三原康裕|第2回 映画監督 鎌仲ひとみさん×ミハラヤスヒロ(2)対談
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2015年4月28日

三原康裕|第2回 映画監督 鎌仲ひとみさん×ミハラヤスヒロ(2)対談

第2回 映画監督 鎌仲ひとみさん×ミハラヤスヒロ(2)

『HIBAKUSHA 世界の終わりに』や『六ヶ所村ラプソディー』など、社会問題に焦点を当てたドキュメンタリーを撮り続ける映画監督、鎌仲ひとみさんとの対談。サーファーでもある三原さんが身近に感じざるを得ない放射能の存在、そして行政サイドの前時代的な言い分と不透明な対応に話しは及ぶ。

写真=北原 薫まとめ=竹石安宏(シティライツ)

人ごとではない身近な被ばくの現実味

三原 僕はずっとサーフィンをやっているんですが、いつも茨城や千葉の海に出掛けるんです。六ヶ所村からの放射能がそこにも流れてくるという噂もありますが、国がいうように放射能は海で薄まっていくものなんですか?

鎌仲 ある程度薄まるのは事実だと思います。六ヶ所村の沖よりも、茨城や千葉の海のほうが放射能は低いでしょう。

人ごとではない身近な被ばくの現実味

三原 そうですか。ちょっと安心しました(笑)。

でも、海水に溶け込んだ放射性物質で内部被ばくする可能性は、ゼロではないですよね。

鎌仲 そうですが、放射能は目に見えてすぐに影響を与えるものではないので、見極めるのは難しいですね。それに放射能はたとえば100人が同じ条件で被ばくしても、個人によって影響はさまざまであり、病気になる人とならない人がいるんです。それは広島でも立証されているんですね。広島の被ばくはかなり正確な計算が可能であり、どれだけの距離でどれだけの放射線を浴びたかというデータがあるんです。それによると、同じ距離にいても死亡した人と生き残った人がおり、病気を発症した人と健康なままの人もいました。つまりほんの少しの放射能で病気になる人もいれば、たくさん浴びても元気な人もいるわけです。この一定化しないところが、放射能の分かりにくいところなんです。でも、プルトニウムは水に溶けず、泡になって空気中に舞うので、サーファーは吸い込む危険性もあるという話しを聞いたことがありますよ。

人ごとではない身近な被ばくの現実味

六ヶ所村再処理工場を知ったサーファーたちが湘南から太平洋側を北上し、その存在を他の地域のサーファーに知らせるためのツアー「WAVEMENT」を敢行。写真はそのツアーの終着地点である六ヶ所村再処理工場の正門前で撮影された。『六ヶ所村通信no.4』より。

三原 それは本当ですか?

鎌仲 核施設が近辺にあるイギリスのセラフィールドという海岸沿いの街では、部屋に溜まったホコリを掃除機で吸って検査すると、そこからプルトニウムが検出されたりしていますからね。茨城や千葉はそこよりかは少ないと思いますけど。

三原 セラフィールドの時代は放射能の排出基準がかなり低かったと聞いています。それに比べると、六ヶ所村の施設はどれくらいの放射能を排出するんでしょうか?

鎌仲 海に出す量は大分少ないと思いますよ。しかし、空気中に放出する放射能と合わせると、この2年間では実数として1880兆ベクレルが出されているので、世界でもっとも放射能を排出している施設のひとつであることは確かです。

三原 そうした排出量は減らすことができないのですか?

鎌仲 ある装置を設置すれば減らせるらしいのですが、設置すると赤字になってしまうので、導入したくないらしいんです。

三原 予算の問題なんですか。そもそも六ヶ所村の施設は国が運営しているんですか?

鎌仲 いいえ。フランスの原発はすべて国が運営していますが、日本は民間なんです。日本の場合、国が「原子力発電がいい」といい、民間の電力会社が「勝手にやっている」という状態です。原発は国策であり、支援はするが責任は取らないということ。だから六ヶ所村の施設も株式会社日本原燃が運営しているんです。

人ごとではない身近な被ばくの現実味

三原 日本原燃は国営企業ではないんですね。

鎌仲 そもそも日本に、国営の電力会社はないんです。だから、国は「事業者がやっていること」と言い逃れるし、事業者は「国策だからやっている」という。つまり、これは誰も責任を取らないシステムなんですね。

三原 『六ヶ所村ラプソディー』では、村内でも賛成派、反対派、中立派の3つに別れていましたが、実際に訪れた鎌仲さんから見て、六ヶ所村はどのように映りましたか?地元の人々が食べていくためには、再処理施設は必要な面もあるのでしょうか?

