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Life is Edit. #017~“昭和のにおい”を求めて in 香港
島田 明|Life is Edit.
#017 ”昭和のにおい”を求めて in 香港
ひとりのヒトとの出会いによって紡がれ、生まれるあたらしい“なにか”。
ひとつのモノによって惹きつけられ、生まれるあたらしい“なにか”。
編集者とは、まさにそんな“出会い”をつくるのが仕事。
そして人生とは、まさに編集そのもの。
──編集者、島田 明が、出会ったヒトやモノ、コトの感動を紹介します。
文=島田 明
香港をはじめて訪れたのは、かれこれ10年以上前のことでしょうか。喧噪と雑然、猥雑な匂い、そして、どこかしら“昭和的”懐かしさ漂う、そんな印象をもっていましたが、全世界を蝕むグローバリズム化の波に抗えず(率先して?)、昨今は急速に無味無臭な街になりつつあります。今回は年末恒例のNY旅行より、ちょっと嗜好を変え訪れた年末のショートトリップ、香港で立ち止まり、感じたことを。
やっぱり“アナログ”が落ち着くワタシ
今回、NY旅行をやめ、香港行きにした理由のひとつは“活気”の差、でした。間違いなく今のNYはダウナー気味でしょうし。香港は、もう少しましかな? そう思ったワケです。わたしにとって、旅で大事なのは、その街が醸し出すグルーブ感。やっぱり、いいバイブをもって日常に帰りたいですし。それがこれからはじまる一年のイロイロなことに影響してきそうな、そんな“気”がするのです。
そんなワケで、香港では、紋切型・アメリカ式でっかいショッピングモールでの買い物はソコソコに(どこも一緒で、もう退屈……)、いいバイブを発散する場を、昼に夜にウロウロ散策してきました。
まずカフェがよかったです、カフェが。
カフェとうより喫茶室、といった風情の。英語も通じないし、もちろん日本語もダメ。漢字の並びで、なんとなくオーダーしたいモノを連想して、あとは運まかせ、みたいな(笑)。いいなあ、異邦人って感じ(笑)。「美都饗室」で食した油が浮いたフレンチトーストと京都のイノダコーヒーばりの濃厚コーヒー。「海安喋琲室」の粉が沈んだメロンパン。ソフィストケイトといった言葉とは無縁の、どこか”懐かしさ”を感じさせる味と店の雰囲気は、妙な居心地のよさを感じました。そう、わたしが小学校のとき、はじめて親父に連れられ入った中野ブロードウェイの喫茶室、みたいなモロ“昭和”な感じを堪能しました。
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「美都饗室」の二階全景。夜にかけては、ここで恋人同士が愛を囁き合っている、とか。
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濃厚なコーヒーには、こんなレトロなカップがお似合い。今年は牛年、で、狙いか?
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朱赤のテーブル&チェアは、まるで木製ジャン・プルーヴェ。共産圏の赤?(笑)。
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中段右側にメロンパンが陳列。
上段には、猫が入って行き……。
ってことは鼠も?
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ジャージャー麺を食した「菱文記麺家」は、
大みそかともあって長蛇の列でした。
また食事も、洒落た東京にもあるような“いかにも”レストランには目もくれず、地元の人しか行かないようなB級グルメ系を徹底的にハシゴして(笑)。スープのドラム缶が外に出しっぱなしだわ、前に座った中国人カップルなんぞ除菌ティッシュで箸を拭きまくるわ、って有様ながら、異様な活気にあふれかえり、味もすこぶる美味、で値段もお粥いっぱい400円ナリ、と。
アートバブル in 香港
かつて香港を統治していた英国の名残と香港の古き佳き文化、それにストリートカルチャーをミックスした場所、SOHOエリアは、香港でも好きな場所のひとつです。今回、そんなエリアに大きな異変を感じました。モダンアートを扱うギャラリーの急増です。
もちろん、中国でもモダンアートがバブル状態なのは情報として入ってはいましたが、聞くと見るのとでは大違い、この急速なギャラリーの乱立ぶりには正直驚きました。しかし、どのギャラリーも、中国人の顔をモチーフにした作品が多く、わたしには正直??? 逆に、このバブルが弾けた後、この作品群の価値はどうなるのか、若干不安な気持ちに……。
他にも毛沢東モチーフだったり、人民服モチーフだったり、と一目で中国! と分かる作風がトレンド!?
毎度お参りする1840年代建立の寺院「文武廟」や兵馬楼を扱うアンティークショップを取り囲むように、中国人をモチーフにしたモダンアートのペインティングが店頭を賑々しく飾る。その若干、アンバランスな絵柄も、急成長を遂げる“何でもアリ”な中国っぽい? と思ったり。アメーバのように急速に肥大し、いろいろなモノを飲みこむ大国の尽きることなき変革への渇望をアートを通じて思い知らされた、そんなわたしでした。
左/近くには、渦巻き状のお香がモクモク焚かれた、こんな荘厳な寺院「文武廟」があったりします。 右/ソーヤホーで見つけたノベケンジ風の消化器。ほかにも赤バージョンも。わたしの目には、逆に、ストリートの何気ない部分がアートに映ったりして。
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N.ハリウッドの香港店スタッフの面々。
右からリッキー、ドン、マット、テリーそしてジェフ。
突然の訪問、そして撮影に気軽に応じてくれました。
今度は東京で、ぜひ会いましょう!
笑顔、笑顔な出会いの数かず
今回の旅でも、印象深い、さまざまな人びとと出会いました。
なかでも、一番印象に残るのが、昨年オープンした「N.ハリウッド」
香港店で働く若いスタッフたちとの出会いでした。
N.ハリウッドの尾花大輔氏をはじめ、多くの日本のスタッフと顔馴染みであるわたしは海外初出店である、この新しいお店が、どう機能しているのか、を勝手にチェックしに行ったワケでしたが(笑)、原宿店同様、秘密の“基地”感はしっかり出ていました。
そしてスタッフ全員(原宿の長髪軍団と異なり)全員短髪ではありましたが(笑)、いい意味での“ユルさ”“人懐っこさ”は、しっかり受け継がれていました。と同時に、スタッフ数人と話して感じたのは、日本=東京、そして尾花氏の服作りに対するリスペクトの度合いの高さ。これが相当なモノでして、東京に比べ、情報が少ない香港だからこそN.ハリウッドに対する、真摯な姿勢を感じたりしました。
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ホテルに帰って磨いていたら、若干削れてきて(笑)。
この翡翠は石ではなく練り翡翠だったことが判明。
でも御自らが身を削ってわたしを守ってくれている、
そんな気持ちにさせてもくれる大事なマイ「大黒様」。
それと、もうひとつ。
それは人との出会いではなく翡翠でできた「大黒様」との出会い、です。わたしの好きな場所、翡翠石のマーケット「玉器市場」で出会ったソレは、掌にすっぽりと収まる小ぶりなサイズ。多くの大黒さまが、もっと大きく荒削りなのに対し、妙にソレだけは、小さく、優しげに微笑みかかていたのです、わたしに向って(笑)。まあ、いわゆる一目ぼれ、ってやつですね。いまでは、毎日トラウザーズのポケットに毎日入れて持ち運び、わたしに幸運を届けてくれています。
幸先よく、香港で新しい年を迎えることができました。今年も、たくさんの素敵な人びとと出会えますように。今から
ワクワク、ドキドキしつつ、前に進みたいと思っています。