三原康裕|第2回 映画監督 鎌仲ひとみさん×ミハラヤスヒロ(3)対談
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2015年4月28日

三原康裕|第2回 映画監督 鎌仲ひとみさん×ミハラヤスヒロ(3)対談

第2回 映画監督 鎌仲ひとみさん×ミハラヤスヒロ(3)

『HIBAKUSHA 世界の終わりに』や『六ヶ所村ラプソディー』など、社会問題に焦点を当てたドキュメンタリーを撮り続ける映画監督、鎌仲ひとみさんとの対談。鎌仲監督が提唱する原子力発電に反対するための新しい提案や、紛れもない原発大国である日本の現状に、三原さんは真摯に耳を傾ける。

写真=北原 薫まとめ=竹石安宏(シティライツ)

反対運動だけではない新しい提案の必要性

三原 実際問題として、原発はそれほど必要なのでしょうか?

鎌仲 いいえ。そもそも、現在は水力発電や火力発電の施設を約3割しか稼働させていません。それと原子力発電は一旦動かすと、24時間フル回転させなければ出力調整ができない仕組みになっています。つまり電力会社は、55基の原発をすべてフル稼働させ、足りない分だけ水力と火力で調整しようという考え方なんです。電力の消費量は夏場だけ急上昇し、あとはそれほど高くありません。つまり、夏の一瞬だけ上がる最大消費量を基準に年間を通して供給し、余った電力はすべて捨てているんです。近年電力会社がオール電化の生活を奨励しているのは、余った電力を捨てたくないからです。

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三原 それでは、山口県に新しい原発を建設する必要はないのでは?

鎌仲 電力自体は、すでに足りていると思います。もともと資源がないから原発だといっているのに、石油の消費は増え続けている可笑しさがあるんです。しかし、電力会社は「これからもっと生活が電化されて使うようになるから」というんですよ(笑)。

三原 その言い分はどうなんでしょう(笑)。でも、これまでの鎌仲さんのお話を国民に説明すれば、原発の建設にはみんな反対すると思うんですよ。

鎌仲 国は当然説明しませんが、メディアも伝えていないんです。なぜなら、電力会社はメディアにとって最大のスポンサーになっているからです。私もメディアに出るとき、「電力会社の悪口だけはいわないでください」といわれたことがありますから。「電力会社の悪口はいいませんが、原発の悪口はいいますよ」と返しましたけどね(笑)。
先日、宗教学者の中沢新一さんと坂本龍一さんが再処理の反対を訴え、六ヶ所再処理工場の前で撮影した写真も雑誌掲載がストップされたという話を聞きました。それに九州の商店街でキャンドルナイトを企画し、私の映画を上映しようとした若者がいたのですが、突然九州電力がイベントのスポンサーになり、上映中止になったこともありました。
そうしたなかでも、これまでは原発に反対してきた歴史があり、建設を阻止してきた場所もあります。しかし、ただ反対の声を上げるのではなく、私は今後新しい提案をしていったほうがいいと思うんですよ。今回のようなお話は一言で説明することができませんが、「原発は二酸化炭素を出さない」と一言いわれてしまえば、いまのご時世なら水戸黄門の印籠のような効果があることもあるんですね。それでも放射性廃棄物はゴミとして出るので、それはどうするんですかと。それよりも水力や風力といった持続可能な自然エネルギーならゴミも出ないので、どちらかといえばそっちのほうがいいのではないか、という提案です。

三原 原子力に頼らず、水力や風力などで電力をまかなっている国はどれくらいあるでんすか?

鎌仲 じつは世界的に見ると、原発のある国のほうがずっと少ないんですよ。それにたとえばドイツはかつて原発をもっていましたが、すでに脱原発を決めました。チェルノブイリ事故で環境への意識が進み、それが政治に反映されたからです。最近、統計を取ったところ、小児白血病が原発の周囲で1.2〜1.5倍発生しているということが、世界でも初めて証明されました。現在ドイツは風力のみで25%の電力をまかなえるように進めており、そうなれば原発の分を代替えすることができるようになります。スウェーデンも同じように脱原発を決め、現在なくそうとしているところです(2009年2月、スウェーデン政府は原発廃止路線の見直しを表明)。
デンマークには原発がないですが、風力発電のみで電力の自給率が160%もあるという例もありますからね。そもそも、何もかも電力でやらなければならないという発想には、転換が必要だと思うんです。たとえば暖房は電力のほかにもまかなう方法がいくつかあり、マクドナルドでフライドポテトを揚げるにもその熱すら捨てないで利用しようとしています。こうしたあらゆるエネルギーを無駄にせず、使えるようにするシステムが必要でしょう。それに「ソーラーパッシブハウス」という究極のエコハウスがあるんですが、これはなんのエネルギーに頼らずとも、太陽のエネルギーだけで暖房が得られるようになっているんです。

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原発で使用した燃料からプルトニウムを取り出す再処理工場が、2004年六ヶ所村に完成。その国家プロジェクトを巡る住民の姿を捉えた長編ドキュメンタリー作品『六ヶ所村ラプソディー』。多様な人々の思いが交差し、観る者にいまの現実を突きつける。DVD発売中。

三原 そういった発想や最新事情を聞くと、原発自体がとても時代遅れなものに感じますね。

鎌仲 その通りだと思いますよ。原発は停止した時点で、施設そのものが巨大な放射性のゴミになります。そして原発があった土地は、永遠にキレイにはならないんです。こんなに前時代的なものはないでしょう。

三原 鎌仲さんが取材してきたアメリカや日本のほかに、原発が盛んな国はどこでしょうか?