人ごとではない身近な被ばくの現実味

2006年3月に公開された『六ヶ所村ラプソディー』を観た六ヶ所村の人々が、その後どのように動きはじめているかを追ったドキュメンタリー『六ヶ所村通信no.4』。
また映画公開前にビデオレターとして制作の様子を伝えた『六ヶ所村通信』シリーズの「no.1~3」には、映画には収まりきらなかったインタビューシーンが満載され、それぞれDVDで販売されている。

鎌仲 実際には、六ヶ所村よりも厳しい現状のところはありますよ。でも、たまたま六ヶ所には核燃料の再処理に不可欠な大量の水がありました。しかも原発のような迷惑施設の計画が上がると必ず反対運動が起きますが、別の開発計画のために売ってくださいといって、地主を説得しなくても土地を事前に購入することができた。こうなると土地の権利がない農民たちには抵抗できず、漁業権をもっている漁民たちが闘ったんです。
現在青森県の平均年収は200万円であり、全国でもかなり下位のほうですが、そのなかでも六ヶ所村はさらに年収が低かった地域です。そんな六ヶ所の村民たちは、ほとんどがもともと満州や樺太の開拓を担いながらも築いた財産を戦争で失い、帰国後はここしか行き場所がなかったような人々なんです。彼らにしたら、それまでの100倍もの値段で土地を買ってくれるとなれば、売らざるを得なかったでしょう。そこにどんな施設ができるのか、彼らはほとんど理解していなかったと思います。

憤りさえ感じる行政の不透明な対応

三原 そもそも“核燃料再処理施設”という呼び名自体が、分かりにくいですよね。名前だけではエコロジカルにも聞こえかねないと思います。

鎌仲 確かにそうですね。「リサイクルです」といわれれば、それまでですから。

三原 僕も「六ヶ所村再処理施設」と最初に聞いたとき、エコロジーで経済的なイメージがありましたからね。知ってみるとそうではなかったわけですけど。でもこの施設は、六ヶ所村の人々や青森県民だけの問題ではないと思うんです。本来は日本国民全員が向き合うべき問題だと思うんですが、国や行政はなぜもっと国民に呼びかけ、対話しないのでしょうか?

鎌仲 それは大きなテーマだと思いますが、基本的には国が勝手に決めたことですからね。

三原 そこには大きな憤りを感じざるを得ませんね。

鎌仲 国は情報をガラス張りにし、国民全体に向かって自分たちがやることを説明すべきなのです。これを英語ではパブリック・コミュニケーションといいますが、日本の政府はやりません。情報の透明性にひどく欠けています。とくに原発や核に関することは、テロリストに利用される危険性があるということで、以前よりも透明性が失われてきています。この傾向は9.11以降、目に見えて顕著です。
たとえば核燃料を輸送する際、以前は通り道を周知させていましたが、現在はこっそりと運ぶようになってしまいました。日本中で電気を作るために出たゴミを、すべて六ヶ所に持って行く。それは1億2000万人の日本人全員が出したゴミなんです。それをすべて六ヶ所に押し付けているわけですが、再処理によって真っ先に汚染されるのはやはり六ヶ所です。
私はこれまで世界中の核燃料再処理工場に行っていますが、汚染されていない地域はありません。あろうことか、自国以外の地域にまで汚染が広がってしまったところもあります。イギリスのセラフィールドから出た放射能が北海にまで流れ、3回もアザラシの大量死が起きています。国はその死因をアザラシのエイズのような病気のために免疫が落ちたためで、原因は不明と説明していますけどね。

三原 そうなんですか。先ほど日本でも乳ガンが多発しているというお話がありましたが、地域的な統計なども出ているんですか?

