三原康裕|第2回 映画監督 鎌仲ひとみさん×ミハラヤスヒロ(4)対談
第2回 映画監督 鎌仲ひとみさん×ミハラヤスヒロ(4)
『HIBAKUSHA 世界の終わりに』や『六ヶ所村ラプソディー』など、社会問題に焦点を当てたドキュメンタリーを撮り続ける映画監督、鎌仲ひとみさんとの対談。最終回は私たちが原発に頼らないライフスタイルを実現するにはどうすべきなのか、そして持続可能な未来の地球に必要な信念とはなにかに迫る。
写真=北原 薫まとめ=竹石安宏(シティライツ)
一人ひとりがやるべきことをやる
三原 ところで、鎌仲さんの映画はときに真実を残酷なまでに捉えていますが、鎌仲さんにとってドキュメンタリーとはなんでしょうか?
鎌仲 私はメディアなので媒介する立場ですが、『六ヶ所村ラプソディー』ではそこに生きている人々の暮らし方や考え方を、なるべくそのまま伝わるように心掛けました。ドキュメンタリーは私の原点である、探検でこんな人に会いましたという事実を見せられるメディアですからね。だけど、イラクの子供たちが死んでいく姿を見たときは、すごく不条理を感じたんです。なぜこの子たちが死んでいかなければならないのかと。そして、その現実を自分は変えることができませんでした。でも、変えたいと思いますよね。そのためには、そうした不条理が起こっている、私たちが作り出しているということを知ってもらわなければならないと思うんです。六ヶ所を撮ったときも、そこに不条理があったわけです。村人たちは再処理施設を本当に受け入れたかったのではありませんからね。国策として押し付けられ、悪いものではないといわれても、真っ先に被害を被るのは村人たちです。そうした状況そのものを提示することによって、観る人に自分で考えてもらいたいんです。
三原 たとえば食の安全に関する問題など、現在はさまざまなことが起こり、価値観が変化してきています。そうした問題や不条理を知ったとき、私たちはどうすべきなのでしょうか?反対運動や署名活動などの方法はありますが、行政や電力会社はなかなか話し合いをしたがらないと思うんですが。
鎌仲 政治家などが動くなど、上からしか物事を変えることができないと思い込むのは、私は間違っていると思います。たとえば電気に関しては、私たちは消費者であり、別の言い方をすれば顧客なんです。電気を買ってお金を払っているわけですから。そして、そのお金のなかには核燃料の再処理費も含まれている。だから「そういうゴミが出るような電気の作り方をしないでくれ」と言ってもいいはずなんです。先日スウェーデンに行ったときに、電気自動車に乗ってる男性を取材したんですね。それで「その電気はどこからくるんですか?」と訊いたら、「風力発電の電気だ」と言っていました。家で使う電気も、すべて風力発電の電力会社を選んで買っているそうです。それに「高いのでは?」と訊くと、「なにいっているんだ、原発よりも安いんだよ」と。日本にはそうした選択肢自体がないですけどね。でも、選択肢を増やすためには、私たちが電力会社に対してメッセージを送り続けることが大切だと思います。そういえばこの間、竹で電気を作っている人に会いに行ってきたんですよ。
三原 竹でどうやって電気を作るんですか?