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鎌仲 フランスとロシアですね。それと中国は、これからどんどん原発を作ろうとしています。

三原 アメリカ、ロシア、日本、フランス、中国というたった5つの国で、世界中がひどい状況に陥る可能性もありそうですね。

鎌仲 そうですね。というのも、原発のある国はほとんどが核兵器を持っている国でもあるからです。もともと原発は、核兵器を作るための工場でもありました。アメリカのハンフォードには9基の原子炉がありましたが、それはすべて核兵器用のプルトニウムを作るためのものだったんです。

世界的な“原発大国”日本の現実

三原 湾岸戦争で使われた劣化ウラン弾も、そこで作られたのですが?

鎌仲 そうした施設から出る放射性のゴミから作られたものです。

三原 そうなんですか。日本の原発から出るゴミも、劣化ウラン弾になっているんですか?

鎌仲 なっていますよ。なぜなら日本の原発を動かす燃料、濃縮ウランをつくっているのはアメリカであり、そこで劣化ウランが溜まっているからです。劣化ウランに限っての話しですけど、日本のためにつくられる濃縮ウランの製造過程から出たものも一緒に使っているので、混じっているはずです。

三原 ということは、劣化ウラン弾の問題は日本も無関係ではないということですね。

鎌仲 そうです。だからイラクに薬を運んでいた女性は、自分たちがやらなければいけないと言っていたんです。こうした関係は劣化ウラン弾を廃絶するか、原発を止めない限り、なくなることはありません。

三原 僕らが普段、生活のために使っている電力は、イラクなどで死んでいく子供たちにも繋がっているんですね。

鎌仲 そうですね。これまで劣化ウラン弾が使用された国は、イラクやアフガニスタン、ボスニア、コソボなどがあります。でも恐ろしいことに、日本には中国から黄砂が飛んできますよね…。

三原 あんまり聞きたくない話しのようですね(笑)。

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鎌仲 ええ(笑)。でも、そういった汚染は温暖化と同じであり、国境などはまったく関係ないのです。だから地球レベルで考える必要があります。スウェーデンでは「川上で毒を流していたら、川下で起きる諸問題に対処するだけではなく、その元を止めなければ解決はできない」という話しがあります。当たり前のことですが、現在日本は川下の対策しかしていないんです。

三原 子供でも解りそうな話しですが、なぜ日本国民は川上の問題を解決しようと思わないんでしょうか?

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尾鮫沼から見た六ヶ所村の再処理工場。下北半島の付け根部分に位置する上北郡六ヶ所村は、太平洋に豊かな漁場、内陸に牧畜に適した丘陵地帯が広がる人工1万1000人の村だ。

鎌仲 55基の原発を、魔法のようにこの世からなくすことはできませんからね。ただ私が大事だと思うのは、これからも原発を作り続けて原子力に依存した暮らしをしていくか。それとも現在の原発を減らしていき、代替えエネルギーに移行していくのか。

そのどちらを選択するかによって、未来はかなり変わってくると思うんですよ。たとえば古くなった原発1基を停止し、減ってしまった100万キロワットをどうするかという問題があったとします。それも日本全国にある140万台の自動販売機を半分にしたら、じつは原発2基分の電力を減らすことができるんです。ほかにも日本中の電球を省エネタイプに替えると、4基いらなくなるともいわれています。

三原 ところでアメリカには現在、何基の原発があるんですか?

鎌仲 111基ですね。

三原 日本より25倍の面積があるアメリカに111基とすると、日本の55基というのは多すぎますね。

鎌仲 ひとり当たりの電力消費量は、アメリカ人が世界最高ですからね。でも、二番目が日本人です。その電力量は韓国人の8倍、フランス人の5倍にもなります。

Profile
鎌仲ひとみ

1958年富山県氷見市生まれ。早稲田大学卒業後、1984年にドキュメンタリー作品を中心に手掛ける映像制作会社のグループ現代と助監督契約。1987年には岩波映画製作所などと助監督契約を結び、1990年から文化庁芸術家海外派遣助成金を受け、カナダ国立映画製作所で3年間研修。その後ニューヨークへ渡り、メディア・アクティビストとして活動する。1995年に帰国してフリーの映像作家となり、テレビ番組やビデオ作品、映画など数々の作品を製作。代表作は『HIBAKUSHA 世界の終わりに』(2003年)、『六ヶ所村ラプソディー』(2006年)。新作の長編ドキュメンタリー映画『ミツバチの羽音と地球の回転』(仮題)は2009年秋に完成予定。

『ミツバチの羽音と地球の回転』
http://888earth.net/

           
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