鎌仲 日本では1996年頃から増えているのですが、地域的には北海道から東北にかけての日本海側が多くなっているというデータがあります。これは1986年に旧ソ連で起きたチェルノブイリ原発事故が原因だといわれています。当時から気象庁は飛来する放射能を計る装置を各地に設置していたのですが、'86年は通常の100倍の数値が検出されたんです。放射性セシウムという物質を計る装置なのですが、これが女性の乳腺に入り込んで突然変異を引き起こし、10年かけて乳ガンを発症させたのでしょう。
しかし、10年前のことですから、それが原因とはっきり断定することもできないんです。広島の原爆症でさえ、認められるのが難しいくらいですからね。でも、私はそういった微量な放射性物質の危険性だけを、エキセントリックに訴えたいわけではないんです。

『六ヶ所村通信no.4』という作品のなかで、岩手県のサーファーや漁民が署名を行政へ届けに行くシーンがあるのですが、そこでエネルギー庁の若い官僚が登場し、「みなさん、世の中は希釈拡散といって、毒が薄まることで成り立っているんです。排気ガス自体は危険ですが、クルマが走れるのもガスが薄まっているから。だから六ヶ所も大丈夫です」というんですよ。国の役人が堂々とです。
そういったことをやり続けてきた結果として、二酸化炭素がこれほど増え、地球温暖化を引き起こしているのがいまの時代です。つまり薄まったことで目の前からはなくなったけど、地球環境全体が汚染されてしまった。これはとても時代遅れの考えであり、グローバルな環境汚染ともいえるでしょう。

人ごとではない身近な被ばくの現実味

三原 あまりにも愚かすぎて、あきれるほどの考え方ですね。このままでは、人間は自ら引き起こした汚染によって、地球から淘汰されてしまうのではないでしょうか。いま現在も山口県に原発の建設計画があるということですが、どういった場所に建てられるんですか?

鎌仲 地形的には本土側にある細長い島の湾なのですが、海中から淡水が湧き出て特別な海藻が繁殖している海域です。そういったところを“藻場”といい、魚が集まって産卵し、稚魚が育つ生態系に不可欠な場所なんです。日本生態学会も中国電力に対して反対の声を上げています。そこは瀬戸内に残された最後の環境であり、原発によって瀬戸内海全体の生態系が破壊されかねないと警告しているんです。しかし、中国電力は「そんなことはない」と認めていません。

三原 山口県知事も埋め立てを認めたんですよね。地元の人々と行政との話し合いはなかったんですか?

鎌仲 建設予定地である上関町が町議会を開き、私も撮影に行ってきました。当日は傍聴するために250人も町人が、特に反対している祝島から集まったのですが、会場には傍聴席が20席しか用意されていなかったんです。残りの230人は「廊下でもいいから聞きたい」と詰め寄ったのですが、結局閉め出されてしまいました。さらにNHKなど他のメディアも取材に来ていたんですが、私だけ退場させられてしまったんです。

三原 行政側はまったく話をしたがっていないということですね。話し合いをしているという事実を建前上だけ繕っているように感じます。

鎌仲 祝島の人たちは、なぜ原発を建ててほしくないかといった自分たちの思いが伝わらないことに対する、フラストレーションにも苦しんでいます。その一方で着々と計画は進んでいく。建設予定地は祝島の目と鼻の先であり、居住地の真っ正面に位置しています。つまり原発を見ながら生活しなければならず、なにか事故があったときには逃げようがない場所なんです。

三原 なぜそんな場所に建設が決まったんですか?

鎌仲 上関町には情報公開条例がないんです。そういった条例がない町は日本全国で現在9つしかなく、そこを狙い撃ちしたのでしょう。地質的な条件などよりも、行政の影響力が強かったり、過疎化して収入がないような町を狙うようです。柏崎の刈羽原発だって、地質的に地盤は脆弱なんですよ。

Profile
鎌仲ひとみ

1958年富山県氷見市生まれ。早稲田大学卒業後、1984年にドキュメンタリー作品を中心に手掛ける映像制作会社のグループ現代と助監督契約。1987年には岩波映画製作所などと助監督契約を結び、1990年から文化庁芸術家海外派遣助成金を受け、カナダ国立映画製作所で3年間研修。その後ニューヨークへ渡り、メディア・アクティビストとして活動する。1995年に帰国してフリーの映像作家となり、テレビ番組やビデオ作品、映画など数々の作品を製作。代表作は『HIBAKUSHA 世界の終わりに』(2003年)、『六ヶ所村ラプソディー』(2006年)。新作の長編ドキュメンタリー映画『ミツバチの羽音と地球の回転』(仮題)は2009年秋に完成予定。

『ミツバチの羽音と地球の回転』
http://888earth.net/

           
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