鎌仲 竹は太陽エネルギーの蓄積器と考えることができる植物なんです。植物のなかでもっとも成長率が高い竹は、チップにして発電機に入れるとガスが発生します。そのガスでタービンを回して電気を作るんです。しかもその過程で竹は蒸し焼きになって炭になりますが、それを畑に撒くと土壌改良剤にもなります。現在日本中で竹が増え、山林を荒らして問題になっていますが、資源として有効利用できるんです。温暖化の影響で日本の山林の約一割が竹林になってしまいましたが、林野庁はそこに除草剤を撒いています。中国産ではなく国産のタケノコを食べるためにも、それはとても無駄なことです。日本はよく資源がないといわれますが、将来確実に枯渇する石油や電気で暖をとるなら、たとえば竹チップのボイラーや太陽エネルギーを使うなどさまざまな方法があるので、そこは発想の転換が必要でしょう。
三原 僕ら一般の国民にも、できることはあるということですね。
鎌仲 そうした新しい方法や発想をもった企業を選択し、応援することが大切です。私が調べたところ、上関原発の予定地の埋め立て許可を中国電力に与えた山口県は、なんと中国電力の大株主でした。これはおかしなことだなと思ってさらに調べると、第二次大戦以前の日本には800もの電力会社があったことが分かったんです。つまり、以前は日本にも電力の選択肢があったということ。それが戦時下に電力を統制するため、国が全国の電力会社の株を買って接収し、統合してしまったわけです。
三原 それは知りませんでした。そうした事実を知ると、ある意味日本は住みにくい国なのかもしれないですね。
鎌仲 そうですね。すでに地球自体が住みにくい星になってしまったのかもしれません。こういう考え方があるのですが、地球全体が再生産できる資源で私たちが食べ、社会を成り立たせていくサイクルを1年に例えます。すると人類は、9月24日の時点で2008年までの分を食べ尽くしている計算になるんです。つまり、現在私たちは未来の資源を食べて生きていることになっている。しかもそれは世界全体の平均で計算した数値ですが、日本のみで計算するといつになると思いますか?
三原 ひょっとして6月くらいですか?
鎌仲 いいえ。なんと2月です。日本は石油や食品をどんどん輸入し、食い散らかしている国ということです。一見すごく豊かに見える国ですが、これはいけないことだと思います。食品やそのほかのものを輸入する際にもエネルギーを使うわけですから、電気だけではなく私たちは多様なエネルギーを消費しているということを自覚しなければならないでしょう。三原さんは服を作るとき、環境にどう配慮していくのかなどは考えられることがありますか?
三原 悩むことはありますね。オーガニックコットンなどもあるのですが、やるなら徹底的にやらなければいけない気もしています。
鎌仲 そうかもしれませんが、55基の原発を魔法のように消すことができないように、服作りもすべてを一度に変えるのは難しいでしょう。たとえば環境に配慮した別のラインを作ってみるのもいいと思います。生産者だけではなく、消費者一人ひとりにも責任がありますからね。またスウェーデンの例を挙げますが、スウェーデンはどのようにすれば環境先進国になれるかという方法論を発達させてきた国です。
そのひとつが、デザイナーはデザイナー、映画監督は映画監督、それぞれ一人ひとりが自分の立場で環境に配慮すればいいという方法論です。これは小児ガンの医師が発案した考え方ですが、ガンを研究中に思い付いた4つの摂理に基づいています。1980年代後半で当時スウェーデンの人気ポップグループだったアバも賛同し、国王も支援を表明するなどして広まりました。みんながすべてをやらなくても、自分に専門分野があるならそこでやろうという考え方。賛同した自動車メーカーのボルボは、石油以外の燃料で走るクルマを開発することを発表しました。彼らは自分たち本来の使命とはなにかまで考え、クルマに限らず“移動”を提供する会社であることに気付いたんです。だから、線路を引いてみようといったアイデアも出ました。自分たちのアイデンティティを見直すことで、新しい発想が生まれたんです。デザイナーも、服を作って売るだけではなく、服を着れば着るほど環境がよくなり、その気持ちよさを提案するといった方向も考えられるのではないでしょうか。
“人は誰とでも繋がり合える”という信念
三原 自分にも、環境にもコンフォートな服ということですね。簡単ではないでしょうが、頑張りたいと思います。ところで、鎌仲さんの信念とはなんでしょうか?
