第39回 森山大道個展『北海道』(その3)
Lounge
2015年4月17日

第39回 森山大道個展『北海道』(その3)

ラットホールギャラリー

第39回 森山大道個展『北海道』(その3)

森山大道さんとの対談も、いよいよ3回目に突入します。森山さん自身の口から語られる当時の思い。それにより、この写真たちがなぜ30年ものあいだ封印されていたかを知ったのと同時に、封印しなければならなかったものだからこそ、いまあらためて胸に刺さるのだということを理解しました。(北村信彦)

北村信彦/HYSTERIC GLAMOURPhoto by Jamandfixedit by TAKEUCHI Toranosuke(City Writes)

来る日も来る日も足を引きずりながら、ただ撮りつづけた日々

北村 森山さんの写真はよく、犬の目線にたとえられますが、この北海道の写真は、犬の行動範囲をはるかに超えてますよね。もっとオン・ザ・ロード的なイメージをグサグサと感じます。

森山 北海道って、犬なり猫なりの嗅覚を効かせて撮るという場所じゃないんですよね。ある意味、もうちょっとドライな感じなんです。

北村 札幌を中心にいろんな場所に行かれたんですよね。

森山 道北や道東はたまに行くぐらいで、道央、道南が圧倒的に多かったですね。とにかく毎日、朝出て、夜、靴を引きずって帰ってきました。「つまんないなぁ、なにしてんだろうな俺……」って思いながら。

北村 東京から北海道に行こうと決めたときは、どんな気持ちだったんですか?

森山 自分の生活を変えたかった。東京でろくに写真も撮らずズルズルとしてた、そういう生活を断ち切りたかったんです。写真を撮る日常をつくろうなんて思ってたんですよ。

北村 3ヵ月という期間は行く前に決めてたんですか?

森山 ええ、3ヵ月しかその部屋が借りられなかったんです。

北村 気分的には、北海道に行くぞ! というのではなく、どっか別の場所に自分の身を置きたいという感じですよね。

第39回 森山大道個展『北海道』(その3)

森山 そう、ある種の逃避行動ですね。当時は理由が欲しいから“田本研造と北方写真家”みたいな写真を撮りたいとか、いろいろと理由づけるんだけど、実際は自己隔離だし自己逃避ですよね。

北村 でも、歌にしろなんにしろ、楽しいときにつくったものって、あんまりいいものじゃないですよね。それよりその人がほんとに落ち込んで、もうダメだと思ったところから出て来た言葉や歌のほうが、第三者的にはグッと来ると思うんです。

森山 そうかもしれませんね。どうだ、いいだろう!って言われてもね(笑)。

北村 俺の人生こんなに楽しいんだぞ! なんて歌、ただのパーティソングでしかないですよ。音楽でいえば、僕は中学のころから洋楽一辺倒で、海外の音ばかりを聴いてたんですが、ここ数ヵ月どういうわけか日本語の歌しか聴けなくなっちゃったんです。最近の洋楽の“ぬるさ”がどうにも受けつけられなくて、なにを聴いていいのかわからない。そこで、そういえば自分の国のロックの歴史をなんにも知らなかったなと思って、1968年から70年代半ばぐらいのフォークやニューロックといわれる日本語の歌を聴きはじめたんです。そうすると、最初は照れくさいんですが、だんだんそれがよくなってくる。やっぱり僕らは普段、日本語で怒ったり泣いたりしてるわけだから、日本語のほうがジンとくるな、と思えちゃったんです。そうしたら、ロックとかフォークとか演歌とか、そういうジャンルの囲いもとれちゃって(笑)。でも、考えてみると、そういう歌だって、実際には学生運動をはじめ、つらい体験のなかから生まれてるんですよね。

北海道を出すならヒステリックで、となんとなく感じていた

──そこが森山さんの「北海道」にも通ずるところなんですね

北村 それよりもなによりも、そもそも写真だって、昔の僕は海外一辺倒。それが90年代頭にはじめて森山さんの写真を見たことで、ああ、日本もこんなにカッコよく写るんだと気づかされましたから。

森山 じつはちょっと前から僕も、チラッチラッとフィルムの詰まったダンボールが目の端に入るたび、本をつくるんならヒステリックでと、なんとなく思ってたんですよ。

──どうしてそういう感じがしたんですか?

森山 やっぱり、一番最初に出していただいた400ページのあの本の印象がものすごく残ってたんです。あれをつくるときに感じた僕なりの快感、そして自分のなかでの変革の感触がずっとあったので、そう思ったんでしょうね。やっぱり、今回声をかけてもらえなかったら出さなかったでしょう。とにかくいいタイミングでした。

──見る人にとってもいいタイミングだったと思います。「ハワイ」や「ブエノスアイレス」を見た人がこれを見ると、また新たな衝撃を受けると思いますし、逆に森山さんらしさを再認識できるような気もします

森山 そうだといいんですが。自分でいうのも変ですけど、こうしてプリントになったものを見ると、やっぱりここにいまの僕の原点みたいなものがあったんだなぁと、改めて感じます。あと、これも自分でいうのはなんですが、こんなに撮ってたんだ、と思いましたね。当時はただショボショボ撮ってるだけで、撮ってて手応えもないし、なんて思ってましたけど。

北村 そう考えると銀塩のすごさを感じますね。フィルムじゃないとこんなことできないでしょう。デジタルでは30年放っておかないだろうし、仮に残しておいたところで、なんかちがうものになっちゃう気がします。

森山 銀塩とデジタルの決定的なちがいというのは、やっぱり物質感のあるなしでしょうね。プリントするときの物質感もあるし、フィルム自体の物資感もある。ネガの入ったダンボールを横目で見るのも物質感ですよね。

北村 よく銀塩とデジタルを比較して語ったりしますが、まったく別のものであって比較するものじゃないですよね。だからこそ、私写真としての銀塩はずっと残っていってもらいたいですね。

第39回 森山大道個展『北海道』(その3)

森山大道個展『北海道』
2009年2月8日(日)まで開催中
ラットホールギャラリー
12:00-20:00(月曜休)

RAT HOLE GALLERY & BOOKS
東京都港区南青山5-5-3-B1
Tel. 03-6419-3581
http://www.ratholegallery.com

           
Photo Gallery