荒木さんとの対談をおこなってもらい、現在ラットホールギャラリーで作品を展示中のボリス・ミハイロフさんについての話をしようと思います。

彼はウクライナ出身で旧ソビエト時代からかなり前衛的な作品を撮りつづけ、現在はベルリンを中心に活躍する写真家です。僕がボリスさんの作品にはじめて触れたのは、ラットホールギャラリーのオープン後ですから、昨年の秋頃でしょうか。第一印象は“トンガっててインテリな感じがする”というものでした。

最初に見た作品は、いまラットホールで公開している『LOOK AT ME』なんですが、写真というよりコラージュなんかも駆使されていて、センスいいな、おもしろいな、と感じましたね。ただし、その後初期の作品や、その頃たまたま『SHUGO ARTS』でおこなわれていた個展なんかを見ていくにつれ、方向性の掴みづらさを感じていたのも事実です。手法ひとつとっても、すごくいろんなことをやっているんですよ。

ポスターより。© Boris Mikhailov

ボリスさんにとって写真は最終手段ではない

そういうバラバラにちりばめられいた印象が、ひとつにつながったのが、前回オウプナーズでもご紹介した荒木さんとボリスさんとの対談でした。

あのとき、彼自身の口から自分の作品の説明を聞くうちに「彼はもしかしたら写真が最終手段じゃないのかもしれないな」と思ったんです。つまり写真とかカメラというのは彼にとって、なにかを表現するための道具のひとつだということです。そして、そういうスタンスの写真家が旧ソ連時代からロシアで活動していたのがおもしろいと思いました。たぶん、経験したことのない人間には想像もできないことでしょうね。でも彼はむしろ、そういうまったく知らない人々をターゲットに、ロシア(ソ連)内のさまざまな不条理を、おもしろおかしく作品にしてしまっている。それでいてあそこまで天才を感じさせるというのは、簡単なようでとても難しいことだと思います。

この間の対談は、彼の一見全然方向性が違うような作品の中に、そうした統一性を発見させてくれました。ただし、ラットホールギャラリーで個展を開催するにあたっては、彼の作品の見方というものを教わっていない一般の人が、あの作品をどう捉えるのか、正直心配な部分もありました。でも意外にびっくりしたのは、レセプションに来た人、特に女性に、彼の作品のおもしろさに気がつく人が多かったということです。彼女たちは作品を見ては添えられた説明文を読み、また作品を見るといったことを繰り返し、自分で作品のツボを探り当てていたようでした。

ボリス・ミハイロフ写真展「LOOK AT ME」
日程:2007年2月25日(日)まで
時間:12:00~20:00(月曜定休)
場所:RAT HOLE GALLERY(ラットホール ギャラリー)
港区南青山5-5-3 HYSTERIC GLAMOUR 青山店B1F
TEL:03-6419-3581

ボリス・ミハイロフ Boris Mikhailovは、1938年、旧ソビエト連邦ウクライナの大工業都市ハリコフ生まれ。(現在ベルリン在住)鉄道工社の電機工であった28歳で写真を始めます。その後、当時社会主義体制の抑圧下、タブーとされていたヌードを撮影したことで職を失い、写真家として独立します。エネルギッシュな活動により重要なアーティストとしての評価を築いていきます。旧ソ連体制下、自由な制作活動を規制される中、体制への風刺をこめた作品やきわめて私的な情景を写しとった写真を数々撮影。圧力に屈しない柔軟な精神から生まれた、真実を見つめようとする、激しく、しかし、あたたかいまなざしは、ヨーロッパでまず評価され、それから、世界的に認められるようになります。 90年代に入ると、世界各都市における美術館での個展、作品集などを通して、ラディカルかつユーモアに満ちた独自の作風に対する賞賛が高まり、ハッセルブラッド賞(2000年)を受賞するなど、次々と活動の幅を広げていきました。 1998年に初来日。日本では、「荒木経惟との二人展=冬恋=」(シュウゴアーツ/1999年)、「交錯する流れーMoMA現代美術コレクション」(原美術館)などで紹介されています。

RAT HALE GALLERY:http://www.ratholegallery.com
HYSTERIC GLAMOURオフィシャル:http://www.hystericglamour.jp
Bueno! Books:http://www.buenobooks.com

           
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