鎌仲 そうですね。人と人は、たとえどんな人同士でも繋がり合えるということですかね。たとえ原発を推進している人でも、私はコミュニケーションしたいなと思うんですよ。そういう人も、きっとみんなのためによかれと思ってやっているんだろうなと。考え方の違う人同士が、話しをしない状態がもっともいけないと思います。もっと話しをして、お互いの気持ちを伝え合おうと訴え、そういう場を作れたらいいなと思いますね。
三原 そこに絶望したくはないですね。反対派も推進派も、同じテーブルで話し合えれば状況は違ってくると思います。
鎌仲 そうなんです。だって、お互い気持ちのいい生活やエネルギーを実現したいはずですからね。原発でお金を儲けたいだけの人は一握りです。会社が言ってるからやらなきゃいけないとか、お役所で黙り込んでいた人たちも、心のなかでは「間違っているかな」と思っているに違いないんですよ。そういう気持ちを汲んであげる人がいなければならないと思うんですよね。お互いに自分たちの生活がかかっているわけですから必死だし、そこを解きほぐしていかなければいけない。そういう仕事ができればいいないと思っています。自分たちがなにをやっても無駄と思っている人も多いですが、そういう人には「あなたがそう思っているからこうなったんだ」ともいいたい。
そういった気持ちを切り替えるだけで、すごく変わりますから。環境問題にはたしかにリミットがあると思います。まだ絶望することはないですが、20年後に希望を失わないように努力したいですね。というのも、世界中を周ってみて、こんなに自由な発言ができる国は日本しかないということを知ったからです。私がロシアでいまの活動をしたら、とっくにエレベーターで撃ち殺されていると思います。中国だったら、後ろから袋を被されてボコボコにされますね。
三原 鎌仲さんはとても明るいですよね。シリアスな作品を撮られているのに、その明るさに救われるように感じます。
鎌仲 私は変えられると思っていますからね。映画を観てくれた人はすごく変わっているし、ネットワークも広がっています。ささやかなものかもしれませんけど、私が直接言わなくても広がっているんです。そこには共鳴し、響いていくものを感じます。
三原 それは素晴らしいことだと思います。ちなみに新作はどのような作品になる予定なんですか?
鎌仲 『ミツバチの羽音と地球の回転』というダイナミックなタイトルをつけているんですが(笑)、一言でいうとミツバチのような存在が地球の持続可能性を象徴しているという内容です。ミツバチが生きていければ、人間も生きていけるという。人間は地球がなぜ回転しているのかさえも分からない、つまり自然は謎に満ちているんです。でも、人間はそれに生かされている。そこが大きなテーマとなった作品ですね。
三原 僕の好きなテーマですね。とても楽しみです。では、最後にオウプナーズ読者へメッセージをいただけますか。
鎌仲 そうですね。お金を使うということについて、よく考えてほしいと思っています。歯ブラシや洗剤など、生活に必ず必要なものを買うときも、いまの時代は環境によいものととても破壊的なものが両極端です。無自覚にただ安いからと買うのではなく、そういったことを少しでも気にかけてほしい。たとえばコンビニでおにぎりを買うときも、表示を見て自分の身体に少しでもいいものを選んでほしいんです。いまはそういったものを選べる時代であり、選べる場所にいるということを活かすべきです。そうしたことを日々のなかで実践していけば、自分が変えているという自覚が生まれるはずです。私たち一人ひとりには、そうしたことで世の中を変える力があると分かってもらいたいんです。
三原 わかりました。ありがとうございました。
Profile
鎌仲ひとみ
1958年富山県氷見市生まれ。早稲田大学卒業後、1984年にドキュメンタリー作品を中心に手掛ける映像制作会社のグループ現代と助監督契約。1987年には岩波映画製作所などと助監督契約を結び、1990年から文化庁芸術家海外派遣助成金を受け、カナダ国立映画製作所で3年間研修。その後ニューヨークへ渡り、メディア・アクティビストとして活動する。1995年に帰国してフリーの映像作家となり、テレビ番組やビデオ作品、映画など数々の作品を製作。代表作は『HIBAKUSHA 世界の終わりに』(2003年)、『六ヶ所村ラプソディー』(2006年)。新作の長編ドキュメンタリー映画『ミツバチの羽音と地球の回転』(仮題)は2009年秋に完成予定。
『ミツバチの羽音と地球の回転』
http://888earth.net/